■ニュース深堀り!■中国人向け電子マネーの囲い込み力!

2016年8月25日
スマホ連動の電子マネー決済に対応したところ、訪日中国人観光客が殺到した――ITベンチャーのユニヴァ・ペイキャストが16月6月に発表したのは、東京・御徒町の老舗ディスカウントストア「多慶屋」での出来事。前年12月に「Alipay店頭決済」を先行導入すると、この月の免税手続件数の約半数を同決済が占めた。
 中国人観光客の決済としては銀聯カードが有名だが、最近ではスマホアプリを使って決済できる電子マネーを利用するケースも増えている。「Alipay店頭決済」のその1つで、4億人以上の会員を持つ中国最大級の電子決済サービス「Alipay(アリペイ)」が提供。一方、ユーザー数が4億人を超える中国のメッセンジャーサービス「WeChat」は、16年6月に日本国内での戦略を発表。モバイル決済サービス「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」(旧:WeChat Payment)で、日本の電子マネー市場に本格的に参入する。

 高額商品の購入や大量の“爆買い”では現金は不便。そんな中国人がお財布代わりに使う「銀聯(ぎんれん)カード」に対応することで、これまで国内の量販店や小売店、飲食店は中国からの訪日観光客の囲い込みを図ってきた。しかし、先の「Alipay店頭決済」の利用増のように、昨年からこの流れに異変が起きつつある。

 電子マネーか、それとも銀聯カードか、あるいはその両方に対応すべきか。多様化する中国人観光客向けの決済手段について、カードや決済関連のポータルサイト「payment navi」と「PAYMENT WORLD」を運営する、TIプランニング 代表取締役の池谷貴さんに話を伺った。

TIプランニング 池谷貴さん

■定番の銀聯カードに加え、2つの電子マネーが台頭

――現時点で中国からの訪日観光客に利用されている決済手段をお教えください。

池谷 やはり一番は銀聯カードです。02年に初めて中国国内で発行され、発行枚数は12年に35億枚、15年には50億枚を超えています。クレジットカードとデビットカードがあるのですが、その多くはデビットカードになります。

 中国人にとって銀聯カードは最も身近な決済手段ですので、訪日観光客が最も多く使っているのも銀聯カードです。銀聯カードが日本に進出したのは09年ですが、日本国内の銀聯カード加盟店数は14年末で40万店以上だといわれ、今ではその数も増えているでしょう。

――AlipayやWeChat Payも日本に進出してきましたが、両者も訪日中国人観光客に利用されているのでしょうか?

池谷 買い物をする店が加盟店でなければその決済手段は利用できません。このため日本国内の加盟店の数がカギを握りますが、銀聯カードは09年の参入当初、加盟店開拓を行うアクワイアラー(加盟店契約会社)が三井住友カードの1社のみで、家電量販店や百貨店、ホテルなどでの導入が中心だったため、中小店舗の加盟店がなかなか増えませんでした。その後、アクワイアラーが増加し、導入の成果が周知されたことで、加盟店数が40万店を超えたというのがこれまでの経緯です。

 AlipayやWeChat Payの動きは、昨年から今年にかけてようやく注目され始めたという状況です。両社の国内での加盟店数は、7月末時点で1000店舗弱だと思われますのではっきりとしたことは言えませんが、銀聯カードと比べればまだまだでしょう。

「WeChat Pay」を利用する際の、支払い側のスマホ操作手順

――AlipayやWeChat Payも銀聯カードのように、日本国内で加盟店数は増えると考えられますか?

池谷 銀聯カードで5年かかりましたから、AlipayやWeChat Payもすぐに加盟店数が増えるとは考えられません。ただし、銀聯カードが日本に参入した頃よりも訪日中国人観光客数は増えていますし、国内の量販店や小売店、飲食店でもインバウンドに対する意識が高まっていますので、銀聯カードよりも普及スピードが速くなる可能性はあります。

■3つの決済手段に対応することが理想

――銀聯カードとAlipay、WeChat Payの特徴や違いを教えてください

池谷 銀聯カードはいわゆるクレジットカードやデビットカードで、加盟店は専用端末を置いて利用します。Alipayはアリババグループの「タオバオ」をはじめとした中国のECサイトで利用できるオンライン決済サービスで、実店舗でも決済できるAlipay店頭決済機能を備えています。店頭で客はスマートフォン上の、加盟店はタブレット上のアプリを操作して決済を行うので、カード読み取り用の端末を置く必要はありません。いわゆるモバイル決済サービスになります。

 WeChat Payは、日本で多く使われているLINEのような中国最大級のチャットアプリ「WeChat」の決済サービスで、Alipayと同じような利用方法です。

東京マリオットホテルでは8月22日より「モバイル決済 for Airレジ」を導入し、「Alipay」での決済に対応開始した

――つまり、銀聯カードは中国で定番のクレジットカード・デビットカードとして幅広く使われており、Alipayは中国でECサイトを使うユーザー、WeChat Payは中国でチャットを使うユーザーに限られるということになるわけですか?

池谷 はい。ただ、AlipayではECサイトを併用することで、訪日後もECサイトの利用客として囲い込むことができるかもしれません。WeChat Payではチャットアプリのアカウントを取得し、訪日時にチャット上でクーポンを発行するなどして集客を図る展開も可能でしょう。

――となると、中国人向けインバウンド対策で決済においては、越境ECにも展開したい場合はAlipay、チャットを活用したい場合はWeChat Payに加盟すれば良いということでしょうか? 銀聯カードは高額での利用、AlipayとWeChat Payでは小額での利用が多いといわれていますが、各サービスの利用者の特徴についても教えてください。

池谷 まず決済金額についてですが、確かに銀聯カードは10万を超える高額決済でも多く利用されていますが、AlipayやWeChat Payでも数万円の決済に使われることがあり、中国現地での決済平均単価より高いといわれています。

 また、ECやチャットへの展開を考えると、あらゆる手段に対応することで、多くの顧客層を受け入れるようにするのが理想的です。銀聯カード、Alipay、WeChat Payのすべてに加盟することが無難だといえます。

■普及初期のAlipayやWeChat Payは差別化に

――3つの決済手段すべてに対応する場合、特に中小企業にとっては大きな負担になりませんか?

池谷 AlipayとWeChat Payはタブレットを用意してアプリを入れるだけです。さまざまなカードに対応する、比較的に安価な専用端末としてCCT端末がありますので、銀聯カードでも初期費用はそれほど大きな負担にならないはずです。あとはランニングコストとして決済手数料がかかってきますが、これについてはクレジットカードとそれほど変わらない手数料で3つの決済手段を導入可能です。

 ですので、3つの決済を比較して、コスト負担の違いはそれほどないと考えて良いと思います。中小規模の店舗や個人店にとって、どの決済手段が導入しやすいか、ということは一概にはいえません。

――CCT端末は数万円からありますし、アクワイアラーのプランによっては無料で提供しているところもあるようです。タブレットの金額を考えると、確かに導入コスト差は大きくなさそうですね。

 セブン-イレブン・ジャパンとローソンがAlipayを、ラオックスでWeChat Payをそれぞれ導入するなど、AlipayやWeChat Payの加盟店が続々と増えています。こうした大手だけではなく、個人店でも手軽に導入できるPOSレジアプリ「Airレジ」が昨年12月からAlipayに対応しました。中小規模の店舗や個人店にも普及の動きが加速しそうですか?

池谷 銀聯カードが普及してきた流れは、まずは大手の量販店や百貨店、あるいはゴールデンルートで導入が進み、昨今は中小規模の店や地方へも広がりつつある、というのが実際のところです。加盟店数を増やすことで利用者も増え、利用者の増加が加盟店数の伸びを後押しするという流れですので、アクワイアラーは加盟店を増やすために、どうしても複数店舗を展開する企業へ積極的にアプローチします。
 AlipayやWeChat Payも銀聯カードと同じような流れで普及し始めていますし、Airレジについても実際には複数店舗を構える企業へ積極的にアプローチしているようです。ですので、中小規模の店舗や個人店への普及は、これから徐々に進むと思われます。

――御徒町と上野の2店舗をかまえる多慶屋が昨年12月、Alipay店頭決済の先行導入で成果を上げました。中小規模の店舗や個人店にもその期待が膨らみそうですが?

池谷 多慶屋のケースはゴールデンルートですのである程度の集客が見込めるのと、同じ時期にアリババがフェアを開催しましたので、その効果が大きかったのだと思います。

 とはいえ、周囲の店で導入していない決済手段に対応することは、それだけで差別化につながります。特にAlipayやWeChat Payは今まさに加盟店を増やすためにアクワイアラーとともに力を入れていますので、加盟店であることを中国に向けてPRしてもらえることも考えられます。そういった点でも、銀聯カードをはじめAlipayやWeChat Payにも早めに対応すれば、訪日中国人観光客の集客に結び付く可能性もあります。
<Profile>
池谷貴(いけたにたかし)さん
カード業界誌の編集、プランニング、セミナーや展示会の運営などに携わり、09年に独立してTIプランニングを設立。マーケティング、カード・電子決済、IT・通信サービスなどのコンサルティング、セミナー運営を手掛けるほか、ポータルサイト「payment navi」「PAYMENT WORLD」を運営。「NFCビジネス完全ガイド」や「O2Oビジネスガイド」、「パーフェクト・カードセキュリティガイド」「ポイントカードマーケティング市場要覧」などの調査レポート・書籍を発行する。
《加藤宏之/HANJO HANJO編集部》

●関連リンク

執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
日本の中小企業の皆さんにとってビジネスのヒントになる「ヒトモノコト」を探し出し、日々オリジナルな視点で記事を取材、編集してお届けします。中小企業の魅力をあますところなく伝えます。

ニュース深堀り!新着記事

  • ■ニュース深堀り!■お土産やサニタリーに広がるハラル対応

    ハラル対応の動きが中央から地方へ、食品からさまざまな商品・サービスへと展開するなかで、今後新たな商機が増えると予想される。そこに中小企業にとってのチャンスはあるのか? あるとすればまず何から始めればいいのか? 「やまだ屋」や「廣榮堂」などのハラル認証取得のサポートを手がけ、認証団体の選定・手続きなどのコンサルティングを行なうハラル・ジャパン理事の佐久間朋宏さんに話を伺った。

    2016年10月20日

    ニュース深堀り!

  • ■ニュース深堀り!■高付加価値を実現、IoTの養蜂革命!

    IoT(モノのインターネット化)。パソコンやスマホといったデバイスのみならず、様々な製品をインターネットにつなげ、あらゆる場面で”便利さ”を増していく動きが加速している。夏の暑い日、外出先にいながらも、スマホからインターネット経由でエアコンのスイッチを入れておく――そんな生活を実現しているのもIoTの技術だ。この先進技術の導入による改革の動きが、一次産業の現場でも起きている。8月開催の「はちみつフェスタ2016」では、養蜂家のためのIoT&AIデバイス「Bee Sensing」が出展され、多くの来場者から注目を集めている。

    2016年10月17日

    ニュース深堀り!

  • ■ニュース深堀り!■町工場主役のインダストリアルツーリズム

    地方再生のひとつの方法論として「インダストリアルツーリズム」が注目を集めている。これは“産業観光”ともいわれるもので、たとえば小規模事業者も含まれる工場地帯などが、地域ぐるみで複数の工場を開放して見学会などを催す取り組みだ。

    2016年10月5日

    ニュース深堀り!

  • ■ニュース深堀り!■コンパクトシティー、地元企業に商機は?

    少子化や東京一極集中などの動きにともない、地方からの人口流出が止まらない。都市部でも商店街がシャッター通り化するなど、空洞化が大きな問題になっている。その対策として、政府が地方都市における中心市街地の活性化を目指して推進しているのが「コンパクトシティー」構想だ。16年9月には「コンパクトシティー形成支援チーム会議」で、子育て施設の設置、クラウドファンディングを活用した空き屋・空き店舗などの再生推進が議論されている。

    2016年9月21日

    ニュース深堀り!

  • ■ニュース深堀り!■集客に成功するSNSの正しい使い方

    企業PRにLINEやTwitter、FacebookなどのSNSが積極的に利用され始めている。16年8月16日にICT総研が発表した「2016年度 SNS利用動向に関する調査」でも、SNS利用者数は17年には7000万人を超える見通し。テレビや雑誌が苦境にある中で、企業によるプロモーションの場はリアルからウェブへと拡散し続けているが、その中においてもSNSがトレンドとして注目度を高めている。

    2016年9月2日

    ニュース深堀り!

  • ■ニュース深掘り!■中野から考える、都市部の駅前再開発

    東京・中野の駅前が大きく姿を変えようとしている。01年に移転した警察大学校の跡地には、13年から14年にかけて明治、帝京平成、早稲田の3大学のキャンパスや施設が次々と建ち、キリンホールディングスの本社も移転してきた。お昼時などには街に学生たちがあふれ、一時は食事どころを探して歩く姿も見られたほどだ。この先もさらに駅前を中心とした再開発が計画されており、16年8月25日には中野サンプラザを含む周辺地域の再整備事業に向けて、野村不動産を代表とする事業協力者グループが選定されたばかりだ。

    2016年9月1日

    ニュース深堀り!

  • ■ニュース深掘り!■東京再開発に見る中小のビジネス機運

    ブラジル・リオから五輪旗が持ち帰られ、20年の五輪開催がぐっとリアリティを帯びてきた東京。オリンピックに向けて現在、あちこちで大型の駅前開発が進んでいる。ここ最近でいうと、16年8月に「浜松町駅周辺地区土地区画整理事業」の手続きが完了したが、これによって世界貿易センタービルの建て替えを含む再開発が、いよいよ本格着工することになった。このような関連ニュースが、ほぼ毎月のように東京のどこかから発信されている。

    2016年8月30日

    ニュース深堀り!

  • ■ニュース深掘り!■DMOの課題は予算、その対応は?

    地域の観光事業を取りまとめるDMO。彼らの運用や設立に役立てるために、観光庁は観光協会などを対象にアンケート調査「国内外の観光地域づくり体制に関する調査業務の報告書」を実施。その結果を16年7月に発表した。そこで、最も大きな課題として挙げられていたのが「予算」の不足だ。

    2016年8月26日

    ニュース深堀り!