三菱総研・小宮山宏理事長/人生100年時代の生き方、働き方を考えよ 画像 三菱総研・小宮山宏理事長/人生100年時代の生き方、働き方を考えよ

IT業務効率

 ◇人生100年時代の生き方・働き方考える
 実社会のあらゆるモノ・情報をインターネットを媒介にしてつなげるIoT、集まった膨大な情報を分析するビッグデータ、機械が自ら学習し高度に判断するAI、多様かつ複雑な動きが可能なロボット…。こうした最先端技術の飛躍的な進展は、建設産業やその担い手にどのような「変化」「変革」をもたらすのだろうか。国土交通省の「i-Construction(建設現場の生産性向上策)推進コンソーシアム」の会長を務める小宮山宏氏(三菱総合研究所理事長)に話を聞いた。
 技術の進歩はすさまじく速い。AIは未来の話ではなく、深層学習(ディープラーニング)などの手法を取り入れたことで一気に技術が進んだ。決まったルールの中できちんと設計され、その通りにやるのは、人間よりAIの方が上だ。チェス、将棋に続いて囲碁で人間に勝利した時は本当に驚いた。
 カメラのシャッタースピードやダイナミックレンジは人間の目を超えているし、GPSによる位置の誤差もセンチ単位になっているという。AIや機械、ロボットなどの最先端技術ですべてができるというわけではないが、相当のことをできるのは間違いない。
 □知的労働の新たなジョブへ□
 i-Constructionの目標は、構造物の計画から設計、施工、メンテナンスまでにとどまらず、解体し、鉄やアルミニウムなど素材に戻すまでのすべてのプロセスを、記録しながら最適に実施することにある。そのためには機械をたくさん使い、AIを駆使し、人間も関与していく方法が考えられる。
 国内総生産(GDP)のうち、約6割が労働に分配されている。結局のところ人間にかかるコストが最も高い。だから機械化が進む。生産性は1人当たりどれだけの量の仕事ができるかということ。生産性を上げるということは、1人の人間ができる仕事をいかに増やすかということになる。そのためにAIや機械、ロボットなどを徹底的に使っていくべきだ。
 人間がやってきた肉体労働の大部分を機械が代わりにやるようになるのは当たり前だし、同じことをただ繰り返すような作業は機械に任せればいい。人間の仕事が、AIやロボットによって失われるといった見方があるが、建設産業にはやるべき仕事がたくさんある。これまで造ってきた膨大なストックをどうメンテナンスし、どのように壊してリサイクルしていくか。幸いにも膨大な需要が待っている。
 現在、建設産業の供給力のほぼすべてが計画、設計、施工に充てられている。メンテナンスやリサイクルの需要に応えていくには、生産性を上げなくてはいけない。国交省では2025年までに生産性の2割向上を目指しているが、生産性を10倍以上にしても供給が追い付かないのではないだろうか。この産業は、仕事が減るということを気にせずに、生産性を上げていく方向に進むことができる。
 □生産性10倍で需要増に対応□
 近年、「ブロックチェーン」(分散型ネットワーク)という新しい技術が、取引やビットコインの世界で使われ始めている。この技術の本質は、改ざんできない記録をみんなで持つことができるということだ。
 建設の世界で考えると、計画や設計、施工の各段階で時々刻々変わる図面やデータの最新バージョンが把握でき、過去のバージョンも確認できるようになる。すべてのメンテナンス記録が蓄積されていくので、解体時にどこに配管が通っていて、どの辺りに鉄筋があるかなども分かる。
 最新と過去のインフラの状況が確実に保存、蓄積され、見ることができる。建設の世界にもブロックチェーンの技術を取り入れていくべきだ。
 □改ざんできない記録を持つ□
 技術が進化し、需要も変化している時こそ新しい学問領域を生み出すべきだ。工学は必要なものをその時々に応じて作ってきた。今は「i-Con工学」とも呼ぶべき学問領域が必要だ。土木工学でも建築工学でもなく、IT工学とも違う。インフラをどうやって造り、どのように維持し、どう廃棄するか。この一連のプロセスの最適なやり方とは何かといったことは今までの学問領域にはない。だからこそ作らなければならない。
 今度、東京大学に社会連携講座を立ち上げる。土木や情報技術が専門の若い研究者と、国交省の技術系職員、民間の技術者・研究者などが集まり、大学の学部生や大学院生もどんどん参加することを目指している。こんなメンバーで本気で取り組むだけの価値が、i-Con工学にはある。
 産学官が連携して取り組むことに意味がある。3者がi-Constructionについてしっかり理解しなければ前に進まない。連携の場を通じ、国交省の技術者や民間の研究者が大学に入ったり、大学の若手研究者がベンチャーを立ち上げて大学の外に出たりするなど人の流動性を作る。i-Con工学の新しい学問領域は、さまざまな人が出入りし、どんどん新たなことに挑むような場にならなくてはいけない。
 □連携の場通じ人の流動性を□
 最先端技術は建設業の働き方の改善にも寄与できる。肉体を駆使する過酷な作業を機械やロボットが代替することで、女性や高齢者がもっと活躍できる産業になる。知的な労働になり、新しいタイプのジョブに変わっていくだろう。
 働き方改革の本質は、人生100年時代の生き方ということだ。今生まれた日本人は平均して98歳まで生きる。22歳で就職して60歳まで命を捧げるように働き定年を迎える、と考えている若者はいないのではないだろうか。若い人は今の会社で仕事をしながら自分の能力を高め、知的なレベルで貢献できる仕事、あるいは積んできた経験で貢献できる仕事に移っていく。
 これが人生100年時代の生き方、働き方だ。政府が進めている働き方改革の議論は、恐らく直感的にこうしたことも意識していると思うが、今の具体的な議論はその入り口に過ぎない。元気なら100歳まで何らかの形で働く。人の役に立ちたい、自分が成長したいと思うのが人間だ。仕事を通じて社会と関わりを持ちながら生きることは、とても重要なことだ。
 (国交省i-Construction推進コンソーシアム会長、こみやま・ひろし)

2017暑中号/識者に聞く・1/三菱総研・小宮山宏理事長/i-Con工学に挑め

《日刊建設工業新聞》

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