ドラマ「先に生まれただけの僕」から、変わりゆく日本的経営を考える 画像 ドラマ「先に生まれただけの僕」から、変わりゆく日本的経営を考える

制度・ビジネスチャンス

 日本テレビ系土曜夜10時から放送されている『先に生まれただけの僕』は、35歳の若い校長先生が業績不振の高校を立て直すという異色の学園ドラマだ(オンライン動画配信サービスのHuluでは第1話から最新話まで配信中)。

 主人公は総合総社・樫松物産の商社マン・鳴海涼介(櫻井翔)。

 鳴海は会社から出向を命じられて企業の傘下にある私立高校・京明館高等学校に校長として赴任する。会社からは不採算部門とされ、偏差値も低く、スポーツにおいても優れたところがない毎年定員割れとなっている高校の現状をみた鳴海は「教師にとって生徒はクライアントであり商品です」「生徒の親御さんは株主です」と、教育はビジネスなのだと、教師たちに訴えて、学校改革に乗り出す。今まで他人事だった教師たちの間では、変わることを拒否する先生たちと、鳴海のやり方に感銘を受ける教師に二分していく。

 第1話では大学進学のために利用した奨学金制度は社会人になった後も返済し続けないといけないという問題について言及し、第2話ではスクールカースト(クラスメイトたちの間で出来上がってしまう階級制度)の問題を扱ったりと、社会派テイストが強い。

 一方、第3話では、先生たちの授業ではアクティブ・ラーニングという、生徒同士でコミュニケーションを取りながら回答を出していくというゲーム的な授業を見せている。

 鳴海はビジネスマンの視点から、朝礼における「校長の挨拶」などの無駄を省いていき、わかりやすい本音の言葉で教師や生徒にぶつかっていく。

 真柴ちひろ(蒼井優)たち教師はそんな鳴海のやり方に最初は反発するものの、だんだん理解を示し、鳴海もまた、教師や生徒たちの気持ちを知ることで、少しずつ自分のやり方を変えていく。それと同時に社会人の立場から生徒たちに、今、勉強していることが将来の役に立つのか? や、大学に進学することの意味について、自分の言葉でメッセージを発するようになっていく。

 つまり、教える側の教師たち自身が学んでいく姿が、ドラマとなっているのだ。

 脚本は福田靖。『HERO』や『ガリレオ』(ともにフジテレビ系)、大河ドラマ『龍馬伝』(NHK)といった数々のヒット作を生み出し、2018年には連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)の執筆を控えている人気脚本家だ。

 彼の作風は一言で言うとライトな社会派で、ポップでわかりやすいドラマの中に、例えば『HERO』なら検事や弁護士に関連したエピソードが盛り込まれており、ドラマをみていると少しずつ舞台となる業界の勉強になるのがとても楽しい。

 『先に生まれただけの僕』は学校を立て直す経営モノだが、経営という視点から病院を描いたのが『DOCTORS~最強の名医~』(テレビ朝日系)だ。

 本作は経営危機の病院を合理的思考を持った少し性格の悪い医者が引っ掻き回すことで、医者や看護師たちの意識を変えていくという物語だ。『先に生まれただけの僕』にも出演している高嶋政伸が腹黒いのだがどこか滑稽に見える悪役を演じていることもあってか、共通点の多い作品だ。

 しかし、コメディテイストが強かった『DOCTORS』に対して本作のトーンは実にシリアスで画面も重々しい。これはチーフ演出の水田伸生のカラーだろう。

 水田は坂元裕二脚本の『Mother』や『Woman』や宮藤官九郎脚本の『ゆとりですがなにか』を手がけた演出家だが、画面の色使いが暗めで、映画のような重量感があるのが大きな特徴だ。児童虐待やシングルマザーの貧困問題といった社会派のテーマを扱うことも多く、重たいテーマを重く撮るという意味では同じように社会派なテーマを扱っていても、ライトな味付けにして世に出してきた福田靖とは正反対の資質だと言える。

 この本来なら真逆の資質の作り手が、チームを組んでドラマを作っているのが本作の面白さだと言えよう。それは主人公の鳴海のキャラクターにも強く現れている。一見軽く見えて人の気持ちがわからない合理主義的な戦略家に見えるが、心の中では複雑な気持ちを抱えている人間味のある男として鳴海は描かれている。

 そんな鳴海の弱点が、実は徹底した合理化を測るために今いる教師たちをリストラすることができない甘さだとわかってくる。


《成馬零一/ドラマ評論家》

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