地方創生の鍵を握る地域資源活用~0から1を生む「朝観光」~

2017年1月12日
函館の朝市は、年間180万人を集める全国トップクラスの規模と人気を誇ります。しかし規模で函館に比肩、一日当たりの来場者数では函館を上回る日本一の巨大朝市が東北にあることを知る人は一部です。八戸港館鼻岸壁の日曜朝市の出店舗数は350店、一日の来場者数2~3万人、規模や賑わいは函館をはるかに凌駕するものです。ただ全国的な知名度では函館や他の市場に大きく水をあけられています。これに対し、八戸広域観光推進協議会の観光コーディネーター、木村聡さんは八戸ならではのある文化に着目、新たな観光プランを発案。それが日本一の朝市とも繋がる八戸の早朝文化でした。

★ 0から1を生む、ビジネス客を観光客に変える「朝観光」はこうして生まれた

 洋の東西を問わず、朝市というのは魅力的な観光資源の一つです。日本国内で人気の朝市といえば、函館(北海道)や輪島(石川)が全国的に知られるところですが、関東ローカルでは勝浦(千葉)、旅の専門家などには呼子(佐賀)が人気です。

■日本一の規模を誇る朝市、でも全国的な知名度は今一つ

 函館の朝市は1万坪に約280の店舗が軒を連ね、1日の来場者数は平均4000~5000人、年間180万人を集める全国トップクラスの規模と人気を誇ります。

 しかし規模で函館に比肩、一日当たりの来場者数では函館を上回る日本一の巨大朝市が東北にあることを知る人は一部です。

約350店舗が立ち並び、一日で3万人の人出でにぎわう八戸港館鼻岸壁の日曜朝市(画像提供:青森県観光連盟)

 青森県八戸市の八戸港はイカの水揚げ高日本一、銀鯖などのブランドサバでも知られる全国有数の水産都市です。数年前までは水揚げ高で全国トップ3の一角を占めていましたが、平成27年は前年比5.9%減の11.3万t(金額にして197億円)で、順位も前年の4位から6位に下げました。1位の銚子港21.9万t、2位の焼津港16.9万tを除くと、3位の境港港12.6万tから6位の八戸港までは僅差ですが、ここ数年は東日本大震災や気候変動等の影響もあってか水揚げ高は減少傾向にあります。
 その中で八戸港館鼻岸壁の日曜朝市の出店舗数は350店、一日の来場者数2~3万人、規模や賑わいは函館をはるかに凌駕するものです。ただ全国的な知名度では函館や他の市場に大きく水をあけられています。

■宿泊客の8割がビジネス客の八戸で、隙間の早朝観光を仕掛けた「八戸あさぐる」

 八戸市は人口約23万人、臨海部には漁港だけでなく、大規模な工業港や商業港を有す、北東北随一の工業都市でもあります。観光集客の柱は市場や食、八戸三社大祭で近隣から多くの客を集めます。ただ大半は日帰り客、宿泊客の約8割をビジネス客が占めます。
 八戸市では2002年に東北新幹線八戸駅が開業。観光客など交流人口の増加も期待されましたが、アクセスが良くなったことで中心市街地では逆に宿泊客の減少が続きました。2008年、2年後に迫った東北新幹線新青森駅開業を見据え、通過点にならない八戸の新たな魅力づくりも求められました。
 これに対し、八戸広域観光推進協議会の観光コーディネーター、木村聡さんは八戸ならではのある文化に着目、新たな観光プランを発案。それが日本一の朝市とも繋がる八戸の早朝文化でした。
 実は青森県は「早寝早起き」と「人口10万人当たりの公衆浴場数」で日本一、市内には早朝5時から空いている銭湯がいくつもあり、地域には朝風呂文化も根付いています。そこでビジネス客がホテルをチェックアウトするまでの早朝の隙間時間に市場と銭湯を巡る魅力的な観光商品があれば、宿泊客の増加につながるのではないかと考えたのです。
 2008年9月木村さんは観光コンベンション協会に市場と銭湯を結ぶ二次交通の相談を持ち込み、11月には朝市と朝風呂の乗合タクシー運行事業「八戸あさぐる」の実証実験を行いました。結果、ほとんど告知を行わない中でも4カ月間で228人がサービスを利用。旅行会社やメディアの反応もよく、観光コンベンション協会で事業を継続して行うことになりました。
「八戸あさぐる」は朝6時に利用者が宿泊するホテルにタクシーが迎えに来て、市場と銭湯を廻り、最後ホテルまで送ってくれるサービスです。申込みは「八戸あさぐる」に参加するホテルのフロントで前日に行えば手配可能。利用料には移動のタクシー代、銭湯の入浴料(ボディウオッシュ・シャンプー・リンス付)が含まれ、利用者はホテルからタオルを持参すれば、手ぶらで観光することができます。
 現在「八戸あさぐる」には館鼻海岸の日曜朝市のほか、平日も楽しめる陸奥湊駅前朝市の2つの市場と6つの銭湯、4つのタクシー会社と24のホテルが参加しています。利用者数は2010年度の777名が最高で、爆発的な数字というわけではありませんが、この0から1を生む発想力やそれを形にするチャレンジこそ、今地方創生に求められるものではないでしょうか。
 今後、八戸の観光地としての知名度が上がれば、日本一の日曜朝市とともにこの「八戸あさぐる」の需要もまた十分見込めるはずです。八戸にはまだまだ全国に知られていないユニークな観光資源も多く、個人的には日本のグランドキャニオン?ともいわれる「八戸キャニオン」の最深部、海抜-170mの石灰鉱山の見学ツアーなどが商品化されれば、一躍人気観光地に躍り出るのではと考えています。

●関連リンク

執筆者: 水津陽子 - 地域活性化・まちづくりコンサルタント
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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