マレーシアの今昔~めざましい経済成長とジレンマ~ 画像 マレーシアの今昔~めざましい経済成長とジレンマ~

海外進出

 離陸の主役であった外資のうちで、国別の投資残高では、日本がシンガポールに次いで第二位、14.6%を占めており、今日も新たな投資が続く一方で、既存企業の撤退転進も目立っている。労働コストなどが上がってきたマレーシアは、生産拠点としての魅力が薄れているというのが共通した見方である。

 東アジアでも、一方にはベトナム、ミャンマーなどの今後の期待される投資先があり、工業化の進んだタイがあり、また巨大な市場を抱える中国がある。インドなど南アジアにも目が行く。特に日本企業にとって見落とせないのは、3100万人というマレーシアの人口規模であり、国内消費市場の限界のみならず、すでに10年以上前から人手不足、労賃の上昇が日系企業の悩みの種となっていた。多数派マレー系人と中国系、インド系などとの民族問題、多宗教のもたらす諸問題、マレー系人優遇の「ブミプトラ政策」の制約なども多年経験されてきたところだが、人件費コストアップ、採用難や「ジョブホッピング」問題などを嘆く日系企業は少なくない。

 政府は10年以上前から、人手不足対応のために外国人労働力導入を図ってきたが、それが定着してきた最近になり、こんどは外国人労働者の雇用抑制に転じ、企業を戸惑わせている。また政府は、最低賃金制度導入、最低定年制施行という政策を進め、これも日系企業などにも悩みの種である。

 こうした状況を見ると、よく言われる「中進国の罠」という言葉を思い起こす。低開発国が低コストを武器に急発展を遂げ、相当の経済水準所得水準を達成できても、さらに先進国の仲間入りをするには大きな壁があり、コストアップや、他の発展途上国との競合が足を引っ張り、また先進国型経済に伍していくだけの工業製品やサービス等での競争力確保、産業構造高度化とイノベーションの実現がすすまず、停滞に陥るとされる。

 近年とりわけ感じるのは、国民所得上昇と欲求の高まりが消費ブームを呼び、輸入拡大を招くことにより、国際収支が悪化し、成長のブレーキとなる危険である。1997年アジア通貨危機の際には、韓国がそのまっただ中に落ち込み、深刻な金融危機と多くの企業破綻を招いた。多年貿易赤字が続いていたのに、ウォンの為替レートは固定されていたので当然の帰結であった。

 前記のように、アジア通貨危機をマレーシアは比較的早期に克服した。緊縮政策や通貨切り下げなしにこれを可能にしたのは奇跡的にも見えたが、一つには工業製品輸出国とはいえ、依然石油やパーム油などの一次産品が輸出を支えたこともある(サラワクには、巨大なパーム椰子のプランテーションが広がっている)。これらは現在も輸出の1/4近くを占めている。

 もちろん、日本などからの資本流入が続いたことも大きい。しかしいまやそうした好条件は後退気味で、石油価格低迷と政府財政の悪化も手伝い、外貨準備は減り、ついにはリンギの為替レートが一時は40%近くも下がるという事態になってしまった。「模範生」の奇跡は10年とは続いていない。これで直接投資が落ち込めば、相当なダメージは避けられない。政府が描いてきたホップステップジャンプのシナリオは実現されるのか気がかりである。

 それでもなお、消費の意欲が高いことは顕著で、前記のように至るところに新車が溢れ、ハイストリートの日本製品などの展示は高い関心を呼んでいる。新商品販売開始を待つ、長い徹夜行列もできていた。もちろんみんなスマホを携帯し、賑やかなことである。その上、新しいコンドミニアムやショッピングセンター、オフィスビルなどの建設ラッシュが続き、特にコンドミニアムの建設には購買希望者をまず募り、それをもとに工事に入るのだそうだから、購買意欲は依然高いことになる。しかし、誰もがこの状況は「バブルだ」とも見ている。いったん循環が崩れだしたら怖い。

《三井逸友》

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