アクティブラーニングがキーワードで終わらないために 画像 アクティブラーニングがキーワードで終わらないために

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 6月1日から3日までの3日間、東京ファッションタウンビル(東京都江東区有明)にて「New Education Expo(NEE2017)」が開催された。2017年で22年目の開催を迎えた同イベントでは、100社を超える教育関連企業の出展と、教育の今を知る約60のセミナーが開催された。その中から、講演「アクティブラーニングと児童一人一台の情報端末活用」を紹介する。

◆アクティブラーニングとは何か

 今年(2017年)2月に、文部科学省が学習指導要領改定案を公表した。2014年11月の、文部科学大臣から中央教育審議会への諮問の中に書かれていた「アクティブラーニング」という言葉が、改定案から消えたことが話題になったことは記憶に新しい。代わって使われているのが「主体的・対話的で深い学び」だが、それはどのようなものか。そして、どのように実践されるべきなのか。

 東京学芸大学教育学部准教授の高橋純氏をコーディネータとし、常葉大学教育学部専任講師の佐藤和紀氏、新潟市立新潟小学校の片山敏郎氏から、実践事例を聞いた。

 まず、高橋氏より、「アクティブラーニング」の実態が述べられた。全国の学校を視察し多くの実践を見てきた高橋氏は、普通教室における一人一台端末の環境は、アクティブラーニングには必要不可欠なものであり、また、「児童生徒が一人一台の端末を持つことによってさまざまな学習活動が期待されている」と話す。

 しかし、「多くの学校では、『授業支援ソフト』を活用する授業が中心となっていることが課題」とも指摘する。つまり、児童生徒が、各自のタブレットの画像を電子黒板に投影しながらプレゼンテーションをする、全生徒のタブレット端末の画像を電子黒板に一斉に提示し、ほかの生徒の画面と比較し合うといった授業が多くの学校で行われている。同氏はこの状況に、「ここにとどまっている限り、20世紀型授業のまま。21世紀型の授業にはなりえない」と警鐘を鳴らす。

 「アクティブラーニングで求められるのは何か。中教審のまとめによると、アクティブラーニングが繰り返されることで、ただの知識・技能ではなく、『生きて働く知識・技能が身に付く』。従来の授業でも知識・技能は身に付くが、これに『生きて働く』がついている。つまりは質を上げろということ。これは簡単なようでとても難しい」。

 今回、事例発表する片山氏、佐藤氏の実践は、「これぞ21世紀型の授業だと思わせるものだ」と、高橋氏。「タブレット端末を使って調べ学習をしている、グループワークをしている。ワープロ入力をしている。そこだけを見たら、『そのくらいの実践ならうちでもやっている』と思う人もいるかもしれない。大したことをしていないと思うかもしれない。しかし、見ていただきたいのは、『やった結果、質が上がっている』かどうか。両先生のクラスでは、日々の実践の中で、ささやかな目標の積み重ねを経て、子どもたちの学びがかなり深まったことがわかる。そこを見ていただきたい」。

◆大事なのはICT環境とカリキュラムマネジメントの両輪~片山敏郎氏の事例から~

 最初に発表されたのは、片山氏の事例。新潟市の付属小学校と市立の小学校での実践例が発表された。片山氏は、アクティブラーニングを成功させるためには「思考の自由を制御しない、すぐれた一人一台端末の環境と運用」「カリキュラムマネジメント」の両輪が重要であり、カリキュラムマネジメントにおいては、教科横断的に、「情報活用能力を高める授業」をしていくことが大事と話す。

 事例では、小学6年生の総合学習の中で「AI・ロボットと私たちの未来」というテーマで行った学習活動が紹介された。この活動の中で児童たちは、インターネットを使って従来のロボット(ASIMO)と、現代のロボット(Pepper)との違いを調べたり、日本の人口動態のデータを読み解いて将来の人口減少や労働力不足の問題について考えたり、老人ホームでロボットが働く現場を見学したりと、さまざまな知識・技能を駆使して、最終的には一人一人がタブレット端末を用いて発表を行った。

 「グループに1台とか2人に1台の環境ではできない、一人一台端末の環境だからこそできる学びが実現した」と片山氏。子どもたちの自由な思考活動を妨げないため、最低限のフィルタリングや情報モラルの指導をしただけで、インターネットは自由に使わせた。学習に使うアプリも、児童が自ら探してインストールしてもよい、とした。心配もあったが、この活動とは別に高橋氏らで行った調査によると、自由に使える環境にある方が、子どもは情報モラルに対する意識が高いという結果が出ているという。

◆大人になったときにどんな力を身に付けておくべきか~佐藤和紀氏の事例から~

 次に、佐藤氏より、北区と杉並区の小学校で行った事例の発表があった。佐藤氏の実践も、一人一台端末の環境を整え、児童生徒たちはiPadで歴史年表を作る、教育旅行で訪れる日光についてiPadでガイドブックを作る、などの活動を行っている。

 特筆したいのは、毎日朝の10分を利用して、「グラフを見て自分の意見を400文字で書く」という実践だ。この実践を通して身に付けさせたい力は、データを読み解く力、自分の意見と事実を区別する力、意見を表現する力などに加え、キーボード入力をするスキル。

 「社会に出たら必ず必要な力であるにもかかわらず、多くの大学生はキーボード入力ができない。これは大変心配な状況」と佐藤氏。

 佐藤氏のクラスでは、最初は20数文字しか入力できなかった児童生徒たちも、10分で400文字以上が入力できるようになり、しかも、事実と意見を分けて表現でき、展望まで述べてまとめることができるようになったという。

 「従来の紙に書かせる授業では、10分では最後まで書ききれない子もいたが、ワープロ入力では、全員が時間内に400文字を書くことができ、書いた後、添削や話し合いができる時間もできた」という。

 「ワープロ入力のスキルは一見地味だが、子どもが社会に出たときに必ず必要とされる。授業支援システムは教師にとって、とても便利だと思うが、子どもたちが社会に出たときに授業支援システムを使うわけではないという実用性の観点も考えておく必要がある」と佐藤氏。指導にあたっては「遠くを見る」つまり「子どもたちが大人になったときに、どのような力を身に付けておいてほしいか」を意識しているという。

 両氏とも、「ICTスキルを身に付けさせるために特別な授業はほとんど行っておらず、すべての科目で日常的に使う中で、子どもたちが自然と身に付けていった」と語ったことは印象的だった。しかし、そのためには、いつでも自由にICTを使える環境であること、教員の先を見越した指導が重要であることも忘れてはならない。

◆アクティブラーニングが一過性のキーワードに終わらないために

 片山氏、佐藤氏の実践をふまえ、高橋氏は次のようにまとめを語った。

 「グループやペアに1台ではなく、一人一台端末環境でしかできない学びがある。アクティブラーニング(能動的な学び)には一台端末環境が望ましく、それによってより効果的な学びが期待できる」

 「深い学びには、“見方・考え方”をふくらませることが大事。そのためにいかにICTを授業に組み込むか、教員の力量が試される」

 「子どもたちが、ICTを“鉛筆と同じように”、つまり、思考を妨げることなく日常のツールのように使えるようにすることを目指すべき」

 「従来の、授業支援ツールを使って、電子黒板に各自の画面を提示する、といった使い方ではなく、探求型の学習に活用していく」

 「ICTを使っていることが大事なのではなく、使って学びが深まったか、知識・技能の質が向上したかが重要」

 「子どもたちが社会に出たときに、生涯を通して使える能力をいかに育てるか、"遠くを見る"意識が大事。ただし、漠然と未来を想像するのではなく、そのために、今何をするべきか、細かいカリキュラムマネジメントが必要」

 ―…いかがだろうか。高度な要求ばかりだが、これらが実現すれば、学校教育は大きく変わるだろう。実際、片山氏、佐藤氏の実践によって、数か月で子どもたちが大きく変わった様子に驚かされた。今回セミナーに参加した先生方が、両氏の事例から得た気づきを、教室に持って帰り、拡げることに期待したい。

【NEE2017】アクティブラーニングがキーワードで終わらないために…高橋純氏ら講演

《石井栄子》

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