【あたらしい訪問型ビジネス:1】老人ホームが薬局の“顧客”になる日 画像 【あたらしい訪問型ビジネス:1】老人ホームが薬局の“顧客”になる日

制度・ビジネスチャンス

【記事のポイント】
▼診療報酬の変化で、要介護者のいる場所が病院から老人福祉施設へとシフト
▼薬の配達ではなく、薬の効き目を見ることで薬剤師の必要性が生まれる
▼ケアマネや訪問医への営業が、老人福祉施設に至る筋道に


■核家族化によって家庭内介護力がゼロの時代に

 外出が困難な高齢者の増加にともない、彼らをターゲットとした訪問型のビジネスが急増している。訪問ビジネスといえば真っ先に思いつくのは介護事業だが、近年ではそのすそ野は介護以外の業界まで広がりつつあるようだ。介護や育児によって時間が取れない家族も視野に入れながら、時流の中にニーズを探るような新たな事業が登場している。

 中でも、注目されている取り組みの一つが訪問薬局だ。近年では診療報酬が病院での入院を短くさせる設定となっているが、核家族化が進んでいる現代においては、自宅で療養するにも家族のサポートが得られないケースが多い。そのため、老人福祉施設への入居が増え、政府が促進している在宅医療においても、訪問薬局へのニーズは高まっている。

 訪問薬局では介護保険における居宅療養管理指導、もしくは医療保険における訪問薬剤管理指導を行い、その保険報酬を受け取るという仕組みとなっている。しかし、日本在宅薬学会の狭間研至理事長によると、この報酬制度が18年の改定によって大きく変わる可能性があるようだ。その中で薬局は訪問ビジネスにどのように関わり、どのようなサービスを展開していくべきか? ファルメディコ代表取締役社長として、大阪府内にある7店舗の薬局で訪問サービスを展開する狭間氏に、その最新事情について話を伺った。

■訪問薬局では薬だけでなく、人を見る薬剤師が必要

 そもそも、外科医としてキャリアを積んできた狭間氏が、ハザマ薬局を承継したのは04年のこと。当時は大手のチェーン薬局が店舗拡大を進め、個人経営の薬局は苦境に立たされていたという。その中でハザマ薬局が訪問サービスを展開するきっかけになったのは、かつて狭間氏が近隣の老人福祉施設を訪れた時の経験だった。

「そこは、200人規模の特別養護老人ホームだったのですが、医者が一人しかいなく、病院に比べると要介護者に対応するスタッフの数も少ないわけです。その中で、薬局が玄関に置いていった薬を、要介護者の方に配るための整理からスタッフが手掛けていて、飲み合わせなどの説明も行われていませんでした」

 この状況を改善すべく狭間氏は処方箋を引継ぎ、薬剤師を老人ホームに派遣する。薬の整理をサポートするとともに、その効き目や副作用についても薬剤師が自分の目で確かめた。もちろん対応する報酬制度も無い時代のこと、これらはすべて無償での取り組みである。しかし、これがハザマ薬局の薬剤師を変えた。介護士や要介護者からは薬局では得られないような感謝の声を聞くことができ、そこに“人を見る”という意識が生まれたという。

「調剤薬局の薬剤師に求められるのは、薬の個数や値段などを把握し、速く正確に渡すためのスキルです。もちろんそれも重要ですが、訪問薬局を経験した薬剤師は、薬局での業務でも薬だけではなく人も見るようになります。渡した薬をきちんと飲んでいるか、副作用が出ていないかなどを気にすることが、これからの薬剤師に求められるスキルになるでしょう」

 テレビ局の取材なども入り、いつしかハザマ薬局は地域における存在感を確立していく。かつては大手薬局しか見ていなかった若手の薬剤師も、ハザマ薬局の取り組みに関心を持つようになった。09年には狭間氏の主導で日本在宅薬学会が設立され、そのノウハウがほかの薬局にも広まっていく。

■調剤薬局のあり方は18年に大きく変わる

 ハザマ薬局には非常勤を含めて40人の薬剤師が所属しているが、受け持ち件数は外来が35%、訪問が65%。特別養護老人ホームを含めると、顧客数は約2500人におよぶが、このうち在宅しているのは100人程度だという。このため、訪問薬局では薬を取りに行けないだけでなく、より切羽詰まった事情を抱える患者に対応するケースが多いようだ。

「薬局での業務しか経験していない薬剤師が現場に行っても、棒立ちになると思います。必要なのは手が動かなくて錠剤が取り出せない、認知機能が落ちて『毎朝飲んで』と言っても伝わらないといった方への対応です。その中ではヘルパーや介護士、医師、ケアマネージャーなどと連携しての業務が求められます」

 ハザマ薬局では薬剤師が血圧計や聴診器を使い、降圧剤などの薬の効き目を実際に確かめている。その上で薬効や副作用を把握して、医師やケアマネージャーなどに伝えることが、医療や介護の現場において高い評価を受けているという。それこそが大学で薬理学や製剤学を学んだ薬剤師にしかできない取り組みだからだ。

《丸田鉄平/HANJO HANJO編集部》

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