自動車業界から見た2016年、激動の世界に日本企業は対応できたか? 画像 自動車業界から見た2016年、激動の世界に日本企業は対応できたか?

海外進出

2016年を振り返ると、英国のEU離脱(Brexit)賛成の国民投票、米国でのトランプ氏の大統領選挙勝利など国際社会での変動に驚かされることが多かった。こうした国際社会の変動に日本企業はうまく対応できているであろうか。今回は、まずBrexitの方から考えてみたい。


◆ARM買収、さすが孫社長

6月23日の英国の国民投票直後からポンド通貨が大幅に下落した。対円レートで言えば、それまで1ポンド170円レベルであったのが、135円あたりまで下落したので、およそ20%の下落だ。そのタイミングを狙って、ソフトバンクがARM社の買収を発表した。3.3兆円の巨大買収であるが、ポンド下落を上手く利用した対応といえる。

また、経済環境の悪化を懸念していた英国政府は、ソフトバンクの新規投資を喜んで受け入れるだろうから宣伝効果は抜群である。また、ARM社は、半導体の設計を専門としており、たとえ英国がEUから離脱しても影響は軽微と考えられる。判断力の素早さは、「さすが孫社長」というべきだろう。


◆英国に現実を突きつけたゴーンCEO

しかし、Brexitで最も注目すべきは、日産の動きである。英国サンダーランド工場での新モデル向け投資を決定するにあたり、日産のゴーンCEOは英国のメイ首相と会談を行い、悪影響が出た場合の補償を取り付けた。すなわち、英国メディアによれば、EU離脱後、英国日産のビジネスにおいて関税などの負の影響が発生した場合、その損失を政府が別の形で補填するということだ。

ゴーンCEOは、“Brexit により日産に不利益が生じるようであれば、英国での生産は難しくなり、出て行くことになる”ということをメイ首相に詰め寄ったのだろう。日産サンダーランド工場では7000人を雇用、サプライチェーンを合わせれば英国で2.5万人の雇用を支える英国最大の自動車工場である。「経済よりも移民政策を優先」とするメイ首相だが、さすがにこの影響の甚大さに慄き、補償をすることを約束したのだろう。ビジネスを知らない英国の政治家にBrexitの現実を突きつけた素晴らしい行動力だ。

そして来年早々に、このことが英国内でさらに大きな問題になろうとしている。メイ首相が、このような多額の補償を議会承認なしに独断で決めたことをメデャアや野党から攻撃されている。また、こうした補償はEU法に違反しているという批判もある。

1月には英国の最高裁が、EU離脱宣言は英国議会に委ねるべきであるという判決を出そうとしていることから、議会でメイ首相が突き上げられることは間違いないだろう。しかし、こうした議論を通じて、英国民が「Brexitの本当の犠牲者が自分達である」ことを知れば、「欧州関税同盟に残る」ことなどソフトな方向に切り替わるのではないかと期待している。


◆英国民は現実路線に転換するかも

経済は、政治的な変動に大きく左右されるものであるが、結果として振り回されるのは国民である。民主主義社会である限り、国民がその現実に気づき、考えを修正することは許されても良いことであろう。日産の素早いトップ外交は、政治家と国民に現実を突き付けた勇気ある行動であることは間違いない。

日本企業のBrexitへの対応は、世界からも注目される素晴らしいものだと言える。


<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサルティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形大学特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

【土井正己のMove the World】2016年、この激動に日本企業は対応できたか

《土井 正己》

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