~HJ HJ EYE:5~シェアリングエコノミーはビジネスをどう変えるのか?

2016年8月29日
HANJO HANJO編集部が中小企業のビジネスに関わるキーパーソンに、中小企業の現在を問う「HJ HJ EYE」。第5回は、次代の経済として注目されている「シェアリングエコノミー」について、株式会社スペースマーケット代表取締役の重松大輔さんに話を聞く。中小企業にとってのシェアリングエコノミーの可能性とは? 「Airbnb(エアビーアンドビー)」の次に来るビジネスとは?

■スマートフォンの普及で成長した「シェアリングエコノミー」

――14年4月にオープンした「スペースマーケット」は、企業や個人が所有する遊休スペースを活用すべく、場所を貸したい人と借りたい人のマッチングサービスとして大きく成長しています。個人所有の物件を宿泊施設として貸し出す「Airbnb(エアビーアンドビー)」、空いているハイヤーを配車する「Uber(ウーバー)」などと並び、こうしたサービスは「シェアリングエコノミー」と呼ばれていますが、まずシェアリングエコノミーの定義について詳細を教えてください。

重松 シェアリングエコノミーは、場所、乗り物、モノ、人、お金などさまざまな領域において、空いているリソースをインターネット上のプラットフォームを介して、個人間で貸借や売買、交換し、シェアしていく新しい経済の動きのことをいいます。たとえば、「場所」であれば、弊社が運営する「スペースマーケット」のように、使っていない会議室を時間あたりで貸し出すサービスや、他にも駐車場や農地を貸し出すサービスがありますし、「乗り物」はカーシェア、ライドシェア、「モノ」はフリマやレンタルサービス、「人」は家事代行、「お金」はクラウドファンディングなどがあります。15年度の国内シェアリングエコノミー市場規模は、前年度比22.4%増の285億円(サービス提供事業者売上高ベース、矢野経済研究所調べ)にのぼり、今最も勢いのある分野のひとつとして注目されています。

スペースマーケット代表取締役 重松大輔さん

――シェアする対象は有形、無形を問わないわけですね。貸し借りの過程においては「インターネットを介する」という点もポイントのようですが。

重松 おっしゃる通りです。これまでは、個人が何を所有しているのか、いちいち電話などで問い合わせなければわかりませんでした。インターネットのプラットフォームがあるからこそ、遊休リソースの可視化が行われ、貸したい人と借りたい人がダイレクトにつながることができます。そこで必要となってくるコミュニケーション機能、レーティング(評価)、個人認証、決済、保険などプラットフォームをご用意するのが、我々のような企業です。

――シェアリングエコノミーに必要なプラットフォームを提供するビジネスは、いつごろ始まったのでしょうか。

重松 08年に「Airbnb」、09年に「Uber」が、ともにアメリカ・サンフランシスコで創業しました。顕在化してきたのはその頃です。この2社が登場した背景には、まずスマートフォンの普及があります。iPhoneが登場したのが07年、世界各地で発売されたのは08年。それまでインターネットの利用にはパソコンを使っていましたが、パソコンはいちいち立ち上げなければならず、インターネットに触れている時間は限られていました。スマートフォンの登場により、たくさんの人が常時ネットにつながっている状況になりました。

 また、「Facebook」や、アメリカではビジネスパーソン向けの「LinkedIn(リンクトイン)」などソーシャル・ネットワークが普及し、個人の特定が容易になったこともシェアリングエコノミーが発展する後押しとなったといえます。

■モノは所有しない――若者の購買意識が転換

――そうしたベースの上で、14年に御社が設立されたわけですが、ネットを介して他人と自分の所有物をシェアするという感覚は日本にはなじみにくいようにも思われます。シェアリングエコノミーが日本でも需要があるという確信を得た理由を教えてください。

重松 私が起業した時点では、すでにCtoCとしてネットオークションが確立していました。99年に「Yahoo!オークション(現・ヤフオク!)」や「ビッダーズ」などのオークションサービスが登場し、当初はいろいろとトラブルがあったと言われていますが、その後、「Amazon」や「楽天市場」などECが成長するとともに、ネットを介した個人間の取引もハードルが下がり、当たり前のように行われる時代になりました。

 さらに、「シェアする」ことの抵抗感も、すでにシェアリングエコノミーの成功例があり、払拭されていました。たとえば、13年7月にオープンしたフリマアプリの「メルカリ」。デジタルネイティブのミレニアム世代に圧倒的な人気を誇ります。彼らは、見知らぬ誰かが使用したものでも「お得」と抵抗なく買いますし、それだけでなく売ることにも躊躇がない。メルカリの利用者は、初めは購入から入っても、やがて売ることを前提に買うようになるそうです。すなわちメルカリは一企業として大きく成長しただけでなく購買に対する意識も変えました。たとえばゲームソフトを定価の半額で購入し、使って飽きたらその半額で売る、それを買った人がまた半額で売る……ということを繰り返していけば、結果的には、モノを所有するために買うのではなく、シェアしてその利用料を支払っているような形になります。

 こうした下地があり、モノのシェアの次に何がくるかと考えたときに、スペースも気軽に出品したり借りたりしてシェアする流れになるだろうと考えました。現在、国内には活用されていない空き家が総住宅数の約15%にのぼるというデータがあります。不動産の有効活用の需要は高まっています。

――なるほど、若者を中心に購買や所有の概念そのものが変化しているわけですね。となると、今後はますますシェアリングエコノミーが伸びてくると予測されます。シェアリングエコノミーに脅かされる既存産業も出てくるのではないでしょうか。

重松 すでにアメリカ・サンフランシスコでは、Uberの成長によって車を持たない人が増加し、維持費や日常の交通費が大きく圧縮され、生活が大きく変わり、従来のタクシー会社は危機感を強めています。ネット企業が車を持たずしてタクシー会社を食ってしまうとは、Uber登場前は想像できなかったことです。こうした、まったく異なるビジネスモデルの企業の参入によって、従来の業界が破壊される現象のことを「ウーバライゼーション(Uber症候群)」と呼びます。

 スペースマーケットの例でいえば、自宅を改造した簡易な写真スタジオなどが従来の写真スタジオに代わって伸びているようです。従来のスタジオは設備やサービスが整っている分、レンタル料が高額。「設備やサービスよりも、できるだけ安く借りたい」というユーザーにとってみれば、弊サイトにより選択肢が広がったといえます。自宅スタジオのオーナーさんは素人です。しかし、何度も貸すことで時に厳しいアドバイスを受け磨かれていき、気づいたらプロに、ということありえます。オーナーのノウハウもオープンソース化され、従来の業者による囲い込みはできない時代になっているのです。

日本で始まったばかりのシェアリングエコノミーを牽引する重松さん。シェアリングエコノミー協会の代表理事も務める

――シェアリングエコノミーによって脅かされる企業がある一方で、逆に、アイデア次第では異業種から新たに参入する余地もまだ大きいのではないかと思われます。今後、中小企業が参入するには、どのようなことに気をつければいいですか。

重松 実際にいろいろなサイトを使ってみることがいちばんです。利用者目線の感覚を持たずに、新しいサービスは生まれません。使ってみて初めて「こんなサービスがあれば」「こういう需要もあるだろう」と気付かされることが多々あるでしょう。会社でふだん使っていない部屋があれば、スペースマーケットで貸し出してみてはいかがでしょうか。思った以上に「借りたい」というユーザーがいることがわかるはずです。これからは人材もシェアすることで、“9時~5時”といった働き方も変わるとみられています。旧態依然としたビジネスや会社のあり方では、シェアリングエコノミーに取って代わられてしまいます。

■人材をシェアすることで社会課題の解決の糸口にも

――スペースマーケットを運営しているなかで、改めて「日本ではこういうサービスが求められているということがわかった」という点はありますか。また、今後の目標について教えてください。

重松 弊サイトには、一般的な会議室はもちろん、球場やお寺、教会、無人島などまで多種多様なスペースが登録されていますが、一般的な会社の会議室より、内装に凝ったおしゃれなスペースが求められていることがわかりました。また、意外にも古民家も「落ち着く」と好評で、たとえば町田市にある古民家は月40万円ほど賃貸収入があるようです。オープン当初は新宿や渋谷などの巨大なターミナル駅近くの物件に利用者が集中すると思っていたのですが、実際には山手線・大塚駅など少し離れた駅にも充分需要があることも意外でしたね。今のところ登録スペースの8割以上が都内ですが、他の地域も徐々に増えてきています。平均賃料は1時間1500円程度で、オーナーからは成約金の30%、ユーザーからはサービス料5%いただいていますが、売り上げは個人・法人で半々。登録件数は個人オーナー7・法人オーナー3となっています。収益は毎月110~120%ずつ伸びており、20年までに、現在の取り扱い件数約8000件から5万件を目指しています。

――シェアリングエコノミーの法的な整備やトラブルの対策、業界の健全な発展をめざし、16年1月に社団法人「シェアリングエコノミー協会」が設立されました。重松さんはその代表理事を、株式会社ガイアックスの上田祐司さんとともに務めていらっしゃいます。すでに会員は100社を超えたそうですね。今後、業界内で注目されているジャンルはなんでしょうか。

重松 介護です。今後ますます需要が増大する分野でありながら、ヘルパーの長時間労働、低賃金、離職率の高さなど改善すべき点も多い分野でもあります。そこでUberのヘルパー版のように、利用者のニーズに合わせて、地域で手の空いている人材がスポット的に介助が行えるような仕組みがあれば、解消される問題も多いのではないかと考えています。

――確かに介護離職も問題化されている昨今、介護は解決すべき重要課題です。そう考えると「シェアリングエコノミー」は一過性のビジネストレンドにとどまらず、私たちの暮らし、社会を大きく変える可能性を含んでいますね。

重松 こうした社会的な課題は、ありとあらゆる手段を使って早急に解決すべきです。シェアリングエコノミーはその解決の糸口となりうる。7月には内閣官房IT総合戦略室長のもと「第1回シェアリングエコノミー検討会」が開催され、シェアリングエコノミー協会もプレゼンテーションを行いました。成長の可能性は計り知れません。ラーニング・バイ・ドゥーイング、実践しながら学んでいく。それに尽きると考えています。

14年4月にオープンした「スペースマーケット」は、企業や個人が所有する遊休スペースを活用、場所を貸したい人と借りたい人のマッチングサービスとして大きく成長している

<Profile>
重松大輔(しげまつだいすけ)さん
株式会社スペースマーケット 代表取締役
76年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒業。00年NTT東日本入社。06年フォトクリエイトに参画。ウェディング事業をゼロから立ち上げ、全国で年間約3万組の結婚披露宴で導入されるサービスに成長させる。14年スペースマーケットを創業し、スペースレンタルマッチングプラットフォーム「スペースマーケット」を運営。シェアリングエコノミー協会の代表理事も務める。

■ 取材を終えて

6月に発表された政府による新成長戦略のひとつ、シェアリングエコノミー(共有型経済)。宿泊サービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」の上陸で、日本でもいよいよビジネスモードに移行しそうな気配だ。それはAirbnbのようなCtoCだけでなく、BtoBの領域でも大きな変革をもたらす可能性がある。たとえば工場をシェアすることを考えてみよう。生産設備に刻み込まれた加工や生産管理のノウハウを伝えることは、それ自体で新たなサービスとなりえるはずだ。そこに新たなビジネスモデルをみつけることはさほど困難なことではないだろう。「私有」と「公有」の間にある「共有」。近代以降、明確に区分されてきた2つの所有の間に存在する「共有」の意識がいま、求められている。企業の規模やジャンルにかかわらず、低成長時代を乗り越えるための“もうひとつの”経済のあり方と言えるだろう。

●関連リンク

執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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