事業承継と親族後継者の「学び」 画像 事業承継と親族後継者の「学び」

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 第二には、今日的な新知識、新技術といったものを体系的に学ぶことがある。日本ほど、「学校や大学で学んだことは仕事などには役立たない」とされる不思議な国は、世界中にもないが、それは従来なら、「企業のなかで教えられる、学ぶ」という前提があったせいもある。しかもそれでさえ、多くの卒業者が「就職したとたんに」、もっと学んでおけばよかったと後悔する現実も以前からあった。ましてや、特に理工学やIT、医薬学などの高度に専門性があり、また技術と知識体系の進歩が急な世界では、「しっかり深く学び」、身につけることが欠かせないのである。「社長業」に徹する以前に、「仕事できる、わかる」人間でないと、事業自体が維持できないところも少なからずある。また、「昔からこの道一本でやってきた」ものづくり企業などでも、日進月歩の技術革新を追い、応用利用できる力なくしては、あっという間に取り残されてしまう。伝統の「職人芸」だけで存続できる世界はそんなに広くはない。あとでも述べる、「経営革新」への手がかりを得なくてはならない。

 では、「理工系」ではない、いわゆる「文系」、特に「社長業」にも関わり深そうな「経営学」、ビジネススクールなどの世界はどうだろうか。筆者の所属もそうだが、そこでは「社長になったら」こう考える、実践するというような「機会と発想方法」が常用され、またさまざまな経済、経営、戦略、組織、人間行動などの理論が「教育」され、多くの「企業事例研究」が用いられるので、「社長学」としての後継者育成には最も近いようにも思われる。ただ、私がこう申してもいけないが、そこでは素晴らしい「経営メソッド」を即効で学べる、使えるなどとは考えない方がよいように思う。基本は上記のような、知識と思考・実践方法なのであって、企業経営もある意味その対象の一つであると割り切った方がいい。残念ながら現実の経済社会や企業存在はそうした「付け焼き刃」ですぐにこたえが得られ、即効的結果を得られるほどに単純なものでもなく、またヘタをすれば、「若社長」の振りかざす「最新理論」に皆が振り回され、あるいは反発を食うという事態にも陥りかねない。残念ながら、「頭でっかち」は歓迎されないのが、日本の企業と業界の現実でもある。

 だから「経営(学)を学ぶ」のがムダなのではない。要は、しっかりとした思考方法を身につけ、かつまた「最新理論」もその手段、あるいは説得力表現力の一つと割り切り、大きな展望を持って、自分のなすべきことを実行実践し、成果をあげ、従業員や取引先などの納得と共感を勝ち得ていくことなのだろう。すぐれた独自事業で成長を続けるS社の後継社長は、大学経営学部・大学院で学んできた経歴を持つが、「うちは徹底日本的経営です」と割り切り、社員の和、家族的な関係などを大切にし、社員旅行も重要行事とする。その一方で、「現場」を重視し、仕事と技術の「見える化」共有化を進め、ひとりひとりの成長目標達成を重視している。「最新の○○経営理論では」などとやらないのである。

 第三に、狭い意味での「企業を営む」ための知識、方法、テクニックないしはメソッドというものもある。うえのことと単純に切り離しにくいが、たとえば会計と財務データの見方、企業活動に関係する法制や規則、生産や販売、人事などの基本的な経営管理方法、ひいては事業計画の組み立てなどがある。これらはまた、経営者と幹部、あるいは社員が共有理解すべきものでもあり、その意味でも多分に形式知化された面がつよい。そのため、「後継者になる準備として学校などで学ぶ」というより、独学で、書籍や講座などで学んで身につけたという例も少なくない。しかし、「知らなくてはならない」知識と方法であることも間違いない。たとえば、日常的な業務では見えない、怪しいところが財務データから浮かび上がり、時には取引金融機関から指摘されることもある。それを的確迅速に把握し、また説明と問題解決を図れるのも、経営者に必要な力である。

 第四に、広義での「経験」がある。ある意味当然ながら、「座学で学ぶ」に対し、新たな経験を得ることは将来の企業経営者には欠かせない観がある。創業者は概して、元来の仕事や暮らし、地域活動や海外滞在などさまざまな機会と人生経験を通じ、事業を起こすことへのつよい問題意識、意欲、可能性を見いだし、それに傾倒注力しようとするもので、そこに意思というものが貫かれる。次の世代になると、逆には一種の「予定された生き方」が待っていることになり、自分の主体的な挑戦や経験蓄積を重ねることがなくなってしまう恐れもある。だから当人も、また「継がせる側」も、意識的に多くの機会に挑み、心身ともに鍛え、おのれの血肉としていくことが必要であるとも言える。また「学習」という観点からも、ひとは自身の身体と頭脳を主体的に用い、能動的に経験を経ていくことで、いちばんよく「学ぶ」ものでもある。

《三井逸友》

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