「ものづくり中小企業」の真のつよみ 画像 「ものづくり中小企業」の真のつよみ

IT業務効率

 IT、インターネットのおかげで、Industry4.0だとか、IoTだとか、まことに賑やかな昨今である。

 ただ、こうした言葉の氾濫には一種の流行といった様相もあり、本当になにが重要な変化なのか、ある程度時間をおかないと真実がよくわからない、いっときの流行り廃りとともに大事なことが見過ごされる恐れもなくはない。

 技術論の大家の言では、技術の進歩の基本的な原理は動力と制御の関係であるという。もちろんその対象となる素材自体の進歩と生産供給もあってのことである。近代技術をもっとも代表しているのは、鉄をはじめとする金属と、石油化学の産物としてのプラスチック素材と言えるだろう。

 これらを動力をもって加工し、必要とされる形状や機構を生み出すような制御の手を経ることで、自動車をはじめとする近代技術の粋である工業製品が大量に生み出されてきたのである。その資源的限界や動力源のはらむ問題などはさておくとしても、人間の手に代わる「機械」と、それを主役とした機械金属工業に代表される近代工業の存在は依然揺るぎない位置を占めている。

 そうした機械金属工業などの「制御」の部分には、この半世紀近くにわたって大きな変化が生じてきた。NC数値制御に代表される技術体系の客観化・数値化は、「手の」熟練や単純なメカニズムに取って代わり、そこにIT技術と処理が加わることで、いまやCAD・CAMのようなITの成果が加工の主役の地位を占めるようになっている。これに、一世紀近く前に確立された、フォードシステムのような多数の部品構成とそれらの標準化規格化にもとづく大量生産方式の原理とが組み合わさり、機械体系化・自動化を加速するだけではなく、多種少量的な生産までもがFA自動化体系のうちに組み込まれていく。

 ITによる構想とデザイン、制御は、機械装置と結びつき、どのような加工も人の手から切り離し、いわば「仮想世界」での構成構築と自動制御を可能にし、生産管理と結びついて、経済的効率性と両立するようにしてしまう。

 こうした「無人工場」のような究極の姿に対し、よく持ち出されるのは、「町工場では依然職人芸が生きている」という描写である。自動制御装置やITなどとは無縁の、職人の長年の経験、勘とコツ、「身体で覚えた」動作や感覚で、複雑精密な形状を作り上げてしまう、「手づくり」のすごさ、そこにこそ中小企業の神髄があるといった言説や描写はしばしば映像メディアの世界などにも登場し、感動を誘う。

 けれども私は、そうした描写は半ば事実であるが、半ばはミスリーディングであるとも感じる。簡単に言えば、ITも自動制御も取り入れつつ、積極的に時代の変化に対応しているのが「町工場」の真の姿なのである。

 ビジュアルに「うける」代表格が、ヘラと呼ばれる棒一本で、回転する金属板から複雑な形状を作り上げてしまう「ヘラ絞り」加工の姿だろう。そうした代表的な企業の一つ、N社は創業以来70年の歴史を誇るが、依然「職人芸」的なヘラ絞り加工を重要な仕事にしている。しかし、「老いた職人たちが一徹な技を守っている」というような姿ではなく、その現場でも若い世代が第一線で活躍している。

 同社の二代目社長は、「特殊技術を根底としながら、省力化機器の導入も積極的に行ない、手法技術とソフト機械技術のドッキングによる品質のさらなる向上とニーズに応じたフレキシブルな短納期体制を樹立。試作から量産までの総合的受注生産工場としての地位を確立」した、金属加工業の総合企業的なあり方を実現してきている。三次元レーザ加工機、レーザ溶接機、自動溶接機などが並び、絞り加工の自動機も備えている。三次元測定装置も持っているのが誇りである。

 もちろん自社でできない加工部分には積極的に外注ネットワークを生かしている。これらの設備と高度な受注対応、設計や生産技術能力を蓄えているから、N社は60人の従業員を擁し、数百社からの部品受注等を得ているのである。製品納入もできる力もある。「職人芸の町工場のままだったら、家族経営を脱することはできなかった」というのが、社長の信念である。

 しかも、N社に限らず、いま多くの機械金属系の中小企業の実感しているのは、発注元の大手企業に「ものづくりのわかる人がいない」、ITを駆使したデザインや設計はやっていても、コスト計算は厳しくとも、そのままで受注し、図面と仕様通りのものをつくっていたら、まともに使える製品ができない、そうした現実だという。

 そこには、ITの中には十分表現されていない、金属の性質や製品形状や機構構造、そして加工方法などに即した、「つくりこみ」の知恵がいるのだと、やはり長年エンジン部品や油圧部品の機械加工製造を担ってきたM精機の社長は語っている。

 同社の製造現場にも自動制御機が並び、製品組み立ての能力も発揮しているが、CADからのデータを入れ、仕様通りに加工機械を動かしていれば、使えるものができるものではない、そこに多年の経験と加工の粋を極めた自社のつよみもあると言う。

 こうした、ITの世界のうちの「形式知」には容易に表現されない、「町工場の暗黙知」と高度な技術・自動設備などとは相矛盾するものではなく、その組み合わせの妙にこそ、ものづくり中小企業のつよみと存在意義があると言えよう。もちろんそのために、多くの企業は「職人芸」自体の客観化、共有化にも努めているし、合理的効率的な生産管理、経営管理との両立も避けて通れないところである。

 あるいはその結果、「町工場の知恵」も次第にITのうちに取り込まれていき、バーチャル空間でのデザインと自動制御技術のなかに普遍化していくのかも知れないが、常にそれを見通し、新たな知恵を蓄積創造していくのが、日本のものづくり中小企業のつよさなのである。

(注)ここで紹介した、N社やM精機の社長には、嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科の「ライブケース」授業に出講をいただいている。この記述は、それらのお話しをもとにしながら、三井の理解でまとめたものである。


●三井逸友(みついいつとも)
嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科長・教授 。慶應義塾大学経済学部大学院を修了後、駒澤大学、横浜国立大学に勤務(横浜国立大学名誉教授)。嘉悦大学には大学院発展のために赴任し、2015年4月に研究科長に就任する。日本中小企業学会の常任理事で、07年から約3年間に渡り同会長を務める。主な著作に『中小企業政策と「中小企業憲章」』『21世紀中小企業の発展過程』がある。


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《三井逸友》

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