■ニュース深掘り!■DMOの課題は予算、その対応は?

2016年8月26日
地域の観光事業を取りまとめるDMO。彼らの運用や設立に役立てるために、観光庁は観光協会などを対象にアンケート調査「国内外の観光地域づくり体制に関する調査業務の報告書」を実施。その結果を16年7月に発表した。そこで、最も大きな課題として挙げられていたのが「予算」の不足だ。
 DMOは観光の目的地(Destination)を管理(Management)、かつ販促(Marketing)する組織(Organization)のこと。観光事業者、行政(観光課や観光協会など)、地域住民といった、観光振興において利害をともにするステークホルダーを一体化させる”調整役”としての機能を持つ。既に海外ではさまざまな観光地がDMOを組織し、観光事業の振興に役立てている。

 国内におけるDMOの発祥は、観光庁が15年11月に創設した登録制度「日本版DMO候補法人」までさかのぼる。20年には4000万人規模を目指すインバウンドのような大きな時流を取り込むには、海外での誘致活動から、国内での多言語対応やWiFi導入まで、組織だった大きな規模での対応が必要。さらに、地域の魅力をどのように売り出すか、その将来のビジョンを取りまとめることも大切だ。そのため、DMOには一段上の視点から地域観光を見る、いわゆる舵取り役としての活動が求められている。

 とはいえ、過去に例があった組織ではなく、設立にあたってさまざまな課題がハードルとなっている。その一番大きなものが、先に出てきた「予算」の問題だ。既に稼働しているDMOでは、どのような活動を行うとともに、この問題にどう対応しているのか? 同報告書で観光地域づくりの先進事例として紹介されている「一般社団法人 せとうち観光推進機構」(以下、機構)の事業本部長、村橋克則さんに話を聞いた。

「せとうちDMOでは、瀬戸内ブランドの確立により地域創生を目指します」と語る、一般社団法人 せとうち観光推進機構 事業本部長 村橋克則さん

■7県が一体となって瀬戸内をブランド化

――機構の活動についてお教えください。

村橋 機構は瀬戸内海を共有する兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県の7県が県境を越えて一体となり、「瀬戸内」のブランド化と観光地経営を行うためのプラットフォームです。日本版DMO「せとうちDMO」の登録法人となっています。瀬戸内に多くの観光客を呼び込むのが大きな役割で、そのためにマーケティング活動とプロモーション活動を行っています。

――マーケティング活動とは、例えばどのようなことを行っているのでしょうか?

村橋 代表的なのは外国人観光客の動態調査です。4月に活動し始めたばかりで、具体的に公表できるものはまだありませんが、訪日外国人観光客が観光の際に活用するスマートフォンやタブレットのWi-Fiデータを収集し、外国人観光客の瀬戸内地域での移動ルートを探っています。

 例えば、空港から広島県の宮島を訪れ、その後に愛媛県の道後温泉を巡る外国人観光客が多いことがわかれば、宮島と道後温泉を結びつけるプロモーションを仕かけることができます。外国人観光客数が多い時期に合わせてお祭りやイベントを開催したりなど、集客力を高めるための観光施策を打ち出す際に役立てたいですね。

――プロモーション活動はいかがでしょう?

村橋 主な活動はホームページで公開していますが、海外向けでは6月に台湾で開催された「日本の観光・物産博2016」に瀬戸内として初出展し、訪日意欲の高い台湾の方々に、瀬戸内の魅力を伝えました。結果、訪日旅行を取り扱う台湾の有力旅行会社の企画担当者、現地の旅行業界関係者などとの商談につながり、台湾から瀬戸内への旅行商品作りに前向きな反応を得られました。8月5~8日に台湾で開催された「台湾2016美食展」にも瀬戸内ブースを出展し、“瀬戸内の食”の魅力を発信しています。

 さらに、ヨーロッパ圏に向けたプロモーションとして、スイス人ファミリーを招待し、瀬戸内地域をキャンピングカーで巡る様子をネット上で情報発信しました。スイス人ファミリーの実体験を通じて瀬戸内の魅力をPRする、ユニークな取り組みだといえるでしょう。

スイス人ファミリーの様子はプロモーションとして、ネット上でも公開されている

ヨーロッパ圏へ向けた瀬戸内のプロモーションでは、スイス人ファミリーがキャンピングカーで瀬戸内を巡った

■各所との連携と安定的な運営資金の確保

――DMOには観光地域づくりの舵取り役としての役割が求められています。どのような形で地域と関わっていらっしゃるのでしょうか?

村橋 機構のスタッフには県庁からの出向者がおりまして、その出向者が各県とのパイプ役となり、常日頃から各県とコミュニケーションをとっています。また、各県の観光担当部 次長を招いた会合を年4回開催する予定でしたが、3か月毎の集まりですとその間の報告に終始してしまい、互いに意見やアイデアを出し合うような深い議論になりません。そこで開催頻度を増やせるよう調整しています。

 ほかに、有識者やメディア関係者などを招いた幹部会も週に1回開催していますので、関係各所の連携は十分に図られていると感じています。機構のスタッフ数は25名と限られていますので、活動開始後の数か月ではまだまだすべてをカバーしきれていませんが、それでも各観光施設・事業者様や地域住民の方々と接していく中で、“瀬戸内ブランド”としての観光振興への関心や賛同を徐々に得られているという手ごたえはあります。

――観光協会等へのアンケート調査で「予算不足」が課題として挙がっていますが、機構の状況はいかがでしょうか?

村橋 機構では7県及び民間企業からの負担金約1億円と、観光庁の事業費約3億円、計4億円を年間の事業資金とし、この金額内で組織を運営しています。

――日本版DMOの登録要件の1つに「安定的な運営資金の確保」という項目があり、資金確保の手段としては「収益事業(物販、着地型旅行商品の造成・販売等)」「特定財源(法定外目的税、分担金)」「行政からの補助金・委託事業等」が挙げられています。機構は「特定財源」と「行政からの補助金・委託事業等」でまかなっているわけですが、「収益事業」へは展開されないのでしょうか?

村橋 現在の予算内で実施しているマーケティング活動とプロモーション活動に力を入れていますので、今は収益事業への展開は考えていません。今後は必要となれば、各観光施設・事業者様と手を組んで収益事業に取り組むかもしれません。

 なお、これは収益事業というわけではありませんが、せとうちDMOには機構のほかに「株式会社 瀬戸内ブランドコーポレーション」(以下、コーポレーション)も加わり、各観光施設・事業者様に経営コンサルティングや資金支援を提供しています。

■支援が資金にも及ぶのが「せとうちDMO」の強み

 村橋さんの話にあったように、せとうちDMOの活動には機構だけではなくコーポレーションも加わり両輪をなす。機構はマーケティング活動とプロモーション活動を通じて瀬戸内エリアへ観光客を呼び込む。一方のコーポレーションは、呼び込んだ客を迎え入れるための受け皿作りに取り組む。各観光施設・事業者が商品・サービスの改善や新たな商品・サービスの開発などを行う際に、共同で事業開発を行ったり、資金を支援したりするのだ。

 コーポレーションは、瀬戸内7県を中心に観光関連をはじめとした事業会社27社と、日本政策投資銀行や瀬戸内7県の地方銀行を含む19件の金融機関の出資により設立。スタッフは、出資者の事業会社や金融機関等からの出向者が中心で、地域の金融機関を通じて瀬戸内エリアの観光関連事業者のさまざまなニーズに対応する。

 支援に使う資金は、日本政策投資銀行と瀬戸内7県の地方銀行、クールジャパン機構などが組成した98億円にのぼる「せとうち観光活性化ファンド」を活用。そして8月9日、せとうちDMOは同ファンドの第一号案件として、瀬戸内周遊クルーズ船事業に対する支援を決定したと発表した。コーポレーションの代表取締役社長、水上圭さんは次のように話す。

「瀬戸内地域を1つの企業とみなして、その成長と企業価値の最大化を目指します」と語る、瀬戸内ブランドコーポレーション 代表取締役社長 水上圭さん

――第一号案件についてポイントをお教えください。

水上 株式会社せとうちクルーズが17年9月から運航開始を予定している新規クルーズ船事業への支援となります。瀬戸内のように内海で数々の島が浮かぶ風光明媚な海外の観光地では、宿泊できるクルーズ船により観光地を巡る事業が積極的に展開されています。それらをヒントに瀬戸内でも同様の宿泊型クルーズ船観光を事業化するにあたり、ファンドを活用した資金支援を行うというのが今回の案件です。

 海外の成功事例にみられるように、これは事業として有望ですし、さらに、乗船客は寄港地を転々とする中でさまざまな観光関連施設・サービスを利用し、土産物品を買うなど、瀬戸内地域全体への派生効果も見逃せません。資金支援に値する有益な新規事業だといえるでしょう。

――第一号案件に対する機構とコーポレーションの果たした役割をお教えください。

水上 コーポレーションに出資する地方銀行の担当者を通じてせとうちDMOへ持ち込まれた案件ですが、機構とコーポレーションが一体となり事業支援の検討を進めてきました。例えば、コーポレーションは投資を行うに際しての事業計画の策定支援を行い、機構はクルーズ船で瀬戸内のどのルートを巡ればより魅力的な商品になるか検討。また、寄港地での港湾利用にあたっては行政からに許可が必要になりますので、機構が持つ各行政とのパイプを活用して調整を図っています。

 こうして機構側が運航に向けてのプロモーションやクルーズ商品の開発を支援する一方、コーポレーションはクルーズ事業の事業計画策定支援と、ファンドを通じてのクルーズ船の建造資金の一部拠出を行いました。どのような観光事業も実現に向けて商品・サービスの開発やプロモーション戦略だけではなく、資金確保も欠かせませんので、ファンドを活用できるのはせとうちDMOの大きな強みだといえます。ただし、ファンドを活用するためには、観光事業の活性化を担いつつ、必要な投資リターンを実現して投資家に資金を返済することを両立させるノウハウが必要になります。

せとうちDMOのサポートとせとうち観光活性化ファンドの活用で17年9月の就航を目指す瀬戸内クルーズ

■各観光施設・事業者の事業を強力に支援

――各観光施設・事業者はもちろん、異業種から観光事業に参入するケースでも、新商品・サービスの開発や商品・サービスの改善、プロモーションなどを検討している際、せとうちDMOが良き相談窓口になるといえます。今後はどのような取り組みがありますか?

水上 今、せとうちDMOの会員組織の立ち上げを企画しています。これは中小企業や個人事業主が中心になるかと思いますが、例えばインバウンドで外国人観光客を受け入れたいけれども多言語対応が難しいという場合は、会員の事業者様向けに多言語対応コールセンターを設けて、電話を通じて通訳や翻訳を行うサービスを提供するといった内容です。

 また、瀬戸内地域内のメンバー同士のビジネスマッチングも行う予定です。ほかにもECサイトの開設による、会員事業者の商品・サービス販売支援や、クラウドファンディングへの展開も考えられます。来年の春には会員組織の立ち上げを目指しています。

台湾で開催された「日本の観光・物産博2016」に出展した瀬戸内DMOのブース

<Profile>
村橋克則(むらはしかつのり)さん
リクルートに入社後、97年に情報誌「関西じゃらん」「東海じゃらん」の総責任者となった後、03年に国内旅行事業部事業部長、05年に株式会社リクルートメディアコミュニケーションズの執行役員に就任。07年10月に観光関連事業者向けコンサルティング会社の株式会社オブリージュを設立し、同社代表取締役に就任。16年3月に一般社団法人せとうち観光推進機構の事業本部長就任。

水上圭(みずかみけい)さん
山一証券株式会社入社後、94年に 米国ミシガン大学経営大学院のMBAを取得。04年にCVCアジア・パシフィック・ジャパン株式会社入社、05年に同社代表取締役就任。15年7月に同社退社後、16年4月から株式会社瀬戸内ブランドコーポレーション代表取締役に就任。
《加藤宏之/HANJO HANJO編集部》

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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