国家イノベーションプログラム「SIP」、新しい産学官連携のかたち 画像 国家イノベーションプログラム「SIP」、新しい産学官連携のかたち

制度・ビジネスチャンス

 府省連携の国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が、新しい産学官連携の方向性を切り開きつつある。内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI、議長=安倍晋三首相)が司令塔となり、実用化・事業化という出口を明確に設定した研究を推進。現在、プロジェクトは折り返し地点にあり、産業競争力に貢献すると産業界からの期待は大きい。

 SIPの期間は2014年から5年間。遠い未来に実現する革新的な技術というよりも中期的に実現可能な技術をテーマに選定。産学官のリソースを結集して、早期に成果を出すことを目指す。


 テーマはエネルギー、次世代インフラ、地域資源など11課題。例えばトヨタ自動車がプログラムディレクター(PD)を務める課題「革新的燃焼技術」はエンジンの熱効率50%以上への向上を目指す。開発した技術は18年度から基礎技術として順次、社会に提供する予定。

 内閣府は「科学技術イノベーション創造推進費」として年間500億円の予算を確保。14―16年度予算ではそのうち年間325億円をSIPに割り当てた。

 17―18年度もほぼ同水準を目指す。開発が一定の段階になれば企業も資金を投入するため、事業化に向けた動きが加速する見通し。「取り組みとしてSIPは素晴らしい。継続を期待している」(十倉雅和住友化学社長)と産業界は評価する。

 事業化を促すため、厳格な評価手法を採用したのも大きな特徴だ。SIP担当の松本英三内閣府官房審議官は「(外部有識者による運営会議の)評価によって課題ごとの毎年度の予算配分額がプラスマイナス20%変動する。評価が低い課題は減額し計画自体を見直すこともある」と説明する。

 欧米に比べて産学連携の成果が十分に発揮されていなかったとされる日本。SIPはこの現状を打破し、産業活性化の一翼を担う役割を担っている。そのためにも早期に成果を出し、SIPの仕組みを継続することが重要。また課題を入れ替えるなど新陳代謝も不可欠となる。

インタビュー・久間和生氏(CSTI議員)
 SIPの研究成果が出始めている。有識者で構成するガバニングボード議長の久間和生CSTI議員に今までの振り返りと今後の取り組みを聞いた。

 ―現在のプロジェクトの状況は。
 「事業化に向け高い目標を掲げ、産学官の連携の型ができてきた。おおむね計画通りに進んでいるが、一部の課題は立て直し案を検討している」

 ―従来の研究開発のプロジェクトとの大きな違いは何でしょう。
 「今までの国のプロジェクトは出口が明確ではなく、研究成果を論文にまとめて終わりというイメージだった。SIPは基礎研究から実用化・事業化までを一貫でやり、出口を見据えている」

 ―PDの役割が重要ですね。
 「日本を代表し求心力がある人物を産業界や学術界から選んだ。また、計画が出口に向けてきちんと進んでいるかどうかで課題への評価は厳しく採点される。成果を外部にはっきり示すためにもPDは知恵を絞っている」

 ―今後に向けた意気込みは。
 「強い経済成長と社会課題の解決の両立が不可欠だ。オープンイノベーションや構造改革で社会課題を解決する『ソサエティー5・0』実現の核となる取り組みとしてSIPを成功させたい」
(聞き手=冨井哲雄)

取り組み事例<レジリエントな防災・減災>
 内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」は、実現すれば産業競争力の強化などが期待できる国家プロジェクト。官民一体で出口戦略を常に意識しているのが特徴となる。その取り組みや課題を紹介していく。

 2011年3月発生の東日本大震災や16年4月の熊本地震などの大地震、超大型台風やゲリラ豪雨といった気象災害は、産業界にも大きな被害をもたらす。大規模な自然災害の発生に備えた社会インフラの構築が、喫緊の課題だ。

 SIPでは「レジリエントな防災・減災機能の強化」と題した防災・減災対策技術の開発に、府省連携で取り組む。津波や豪雨、竜巻の予測など防災対策に有用な技術をはじめ、災害被害をリアルタイムに推定する技術や、災害情報の配信といった減災に役立つシステムまでさまざまだ。

 プロジェクトの進捗(しんちょく)について、同プログラムのプログラムディレクター(PD)である京都大学防災研究所の中島正愛教授は「定量評価は難しいが、うまく進んでいる」と手応えを語る。

 14年度開始のプロジェクトは今年が中間点。「『国全体としての防災・減災の進め方』という骨太な議論の一つのエビデンス(科学的根拠)になるものを、SIPを通じ進めたい」。

 中島PDは出口戦略について、「第一歩は、プロジェクトが終わっても取り組みが続くことだ」と強調する。終了後も、参加機関の技術開発などを継続したい考えだ。

 さらに「予防や予測でテクノロジーは確実に役立つ。しかし災害発生時に対応するのは人」(中島PD)と、今後は地域の特徴をふまえた上で各地域に技術を展開する考えだ。

 災害情報をリアルタイムで共有・利活用する仕組みができれば、地域の防災リテラシー(活用能力)向上につながる。いつ発生するか分からない災害に備えるべく、新技術開発の進展が求められる。
(文=福沢尚季)

トヨタや日立も期待、国家イノベーションプログラム「SIP」の行方

《ニュースイッチ by 日刊工業新聞》

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