事業承継と親族後継者の「学び」 画像 事業承継と親族後継者の「学び」

人材

 ある意味、今日の中小企業の最大の問題でもある、円滑な事業承継による存続と発展を考えるうえで、いくつかの論点を提起してきた。

(「企業家・後継者の能力形成と事業承継」『商工金融』第65巻8号(一般財団法人商工総合研究所)、2015年、「企業家教育と後継者育成を考える」『中小企業支援研究 別冊』第2号(千葉商科大学経済研究所)、2015年)。

 特に、後継者が継承し、また自ら発揮すべき、事業に対する自分の意思・思い、また経営の理念の意義については、これらの稿とともに、公開している(嘉悦大学大学院「研究科長だより」)で強調したところである。

 問題は、「うまく受け継ぐ」ことだけにあるのではない。そのための準備、あるいはなすべきこと、社内ですることなどすべてに、事業を継承するための機会と課題がある。とりわけ、広い意味での「学び」をどう位置づけ、実行するかにより、事業承継と世代交代の「成否」も相当に左右されると痛感する。

 後継者の「学び」の場はさまざまある。そもそも、「先代と行動を共にする」のも当然そのうちである。それゆえ、「伴走期間の長さ」に、親族、とりわけ子の承継が必然的な理由があるという主張もあり得る(渡辺和幸『小さな会社 後継者の育て方』日刊工業新聞社、1991年)。要するに、「先代社長」のもとで育ち、その生き様をともに体験し、さらには「一緒に仕事して」、スキル自体、仕事のすすめ方、技能のこつなどはもとより、経営のうえでの考え方などをじかに目の当たりにし、身につけていくものだからである。特には、職人的な技能の継承に、こうした伴走と修業の期間は不可欠なものとも言えるだろうし、それはいつの時代でも大きな違いはない。今日的な理論で解釈すれば、「実践共同体」(community of practice)の最たるものが、家族と親子関係とすることもできよう。もちろん、「実践」をともなわない「共同体」では、悪くすると「親子の甘え」の方が浮上し、「世間知らず苦労知らずの若旦那」、「唐様で描く三代目」になる恐れも古来あるが、いまどきそんな甘い状況は滅多に見られないので、これを心配する向きはあまり必要ないかもである。

 けれども、「先代とともに」それだけでいいのか、というのも私の疑問とするところである。「親の背を見て育つ」という格言は、いまどきは「親の背しか見えない」とすべきだと、あちこちで私は言って回り、物議を醸している。もちろん別に「親子の断絶」を奨励しているわけでもない。ただ、むしろ「親子の共同体」は息苦しくないか、とも問うべきではないのか。親はどこまでも親であり、子で事業を承継する立場からすれば、先代社長、仕事の師匠、そして家では親父というのでは、「三重のプレッシャー」ではないのか。いくら「物わかりのいい父親」を演じているつもりでも、そう額面通りに受け取れないのが子の立場であり、悩ましさだろう。そうした立場のまま、ひたすら「偉大な親の後を追う」ようなありさまで、今日環境変化激しい中、積極的な事業経営ができるものなのか。一定「仕事はでき」ても、きちんと稼ぐ道を開いていけるのだろうか。それだからこそ、「親から子への継承」にこだわらず、社内の第三者や社外の有能な人材などへの「非親族承継」をもっと重視すべきだという考え方もわからないでもない。そうでないと、容易に「先代を超える」経営の展開はできないかも知れない。

 それどころか、「親の背しか見えない」ことの限界はより深刻な意味を持つ。言い換えれば、「大きな親の背」の向こうにある、現実経済社会、そしてさまざまな人間の営みから世界の動きに至るまで、いま、そこでおこっていることをしっかり見据え、将来を展望し、事業の今後のあり方を自分の知恵と才覚で描き出し、実践していかねばならないのである。そのすべてが親の背に書いてあるわけではない。また、親の世代の経験と知恵というものが、今日や今後の世界にそのまま使えるものかどうかは疑問とせざるを得ないような、激変する世界である。どのようなところでも、「自分の時代はこうだった」、「若造に何ができるか」というような「上から目線」の物言いや、人生の先輩格の押しつけが、新しい世代の感覚と思考と行動の足を引っ張り、「慣性」の呪縛を守っていると言えなくはない。

 そうしたなかで、後継者の「学び」の機会と内容をどう理解できるのか。もちろんなによりも、企業を担い、しっかりと経営していくための基本的知識と社会常識、思考方法は欠かせないし、いまどき「運鈍根」だけの無知な社長は願い下げである。また「社長」たるもの、ひとに言われたことをやるのではなく、自ら見聞きし、情報を整理理解し、自分の頭で考え、なすべきことを明らかにし、実行に移せる人間的な知的能力を十分に備えていなくてはならない。それは誰にも重要な成長期の教育や学習、経験蓄積、交友や活動を通じて身についていくものだが、「社長」にはとりわけ、自立し、かつリーダーたる力を持つことが誰よりも必要である。近ごろは今さらのように「経験学習」「アクティブラーニング」などが教育の世界で求められるが、それこそが次世代の後継者に求められるものでもある。黒瀬直宏氏は、中小企業の持てる力の源を「問題解決能力」であるとするが、そのための知識と知恵、方法の数々を身につけることが「後継者を育てる」根本である。

《三井逸友》

編集部おすすめの記事

特集

人材 アクセスランキング

  1. ゼネコン大手5社、下請け業者の社保加入促進に本腰

    ゼネコン大手5社、下請け業者の社保加入促進に本腰

  2. ゼネコンの新卒入社の離職率が改善、入社時のミスマッチ防止が奏功

    ゼネコンの新卒入社の離職率が改善、入社時のミスマッチ防止が奏功

  3. 建設コンサル各社で離職率低下、ワークライフバランスの広がりが決め手

    建設コンサル各社で離職率低下、ワークライフバランスの広がりが決め手

  4. ~社内コミュニケーションの秘訣~不良を優等社員に変えた教育

  5. 潜水協会ら6者、潜水士確保で初会合/産学官連携し人材確保やPR活動

  6. 国交省人事、航空局長に佐藤善信氏、観光庁長官は田村明比古氏

  7. 建設産業での担い手確保・育成――担い手3法の本格運用元年、国交省

  8. 新潟県へのUターン就職プロジェクト「ワーホリインTOKYO」、長岡市と新潟市で開催

  9. 社歌コンテスト、大賞発表! 激戦を勝ち抜いたのはこの動画

  10. 建設業の実労働時間、製造業より8.5時間長く、16年速報で判明

アクセスランキングをもっと見る

page top