ミャンマー訪問から~大きく変化する国とその経済成長~

2017年11月6日
本年10月13日から16日、ミャンマー連邦共和国の首都ネピードー市に行った。ミャンマーには2年前、ヤンゴン市にも行っているので、二度目の訪問である。日本企業の現地展開などからも注目される存在であるミャンマーの現況を見てみたいという思いもつよかった。
 本年10月13日から16日、ミャンマー連邦共和国の首都ネピードー市に行った。ミャンマーには2年前、ヤンゴン市にも行っているので、二度目の訪問である。

 今回の機会は、ネピードー市で開催されたACSBアジア中小企業協議会の第5回大会に参加するためであった。ACSBはICSB国際中小企業協議会(本部、米国ワシントンDC)の地域組織で、2012年秋に韓国ソウル市で創立大会が開かれている。以来、ソウル(二回)、マレーシアミリ市、インドネシア・ジャカルタ市で年次大会を開催してきている。

 ICSBは創立以来60年以上の歴史を重ねた国際組織で、なかば国際学会的であるが、「研究者、政策立案者、実践者、教育者の組織」という位置づけを持ち、各年度大会毎に、研究発表やシンポジウム、政策フォーラム、ビジネスマッチング、若手セミナーなどの行事を開催し、活発な活動を行っている。ACSB同様の欧州組織ECSBは大きな権威ある存在であり、またICSBは昨年、国連のNGO組織に認定された。

ACSBは「ICSB/国際中小企業協議会」の地域組織で、2012年秋に韓国ソウル市で創立大会が開かれて以来、ソウル(二回)、マレーシアミリ市、インドネシア・ジャカルタ市で年次大会を開催

 私はこのICSBに加入する日本支部組織・JICSB中小企業研究国際協議会日本委員会の委員長を務めてきているので、今回もそうした職責からの参加であった。同時に、2年前の訪問以来、日本企業の現地展開などからも注目される存在であるミャンマーの現況を見てみたいという思いもつよかった。

 ミャンマー自体は、現在人口6200万人、国土面積は67万8500平方キロあるので、日本の倍近くの国土に約半分の人口ということになる。しかし現在の年間国民所得は約1,300USドル(15万円足らず)だから、まだまだ経済発展は遅れている。長く軍政下での鎖国と独自の「社会主義体制」を敷いてきたが、近年経済の自由化、市場開放、さらに政治的民主化がすすみ、ようやくASEAN諸国の実質的な仲間入りができているという印象である。石油、天然ガスを産し、また米や農産物、木材などを輸出するという、発展途上経済の姿を未だ出ていないが、豊富な人口と土地を手がかりに、いま外国資本の誘致に非常に力を入れている。政権移行を境にひとの行き来促進にも努め、2年前には大使館で並んで、入国ビザを申請しなければならなかったが、いまはweb上でeVisaを容易に取得できる。

 首都ネピードーは、11年前に国策でヤンゴンから遷都されたまったくの人工都市で、こうした機会でもなければ、私も訪れることもなかっただろう。ともかく、ひとと車の溢れる500万都市ヤンゴンとは対照的に、正直「なにもない荒野」という印象である。そのあちこちに、政府機関建物や関係者の住宅、今回の大会のあったMICC国際会議場、さらにはホテルなどが点在しているとしか表現できなく、唯一道路だけは非常に立派で、中心部の国会議事堂前などは片側10車線というすごさである。そこをまばらに、乗用車やバイクが走っている。ともかく、有り体に言えば、「コンパクトシティ」のイメージの真逆なのである。なぜかホテルだけはやたらにたくさんあるが、政府・行政関係者やこうした国際会議などの機会に訪れるほか、なんの観光資源もないに等しい。唯一観光向けなのはゴルフ場で、市内のあちこちにある印象だった。

 ヤンゴンが大変な交通渋滞と電力不足に悩まされているのとは対照的に、電力供給は十分で、道路は立派に夜間照明されている。ホテルはもちろんエアコン完備、wifiも首尾よくつながる。一昨年のACSB大会のあったマレーシア・サラワク州ミリ市では、立派な大型ホテルが会場でもあったが、客室でのwifi接続は非常に心許なかったので、そうしたところはたいしたものである。もっとも、さかんに「インターネット時代、IoT時代のビジネスチャンス」が語られたACSB会場のMICCでは、壁に「Free Wifi」と貼られていたが、まったくダメで、会場係員も首を振るだけだった。

 肝心のACSB第五回大会の方は、きわめて政治色行政色の濃いものだった。それはミャンマーの現在の課題を示しているだけでなく、今大会は本来オーストラリアの開催が予定されていながら、これが返上され、急遽ミャンマーが手を上げたという経緯もからんでいる。だから、ICSBの4つの柱で言えば、政策立案者、実践者(企業経営者や行政関係者を含め)、教育者に傾斜し、研究者の存在は影が薄かったとせざるを得ない。ACSB現会長のヘルマワン・カヤトラ氏(インドネシア)自身は、マーケティングの研究者であるが、教育者、実践専門家としての立場がぬきんでていることもある。会長挨拶ののちの基調演説には、政府計画財政省のウィンストン・セト・アウン氏が立ったのをはじめ、行政関係者、企業経営者、諸団体、さらにはアジア開銀などの国際援助機関の登壇が目立った。2年前の、ヤンゴンでのミャンマー中小企業投資セミナーの際もそうだったが、いま政府をあげて、市場経済活性化に向けた直接投資の誘致とともに、国内での中小企業の創業と発展につよい期待を抱いている。会場では、アジア開銀の援助でつくられた「私営部門発展のための枠組みと行動計画」文書が参加者全員に配布されていた。

「ILA/国際リーダーシップ教育アカデミー」のリチャード・デア氏が語ったのは「仏教と企業家精神」について。仏教的な倫理が、企業経営に生かされるという前提認識自体の持って行きようが新鮮だ

 会議の主催団体として、また運営組織として諸事を担っていたのは、ICSBミャンマー副委員長でILA国際リーダーシップ教育アカデミーのリチャード・デア氏である。ILAはネピードーに本拠を置くビジネススクールで、MBAからドクターコースまでも持つ大学院大学と言ってよい(「University」の名は貰っていないが)。リチャード氏は会議裏方から多くのスピーチ、コーディネータまで、八面六臂の大活躍だった。実は同氏は米国で教育を受けたのち、20年近く日本で企業経営に従事していたという。日本の事情には十分通じているそうで、たとえばトヨタ生産方式を、大企業を軸にしながら中小企業のイノベーション力を最大限生かす仕組みと紹介していた。
 リチャード・デア氏らの大きな関心事は、「仏教と企業家精神」であった。同じ仏教国であるはずの日本ではおよそ聞いたこともない問題意識だが、この国にあっては、仏教的な倫理が、企業経営に生かされるという前提認識自体の持って行きようがおよそ新鮮である。ものごとをたやすく信じるな、よく見、聞き、読み、そして、そのうえでよきことと確信を持ってあたれるのであれば、「おのれの道を究めよ」という、進取実行の精神が釈迦の教えなのだという。

 他方また、民主化を実現し、アウンサンスーチー大統領顧問を頂くいまのミャンマーはまさしく「変化」のまっただ中であるということも強調された。その中で、中小企業者の新しい世代が誕生している、伝統と文化と信仰と、世界経済の新しい波と、ICT、インターネット、フィンテック、ケータイ・スマホ普及等々、あらゆる可能性を与える事業環境のもとで、「後発の優位」を発揮しようではないかというスピーチの数々は印象的だった。現在のミャンマーは年7%以上の経済成長を実現しているのだから。

 リチャード氏は中小企業の果たす雇用機会創出、イノベーション推進、社会の安定性確保という使命を強調しながら、また上記のように日本の経験に学ぶということも繰り返し述べていた。歴史的には日本との人的関係も深く、日本の援助や投資につよい期待を抱くミャンマーならではである。同時にリチャード氏らのあげるミャンマーの問題点は、ヤンゴンでも痛感されたインフラ不足、制度未整備などにとどまらず、国民の教育水準にあるという。いまだ義務教育4年制である限界、高等教育の不十分さなどを克服せねばならないと。

 今回のACSB大会に参加したのは、ミャンマーのほか、韓国、インドネシア、マレーシア、シンガポール、中国、台湾、タイ、ベトナム、ラオス、バングラデシュ、インド、オーストラリア及び日本などで、多かったとは言えない。ACSB組織自体もまだ発展途上建設途上でもある。それでも、アジアの時代の胎動はここにも確実に及んでいることを実感させてくれる。

 しかしまた、今回に限らずこうしたアジアでの開催のたびに疑問となるのは、そこで語られる「中小企業」(SME)とは、政府の公認と支持を受けた、時代をとらえる成長企業の姿とイコールになっており、実体経済を支える圧倒的多数のマイクロ企業・家族経営はほとんど視野に入っていないという傾向である。このネピードー訪問に際しても、会議場とホテルとをタクシーで往復するだけ、荒野のなかを疾走するだけではあまりに寂しいので、半日タクシーをチャーターして、仏教寺院や公園などもう少し「見られる」ところをめぐった。その一つは、おそらくネピードー市にのちに統合された、小さな村の市場と露店屋台群だった。何百年来続くような小商店や露店に豊富な魚、肉、野菜、果実や花卉、雑貨、調理器具、衣類などが並び、多くの人で活況を呈している。周りにはバイクやケータイの修理工場や飲食店も数々ある。文字通り「生きた」経済と暮らしの実像がそこにある。市場から車で5分ほどのところには近代的なショッピングセンタービルが建ち、大手スーパーが入って華やいだ雰囲気にある。こうした、いま生きている、動いている企業の姿と、そこで働く人々の現実を反映した、中小企業の経営や政策をめぐる議論も必要ではないのか。

小さな村の市場と露店屋台群では、何百年来続くような小商店や露店に豊富な魚、肉、野菜、果実や花卉、雑貨、調理器具、衣類などが並び、多くの人で活況を呈している。いま生きている企業の姿と、そこで働く人々の現実を反映した、中小企業の経営や政策をめぐる議論も必要だろう

ミャンマーの首都ネピードー市で開催された「ACSB/アジア中小企業協議会」の第5回大会。画面にはアウンサンスーチー大統領顧問からのメッセージも

 なお、今回のACSB大会のなかで開かれた理事会で正式承認されたが、ACSB第6回大会は2018年9月10~13日、東京で開催される。いっそう活発な発表と交流、発展の機会になることを期さねばならない。

 このようなミャンマーの生きた姿の一方で、日本などでは「ロヒンギャ難民問題」ばかりが大きく報道され、いまや国をあげて混乱と紛争のまっただ中にあるかのような印象が広まっている。私も今回の訪問前後に、「ミャンマーに行く」と話すと、判で押したように「大変なところですね」「危ないんじゃないですか」と言われた。あまりの印象操作と言うしかないが、たしかにロヒンギャ問題は大きな社会課題であり、これに限らずミャンマーは多くの少数民族との国内紛争を抱え、その解決に苦心してきたところである。その一方、インドイスラム系のロヒンギャと呼ばれるひとたちの存在から目をそらしてきた過去も否定できないし、迫害・難民化の事実もある。しかし、それをもって掌を返したかのようなミャンマー国民民主連盟(NLD)政権とアウンサンスーチー氏への非難攻撃には、驚くしかない。世界中で深刻化している、難民移民問題や民族紛争に自ら手をこまねいているなかでの「憂さ晴らし」にしか思えない傾向もある。

 一つだけ申せば、ロヒンギャ問題というのは、バングラデシュと国境を接する西南部ラカイン州の事態であって、どこも「危なく」はない。また、「国際社会」の非難の合唱に耳をふさいでいるわけでもなく、「ロヒンギャ問題」はごく普通に国内報道されていた。


 2015年のヤンゴン訪問記と日本企業の動向については以下を参照されたい。「http://www.asahi-net.or.jp/~MQ7I-MTI/talk40.html

●関連リンク

執筆者: 三井逸友 - 
嘉悦大学 大学院 ビジネス創造研究科 研究科長 慶應義塾大学経済学部 大学院を修了後、駒澤大学、横浜国立大学に勤務(横浜国立大学名誉教授)。嘉悦大学には大学院発展のために赴任し、2015年4月に研究科長に就任する。日本中小企業学会の常任理事で、07年から約3年間に渡り同会長を務める。主な著作に『中小企業政策と「中小企業憲章」』『21世紀中小企業の発展過程』がある。

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