【HJ HJ EYE:6】中小企業のメッカ、ここにあり。

2016年9月28日
HANJO HANJO編集部が中小企業のビジネスに関わるキーパーソンに、中小企業の現在を問う「HJ HJ EYE」。今回は墨田区で金属加工を営み、産学連携やベンチャー企業との協業などにも積極的に取り組む浜野製作所 代表取締役 浜野慶一さんに、中小の製造業の未来について話を伺った。

■モノづくりの伝承が人を集め、新たなビジネスを生む

――浜野製作所のある墨田区は中小企業のメッカである一方、家族経営のような小さな事業者は衰退期にはいっているという話も耳にします。いま墨田区の企業はどのような状況にあるのでしょうか?

浜野 高度経済成長期には約1万社弱あった町工場も、今では約2800社と1/3以下になってしまいました。高度な技術を持つ町工場や職人、そしてその心意気が日を追うごとに町から消えていくのを感じています。町工場というのはIT・ソフト産業などとは違い、土地や建物、機械をそろえるために初期投資がかかりますから、仮に景気が回復しても次々と創業するようなことはあり得ません。

 中小の町工場が培ってきた基盤技術は、先人から引き継いできたものです。我々が生き残っていくことも含めて、次の世代に引き継いでいく義務があるのではないか、そんな思いで仕事を続けています。

浜野製作所 代表取締役 浜野慶一さん

――浜野さんが14年に立ち上げた「Garage Sumida(ガレージスミダ)」は、モノづくり総合支援施設として個人や企業の製品開発をサポートしています。技術を引き継いでいくということを、すでに実行に移しているわけですね。

浜野 いくらでも仕事があった高度経済成長期とは時代が変わってしまいました。町工場では多くの場合、営業は社長ひとりしかいません。優れた技術があっても、それをうまく発信できない町工場は先細りになってしまいます。

 ガレージスミダに人が集まれば、そこからアイデアやマーケットがつながり、新しいサービスを創出できます。技術を伝えるということに加えて、そこに人が集まることで生まれる情報発信も、施設の大きな役割だと考えています。

――ガレージスミダを利用したベンチャー企業の方が、「ここにはモノがつくれるという以上のことがある」という話をしていました。製造という匠の技の蓄積だけでなく、そこから発せられるノウハウやアドバイスには、新たなビジネスの種があるように思います。

浜野 おっしゃる通りです。ただ、ボランティアでは長続きしないので、そこには何らかの仕組みが必要です。

浜野製作所にはガレージを含む全4棟の建物があり、それぞれ板金、プレス金型、品質管理・組立を行っている

■下請け体質から脱却し、モノづくりの上流をつかむ

――製造業は自分の領域だけで収まってしまうと縮んでいくばかりです。事業者どうしが「つながること」が重要になってきます。浜野製作所がガレージスミダを通して行なっている挑戦はまさにその体現だと思いますが、このような取り組みを行なうきっかけはなんだったのでしょうか?

浜野 かつてこのあたりでは繁忙期になると3軒先のメッキ屋さんに飛び込んで、「社長、すまないが大至急で仕事を頼めないか」と頼み込むような、持ちつ持たれつの関係がありました。モノづくりというのは商店街といっしょで、肉や野菜といった晩御飯の材料がすべてそろう利便性がなければ、客はスーパーに取られてしまいます。数が減っていく町工場を眺めているうちに、それらが自分の事業にも深く関わっていて、ともに生き残っていく必要があると考えるようになりました。

――浜野製作所ではベンチャー企業の開発支援も行なっています。これには、どのような意図が込められているのでしょうか?

浜野 我々のテーマのひとつに下請け体質からの脱却があります。メーカーが図面を引いて、仕様を決めている限り、町工場には品質や納期、コストなどの決定権がありません。浜野製作所がスタートアップベンチャーの入居を募集している理由のひとつは、その状況を改善することにあります。設計や製造、事業計画を含めてアドバイスをすることが、適切な納期やコスト削減につながっていきます。

 一方で、彼らも我々のアドバイスを元に不要な部品や工程を省略したり、製造時のミスを予防でき、いち早くプロダクトを世に送り出すことができます。モノづくりは図面通りにつくったからといって、必ずしも正しい動作をするものではありません。その理由を探しているうちに、開発期間はどんどん伸びてしまいます。

浜野さんは93年に代表取締役に就任。以降、IT経営実践認定企業やおもてなし経営企業に選定されるなど、さまざまな革新的な取り組みを手掛けてきた

――製造業の現場にいるからこそ、モノづくり全体を見渡すことができるんですね。墨田区の町工場が世界を相手にするベンチャー企業を支え、新たなモノづくりが生まれていくかと思うとワクワクします。

浜野 シリコンバレーの役割を、墨田区の町工場でも果たせるのではないかと考えています。その一環として積極的に参加しているのが、全国各地で行なわれているビジネスプランのコンテストです。先日はシンガポールで開催されたコンテストで審査員を務めました。優勝者には「そのプランをいっしょにやらないか?」と声をかけ、そこから彼らのインキュベーションを手掛けることもあるわけです。

■産学連携が生む、得難い教育訓練

――浜野製作所というと、産学連携の取り組みも注目されています。電気自動車「HOKUSAI」、深海シャトルビークル「江戸っ子1号」といった具体的な成果を出すなど、事業の中でも大きなポジションを占めているように見えます。

浜野 実際のところ我々は産学連携で開発した製品を、そのまま事業の柱にしようとは考えていません。そもそも電気自動車は大手が競合になりますし、事故があったら補償もできないでしょう。産学連携の開発に参加したいちばんの理由は教育訓練です。業界も年齢も違う人と油まみれになって何かを生み出すことは、一生忘れない経験になります。

――大学と協力した教育訓練というと、まず思い浮かべるのがインターンシップです。浜野製作所でも受け入れを行なっていますが、こちらは成果を出しているのでしょうか?

浜野 一橋大学の関満博教授が以前から墨田区の産業振興に携わっていて、あるイベントで知り合ったことが、私が大学との関わりの始まりです。そのときから一橋大学の学生をインターンシップとして受け入れています。ある年のことです。彼らは“ネットを使って売り上げを倍増させる”というレポートを書いてきました。しかし半分は何かを引用しただけのもので、浜野製作所の営業が何をしているかを調べていないわけです。これではダメだと、「ネットで情報を調べるのもいいけれど、最初にやるべきなのは現状調査だろう」と私が諭したわけです。

――頭でっかちな反発が予想されますが……。

浜野 いえいえ、彼らは変にガッツがあるんですよね。「営業に同行させてください!」と、向こうから言ってきました。

――その反応は、浜野さんにとってうれしい驚きだったのではないですか?

浜野 しめしめ、という感じですね。とはいえ、そう何度も社員に同行させるわけにもいきません。ただ、学生の姿を見ていたある会社の副社長が、うちに仕事を出すように内々に指示を出してくれました。結果的に、学生が浜野製作所の営業マンになったわけです。

――インターンの大学生が営業マンとして機能したわけですね。いまどき珍しい話かもしれません。

浜野 先ほどの副社長は社内でこう話したそうです。「我々には長い付き合いのある取引先があるが、その多くは社長も従業員も高齢で後継者も育っていない。そんななか、一橋大学の学生が営業に来るような会社に仕事を出さなかったら、これからいったいどこと付き合えばいいんだ」と。

 その会社とは最初は1万円程度のお仕事から始まりましたが、今でも取引は続いています。その後、インターンをしていた一橋の学生は浜野製作所に就職しました。今でも毎年ひとり、ふたりはインターンの子がうちに入りたいと言ってくれます。求人募集に何十万も支払うよりは、よほど良い投資だと思いますね。

全国各地の学校からインターンを積極的に受け入れ。若手社員をリーダーにプロジェクトの試作を任せるなど、実践的な業務を体験させている

<Profile>
浜野慶一(はまのけいいち)さん
84年に東海大学政治経済学部を卒業し、同年に板橋区の精密板金加工メーカーに就職。93年創業者の跡を継ぎ、2代目として浜野製作所代表取締役に就任する。02年に一橋大学・関満博教授の協力のもとで産学官連携センターを設立し、電気自動車 「HOKUSAI」、深海探査艇「江戸っ子一号」などの開発を手掛ける。経済産業省・文部科学省の産学人材育成パートナーシップ経営管理人材分科会委員、東京商工会議所墨田支部副会長などを兼任。

■ 取材を終えて

ものづくりの町として、そして小規模な企業が集まる町として発展してきた東京都墨田区。その町で長年、中小企業の価値とプライドの向上を進めてきた中心人物が浜野さんだ。下請け仕事からの脱却、若者らの人材確保、スタートアップ支援やインキュベーション事業、産学官連携、海外との交流・・・、枚挙にいとまがないほどの活動からは、まさに獅子奮迅の経営者の姿が浮かび上がる。浜野製作所を訪れてわかるのは、社員すべてに温かな人間性を感じることだ。帰り際、門口に立ち、私たち取材陣の姿が見えなくなるまで見送ってくれた浜野さん。「人は宝」とは中小企業を語る際によく使われる言葉だが、原石を磨き上げる経営者がいて初めて社員は宝になるのだという感慨が、自然とわいてきた。

●関連リンク

執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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