「旅に出る価値を生む仕組み」を再構築できるか? 画像 「旅に出る価値を生む仕組み」を再構築できるか?

インバウンド・地域活性

 前回まで何度か書いたように、「団体」から「個人」へ旅行形態の変化が進んでいる。むろん、邦人客と訪日客ではその進み方に差が見られるが、流通する情報量が増加し旅行者が成熟する中で、「旅行会社のお仕着せツアー」では満足されなくなっているのは共通だ。

 この現象をバス業界の視点から眺めると、旅行会社にチャーターされて運行する貸切バスの市場は縮小し、個人客を対象とする高速バス、路線バスへの期待が高まることを意味する。特に高速バスは、「地方の人の都市への足」として地方部で定着している一方、大都市部では認知が遅れていたから、掘り起こし漏れていた大都市市場で需要喚起のチャンスと言える。むろん、FIT(海外からの個人観光客)という新しく出会う市場も拡大中だ。

 高速バスの典型といえる、大都市と地方都市を結ぶ高頻度運行の昼行路線(東京~長野、大阪~鳥取など)では、これまで都市側を午前に、地方側を午後に発車する便は乗車率が低かったから(地方側から大都市への日帰り利用が多いため、地方側の早朝発便と大都市夕方発便に需要が集中する)、その空席を埋めてくれるわけで、この流れは大変な幸運といえる。

 もっとも、「総論」としてはその通りでも、現実には高速バスにおける観光客の比率は未だ大きくない。現状の高速バスの商品性は「地元在住のリピータ」向けに特化しており観光客のニーズに対応していないし、一般の旅行者は、移動手段として高速バスを想起することが少ない。

 視点を変えて、旅行業界の立場から見ると、旅行形態の個人シフトは大変な危機である。我が国の旅行業界はこれまで、団体受け入れのオペレーションに耐えうる大型旅館や、キックバック(リベート)を提供してくれる土産店などを組み込み、手軽さと低価格を訴求するパッケージツアーが主流であった。

「個人旅行化が進むなら、街の旅行会社の店頭で、個人客のニーズをスタッフが聞き取りながら旅行を組み立てればいいではないか?」と感じる方も多いだろう。だが、ほとんどの旅行会社のオペレーション、スタッフ教育、基幹(IT)システムは、パッケージツアーの販売を前提としている。交通機関や宿泊施設を個別に手配(予約)し、手数料を、それらの取引先と旅行者双方から受け取ることもできるが、一連の手配にかかる手間と収益とを天秤にかけると、富裕層向けなど特別なサービスを除けば収益性が大きく劣る。今日の旅行会社店舗は、パッケージツアーの販売を前提に成り立っているのである。

 近年では、『楽天トラベル』『じゃらん』などのOTA(オンライン旅行会社。予約サイト)の成長が著しい。少なくとも宿泊(単品)の予約の分野では、彼らの存在感は極めて大きくなった。利用者が便利になっただけではない。宿泊施設側から見ると、既存の旅行会社には、提供する在庫(部屋)数や価格について事前に書類で提出する必要があった。また、個性的な商品設定をしてしまうと旅行会社での対面販売時に商品性がうまく伝わらず苦情になりかねないため、没個性的な商品を作る必要があった。だがOTAは、在庫や料金、宿泊プランの内容などサイト上の掲載情報を管理するシステムを宿側に開放したから、販売の主導権(在庫および料金管理や商品設定)を宿泊施設が取り戻すことができたのである。

 そのOTAの次の挑戦が「ダイナミック・パッケージ(DP)」であった。往復の交通機関と現地での宿泊その他を、ウェブ上で旅行者自身が組み合わせて一括で予約する。個人の希望に合わせた旅程を組める一方で、パッケージツアー用の割引料金の適用も受けられる。

 だが、DPは一定の存在感は得たものの、残念ながら我が国の旅行業のあり方を根底から覆すようなインパクトは持ちえていない。以前にもこのコラムで書いたが、一般の旅行者には、複雑な旅程を自ら作成するというのはハードルが高かったのである。

《成定竜一》

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