<シリーズ> 陶磁器産業復活のシナリオ(事例・常滑編) 画像 <シリーズ> 陶磁器産業復活のシナリオ(事例・常滑編)

インバウンド・地域活性

 HANJO HANJO の新シリーズは、コラムでおなじみの水津陽子さんがひとつの業界にしぼって徹底取材。その現在と展望についてを、課題分析編、解決戦略編、具体事例編など複数のパートにわたり深い視点で切り込んでいきます。シリーズ第1回で取り上げるのは落ち込みの激しい「陶磁器産業」です。Vol.3では成功事例から復活の道のりを探ります。

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<シリーズ> 十年で6割超の市場を失った陶磁器産業
【事例編】陶器市に依存しない、常滑~コト化と新たな波~


 中世から続くやきもの産地「日本六古窯」の一つ、常滑焼。やきものの世界で観光といえば、未だ多くの産地が年1回の陶器市頼み、客の多くは中高年という中、2015年度の常滑市の観光入込客数は陶器市「常滑焼まつり」11万6000人に対し、やきもののまちの散策を楽しむ「やきもの散歩道」は27万4000人。

 2016年に同市が行った観光ニーズ調査では、来訪者の中心は20~ 50 歳代の夫婦や友人で、初めての来訪者も多くみられるという結果が出ました。興味深いのは2008年に実施されたやきもの散歩道実態調査では他の産地同様、リピーターが多く、来訪者の7 割が中高年だったこと。果たして常滑はこの間、何をして新たな客層の取り込みや客の若返りに成功したのでしょうか。

 今回は常滑焼のコト観光が何故成功したのか、その実現への道筋と今、起こりつつある新たな波を紹介します。


■70年代陶芸ブームを背景に誕生した、常滑コト観光の経済効果 

 昭和の常滑焼工場群の風景を今に残す「やきもの散歩道」が誕生したのは1974年。背景には2つの要因がありました。

 一つは当時、窯業が盛んな地区で大気汚染が問題となり、業界では燃料の石炭が使用できなくなる等、大きな打撃を受けていました。またもう一つは、その頃起きた陶芸ブームによりやきものを買い求める来訪者が増えつつあったこと。こうしたことから市では訪れる人が常滑焼を理解し、誰もが気軽にやきもののまちの雰囲気を感じてもらえる散歩道の整備に取り組んだのです。

 歩いて廻れる一周約1.6kmのコースは、10本のレンガ煙突が並ぶ、国の重要有形民俗文化財指定の「登窯」、使わなくなった土管や焼酎瓶を積み、ふるさと坂道30選にも選ばれた「土管坂」などが常滑ならではのやきもの景観を形成。緑や花に囲まれたコースは自然も豊かで、地形は起伏に富み、軽自動車がやっと通れるほどの曲がりくねった細い道は迷路のように入り組んでおり、随所に現われる坂や路地がまち歩き好きの心を掴みます。

 コースには古民家を改装したショップやアートスペース等の店舗も80店あり、観光地の発展に欠かせない受け皿施設も充実。その約6 割はやきもの販売店ですが、他にも小物やアクセサリー、竹細工やガラス製品、古道具や木製品、野菜を扱う等、店舗も多種多様。

 特徴的なのはこれだけの店舗を有しながら、美しい町並み景観が維持されていることです。市では2010年「常滑市やきもの散歩道地区景観条例」を施行。景観計画を策定し、当該エリアで店舗や住居を外観補修する場合、補助金を出す等、散歩道地区の景観保全の取り組みを行ってきました。

 ただ、町並みが整うことと、それが人を惹きつける魅力に繋がることはイコールではありません。そこに生きる人々の営みやいきいきとした姿が垣間見え、その息遣いが聞こえてこそまちは魅力的であり、その賑わい、活気が人を惹きつけます。

 散歩道地区の店舗の多くは2005年の中部国際空港開港以降に開店したものです。事業者の約7 割は地区外の居住者で、店舗は徐々に増えていったといいますが、ここにに惹かれて外から集まった人たちの多くはこの地区の価値が何かを十分理解しているようです。実際歩いているとそれらは価値を毀損するのではなく、むしろ魅力を高めることに貢献しているように感じます。

 2016年の調査では「やきもの散歩道」に関連して「坂道」、「街並み」に加え、「レトロ」、「アート」、「おしゃれ」というワードが上がりました。この常滑の新たな魅力は彼らが創造した価値です。

 しかし、これを実現するには一つ乗り越えるべき大きな壁があります。地域活性化・まちおこしに成功する地域には、ある一つの共通点があります。

 それがこのよそ者を受け入れるという地域のオープン性です。使わなくなった工場や事業所等が空いているからといって、よそ者に気安く貸してくれる地域は多くありません。しかし常滑ではそこに抵抗はなかったといいます。やっぱりそうかと膝を打つ瞬間です。

 やきもの散歩道の経済効果は、2008年の調査で来訪者の約5割が飲食に、約4割がやきものに支出。当時の年間来訪者 33 万人で推計すると、その直接経済効果は21億円、間接効果(波及効果)15 億円を合わせると、総合経済効果は33億円に及ぶと出ました。

 陶器市の経済効果は関東最大級、益子焼で知られる栃木県益子町の2016年秋の陶器市(5日間、来場者約21万人)で、直接効果7.7億円、間接効果4.2億円、合わせて約12億円。確かに大きな数字ですが、いわばこれが陶器市というモノ観光のMAXの経済効果です。

 ここにやきもののコト化、コト観光が加われば、その経済効果はどこまで広がるか。この可能性が見えている地域は今どれだけあるでしょうか。


《水津陽子》

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