地域経済社会の創造と発展に求められる「多様性」「異質性」 画像 地域経済社会の創造と発展に求められる「多様性」「異質性」

インバウンド・地域活性

 前回のコラムで、地域の諸方面、特に大学などの力を集め、地方創生を担う起業家と新事業を生み出さねばならないと書いた。このこと自体は間違いないと思うのだが、言葉足らずの面もあったように感じる。

 地域のポテンシャルと産業集積、さらには諸方面の力を糾合連携させる、それだけでは「十分条件」にはならないというのが、この10年余のさまざまな地域での経験が示すところである。ではなにが足りないのか、それを一言に表現すれば、「多様性」、あるいは「多元性」ないし「異質性」の発揮だと思う。

 かつて日本でも米国シリコンバレーの発展に羨望の目が注がれ、世界のIT産業を牽引するシリコンバレーの経験を学ばなくてはと盛んに説かれた。「第二、第三のシリコンバレーをめざす」という意気込みも、15年前の日本のITミニバブル崩壊を機にポシャった観があり、いまはそれこそ、米国内でもテキサス州オースチンだ東海岸ボストンだといったところにまた注目が集まっている。

 けれども、シリコンバレーを詳細に研究し、その社会経済と事業展開の有り様から教訓を引き出した、アナリー・サクセニアンやリチャード・フロリダらがなにを指摘していたのか、それは日本の現実に照らしてどうなのかと正面から論じる意見は、過去も現在もまれのままである。

 たとえばフロリダは、シリコンバレーを擁するカリフォルニア州の持てる創造性の環境条件の一つの指標として、「ゲイへの寛容度」(今風には、LGBTを認める程度)をあげた。サクセニアンは、シリコンバレーの活力源がインド系、中国系などのエスニックマイノリティの活躍度合いにあることを指摘した。もちろんそれらのみがシリコンバレー形成発展の原動力というわけではないが、突拍子もない発想ではなく、きわめて興味ある見方である。

 言い換えれば、もともと移民の国であり、「人種のるつぼ」とされ、さまざまな人々の自由な活躍の機会を国是としてきたアメリカ合衆国、そのなかでもとりわけ「自由で開かれた社会」を特徴としてきたカリフォルニア州だからこそ、シリコンバレーがゼロから誕生し、未知のものとしてのIT産業を発展させる原動力になれたのである。「異質性」「多様性」の接点には、新しい発想と創造へのパワーが生まれる。異なる文化同士を結びつけるところに要する努力と時間は、むしろ活力を生み出すためのコストなのである。

 これを別の角度から考えてみれば、知識の創造と応用、新しい原理や方法の確立実践といったプロセスには、一方では実践を通じた「知恵」の生成蓄積が必要であり、他方では絶えざる刺激と発想の転換、新たな視点と枠組みの追求といった、試行錯誤とやりとりが求められる。そうした動きの中で、未知の思考様式や文化的枠組みとの接触、対話と刺激、摩擦とトラブルの克服、またコミュニケーションのための努力といった作業が、決定的な意義を持っているものとできるだろう。自由な環境下での「異質性」「多様性」こそが、こうした過程の前提条件なのである。

 一つの「思想」や「文化」、「制度」をもって「効率」と「安定」を実現できるとした「体制」が過去において、非創造的・硬直的なものとなり、効率性にもほど遠く、自己崩壊を招いたのは、まさしく歴史の反面教師である。

 他方でまた、地域社会のなかで形成された人間関係やフォーマル、インフォーマルな組織間関係は、事業の展開を円滑にし、コストを抑え、信頼の形成を容易にしている。そこにR.パットナムらの「ソーシャルキャピタル」の効果を見ることも可能である(日本地域経済学会関東支部の2016年秋研究会で、多摩大学の奥山雅之氏は、「地域の創業促進」を含めて、ソーシャルキャピタルの果たす機能を指摘した)。それは一面の姿であるが、同時にまた、既存の関係や組織がえてして、新たな事業の展開、ブレークスルーを阻害する傾向も否定できない。当事者たちに悪意や既得権意識があるのではなく、結果として組織の慣性や無意識的な現状維持の行動原理が働くものでもある。

 特に、まさしく「経営革新」を実行推進するにあたっては、新起業のみならず既存企業のうちからも「破壊的イノベーション」にもあえて挑戦する企業家行動が望まれるが、それには主体客体ともに、「既成のかたちや概念、通念にとらわれない」、また短期的な損得利害を度外視しても、大胆に思考行動する姿勢が必要なのである(現在行政用語として普及している「経営革新」とは、広義の「イノベーション」を指すものと、経産省の和英辞書には書かれている)。シュンペーターが看破したように、イノベーションとは新機軸・新結合であり、そのための「創造的破壊」でもある。
《三井逸友》

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