NHK『超絶 凄ワザ!』の対決に初めて参戦した国の機関とは? 画像 NHK『超絶 凄ワザ!』の対決に初めて参戦した国の機関とは?

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 ある道を極めた技術者、職人が超絶品質のものづくりに挑み、その性能の高さを競うNHK「超絶(ちょうぜつ) 淒(スゴ)ワザ!」。番組史上初、国の研究機関が参戦する。日夜、新素材開発に取り組み、日本の暮らしを支えてきた国立研究開発法人物質・材料研究機構の研究者。迎え撃つのは、日本屈指の摩擦低減技術を持つ町工場・不二WPC(神奈川県相模原市)の職人達。

 両者が挑むのは、究極の「滑り」だ。映画で見かける「酒場のカウンターでグラスを滑らすシーン」を激辛にアレンジ。用いるのは、鉄でできた重さ2の超ヘビー級コースター。特製カウンター長さ15mを滑らせろ!省エネにつながる究極の低摩擦技術を実現するのは一体どっち?

(研究者vs職人)

<今回の対決の意義>
 自動車分野をはじめ、あらゆる産業分野でエネルギーの効率化が重要視されています。特に自動車などは摩擦が原因のエネルギー損失は30~40%に上ると言われています。

 低摩擦技術が発展すれば、よりエコな社会が実現すると考えられています。また、宇宙空間では油などの潤滑液はすぐに蒸発してしまう為使えません。そして食品工場では万が一食品の中に潤滑液が紛れ込んでしまうと大問題になります。

 そのため油などの潤滑液が使えない状況で摩擦をいかに減らすかという技術開発も、いま研究が盛んに行われています。そのため1週目は油などの潤滑液<あり>、2週目は油などの潤滑液<なし>という条件で対決を実施しました。

(物材機構の挑戦)

<鉄とステンレスを使った理由>
 エンジンや機械などで最も使われている金属が「鉄」です。しかし鉄はすぐにさびるため、表面に油を塗ったり、さびないようにコーティングを施したりする必要があります。

 そこで、摩擦低減の技術を施すコースターの素材として、鉄を使用することにしました。カウンターの素材を検討するにあたり、前提条件としてカウンターの方には両者共通な物を使用し、特別な工夫を加えないということがありました。それをふまえて、専門家などに相談した結果、さびたりして条件が悪化することが起きにくい素材としてステンレスを選択しました。

(不二WPCの挑戦)

<打ち出す速さは秒速3m/s>
テーブル上でグラスを滑らせる速さについて実験を行い、番組で独自に算出しました。両者とも同じ速度で射出しています。

(物材機構の挑戦)

<載せたグラスの重さの悪影響>
グラスとグラス内のウイスキーのような装飾は合計で350gほどあります。この総重量は事前に挑戦者達に伝え、ご納得いただいた上でコースターに施す加工を検討してもらいました。また、コースターのどの位置にグラスを置くかは自由として、各自で接着してもらっています。

(不二WPCの挑戦)

<「油などの潤滑液」という表現>
専門家と相談した結果、潤滑油だけでなく、油に定義されない液体もルール上使ってよいことにしました。その為、油などの「潤滑液」という表現を使っています。


<油や潤滑液を使わずに滑らせることの意義>
宇宙空間では油などの潤滑液はすぐに蒸発してしまって使えません。食品工場では潤滑液を使って万が一食品の中に紛れ込んでしまうと大問題になります。そのため油などの潤滑液が使えない状況で摩擦を減らす技術の研究が盛んに行われています。


<加工範囲に上限を設けた理由>
削りすぎるとコースターが軽量になり、物質を多く付けると重くなるため、摩擦に大きな影響を与えます。今回の対決では表面処理だけで摩擦を減らすことを目的としています。その為、摩擦に関する専門家と相談した結果、表面から±0.1mmを加工の上限として設け、両チームにご納得いただきました。

【放送日時】
(前編)
本放送 11/12(土)20:15~20:43総合・全国
(後編)
本放送 11/19(土)20:15~20:43総合・全国

「物材機構」とは?日航ジャンボ機の事故究明にも貢献
 物質・材料研究機構は2016年に、母体の金属材料技術研究所設立から60周年、無機材質研究所設立から50周年の節目を迎え、材料開発を大きく変えようとしている。カギは蓄積してきたビッグデータ(大量データ)。人工知能(AI)やITと組み合わせ、新しい材料の開発手法を構築する。このノウハウをいち早く取り入れようと企業から技術者が集まる。次の半世紀に向けて研究基盤をつくる挑戦が始まった。

 1985年の日航ジャンボ機墜落事故や、95年の高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故、99年のH―IIロケットの打ち上げ失敗―。事故原因の究明に物材機構研究者が貢献した。

 いずれも疲労破壊が原因だ。設計強度より小さな力でも、繰り返し加わると金属が前触れもなく破断する。日航機では圧力隔壁のアルミニウム合金、もんじゅでは温度計保護管のステンレス鋼、H―IIロケットではエンジン部品のチタン合金が破断した。物材機構の研究者が疲労破壊を特定し、再発防止策や設計指針に反映された。

(日航ジャンボ機の疲労破壊した圧力隔壁=物材機構提供)

 一般に材料の研究には時間がかかる。疲労試験は力を10万―1000万回かけて寿命を計る。物材機構では100億回の疲労試験が進行中だ。クリープ試験棟には10万時間(11・5年)の試験機が並ぶ。最長は40年で合計試験時間は3万年以上。400―800度Cの高温で耐熱鋼をひたすら引っ張り続ける。

 腐食試験では10年、耐食鋼を風雨にさらす。サビの断面を分析して防錆機能が壊れていく過程を解明する。この知見とデータが事故の原因究明に貢献した。最近では情報科学を材料開発に取り入れるマテリアルズインフォマティクス(MI)の台頭で、データの価値が再評価されている。

 物材機構はデータを核として構造材料、機能性材料の二つのハブ研究拠点を立ち上げた。構造材料は信頼性や標準化、機能性材料は大規模データやAIの活用が特徴だ。材料開発期間の短縮を目指す。

<次のページ、ビッグデータをどのように活用するか>


ビッグデータをどのように活用するか
 構造材料研究拠点は内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)としてMIの研究が進む。課題は信頼性評価のコストだ。

 渡邊誠SIP―MIラボ長は「新材料を開発しても信頼性評価に開発費の何倍もの費用と期間がかかる。データやシミュレーションで実験を半分にできれば大きい。MIを信頼性の評価基準に発展させたい」と意気込む。

 これまで信頼性研究は地味で資金を集めにくかった。国際認証などと連携して材料の海外展開戦略を描く必要がある。そこでグローバル展開で先行する腐食研究が注目されている。気候によってサビの発生メカニズムや腐食の速度は変わる。

 物材機構では東南アジアや中国、インドの研究者と連携し、現地で暴露試験を進めている。 長井寿(ことぶ)特命研究員(前拠点長)は「同じ国でも都市と地方では材料に求められる性能が変わる。データと認証を合わせた開発戦略を産学官連携で練る」という。メーカーや認証機関を巡り、連携体制を構築している。

(物材機構のクリープ試験棟。高温下の耐熱鋼を引っ張り続ける=物材機構提供)

 機能性材料は情報統合型物質・材料研究拠点がMIの中核になった。コンソーシアムには旭硝子、旭化成など39社が参画。電池や磁石、伝熱材料などの開発基盤となるデータベース(DB)を整備中だ。17年4月には27万4000種の結晶構造と10万種の特性データが活用できるようになる。

 現在、物材機構や大学の研究者が各分野の事例を積み上げている段階だ。寺倉清之拠点長は「35年前に計算科学が材料開発に使われ始めた時とよく似ている」と説明する。共通理解は進んだものの、みな手探り状態だ。

 そこで企業向けに統計数理研究所と連携して演習講座を開いている。毎回満席になる盛況ぶりだ。材料の技術者がベイズ推定やスパース分析、機械学習などの数学や情報技術と格闘している。

 実際、参加者の理解度には開きがあり、人を選ぶようだ。新分野への挑戦は生やさしくない。だがこの挑戦が新しい材料開発の道を開く。

橋本理事長に聞く「鉄鋼・化学業界のハブ目指す」
 物材機構は企業の基礎研究機能を誘致し、連携して研究するオープンイノベーション拠点を立ち上げる。物材機構が企業と大学をつなぐ。そこで学術界と産業界向けに別々に開いてきた技術交流会を「NIMSWEEK」として統合。産学の研究者が一堂に集い、議論する場とした。橋本和仁理事長に展望を聞いた。


 ―次の半世紀に向けて、どんな研究基盤を作りますか。
 「二つある。一つは産産学学の連携の場を作りたい。トヨタ自動車の内山田竹志会長がSIPを高く評価しているのは企業の連携が実現した点だ。普段競争している企業が協調して基盤技術を開発する。このハブとなる機関がなかった。物材機構は鉄鋼と化学業界のハブを目指す。本来すべての産業にハブ機能があるべきだ。我々がその先鞭(せんべん)をつけたい」

 「二つ目はサイバー(情報)とフィジカル(モノ)の融合だ。情報科学を取り入れた材料開発を徹底的に強化する。耐熱合金では情報科学を使って性能予測を飛躍させた。市販の予測プログラムは到底及ばない。40年のクリープ試験など体系的な高品質データがその基盤となっている」

 ―データを核に企業連携は進みますか。
 「信頼できるデータをいかに集めるかが勝負だ。高品質データはAIでビッグデータを解析する際の指針になる。課題は企業のデータだ。各企業には事業化を諦めた材料のデータ共有を提案している。連携企業は我々のデータを活用でき、耐熱合金のような成功例もある。オールジャパンで連携できるか正念場だ」

 ―異分野融合のノウハウは。
 「物材機構は構造材料中心の金材技研と機能性材料の無機材研が01年に統合、発足した。構造材はインフラ、機能材は電子機器など業界も文化も違う。蛍光体は構造材と機能材の知見が融合し、長寿命化に成功した。融合の素地は十分にある」

 ―データを使った材料の標準化や認証事業への展開は。
 「既に経産省と議論を始めている。材料の国際競争力を高めるには評価法や標準化は重要だ。ただ標準化と認証を本格的に実施するのは研究機関には荷が重い。産業界と役割分担を協議していく」
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2016年10月19日

物材機構が町工場と究極の「滑り」対決!NHK『超絶 凄ワザ!』今日放送

《ニュースイッチ by 日刊工業新聞》

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