「高校野球」はなぜ、日本最大の人気コンテンツになりえたのか? 画像 「高校野球」はなぜ、日本最大の人気コンテンツになりえたのか?

インバウンド・地域活性

――だからこそ、テレビや新聞はこぞって選手やマネージャーがもつ「物語」を報道するのですね。

中島 そういうことです。私は、高野連を演出家の集まりだと考えています。甲子園を「高校生らしさ」をみせる場にするための仕組みを考え、周知し徹底させているからです。アンダーソックスや手袋の色を規定したり、選手がキビキビと動くようグラウンドにはダッシュで出てくるよう指導したりと実に細かいルールを設け、一定の基準の「高校生らしさ」を作り出しています。

■「高校生らしさ」がすべて

――売り物が何か、明確になっているコンテンツほど訴求力が強いということでしょうか。

中島 そうですね。面白いことに、高校野球はそれ以外のすべてが中途半端なコンテンツです。教育性、文化性、スポーツ性のどれも徹底しきれていない。すべてが不完全ゆえに存続しているのです。

 もしも教育性を追求するのであれば、熱射病のリスクが極めて高い夏の盛りに試合をすることはないでしょう。しかし、文化性はこの時期に行われるからこそ保たれています。帰省した人たちがテレビをつけて地元の学校を応援する、暑い中で野球をしている姿に驚きと感動を覚える。秋に開催されたのでは多忙な人々は目もくれません。

 また、スポーツ性を追求するのであれば、松井秀喜を5枠連続で敬遠したピッチャーへの言動や、花巻東高校のカット打法に対する措置は違ったものになったでしょう。これらの措置はゲームの勝ち負けよりも「高校生らしさ」を大切にする高野連の考えを反映しているのです。

――何にもまして「高校生らしさ」が優先されているということですね。一番重要な売り物を守ることで、高校生は価値を維持し続けています。

中島 一大コンテンツである高校野球には、観客やテレビ局から料金をとって収益化する道もあるでしょう。しかしそれは成功しないと思います。より高いパフォーマンスを見せるプロ野球がすでに存在しているうえ、商業化により「高校生らしさ」が失われてしまったら、高校野球は重大な「売り物」を失ってしまいますから。

――ここから企業の経営に通じる視点を見出すことは可能でしょうか。

中島 コンテンツの提供者は何が売り物として市場に受け入れられているのか理解することです。世の中にはなぜ存続しているのかわからない現象や企業がたくさんあります。私は学者としてそれらを経済学的に分析することを生業としていますが、高校野球が発展し続けてきた背景には、「売り物」を明確にし、柔軟に適応してきた事実があるからではないかと考えています。
(後編:「『高校野球」が教えてくれる、サービス業型産業の成長性』」に続く http://hanjohanjo.jp/article/2016/08/09/6273.html)


<Profile>
中島隆信(なかじまたかのぶ)
1960年生まれ。慶應義塾大学商学部教授。専攻・研究領域は生産性分析、費用構造分析。現実に起きている経済現状に経済学の理論を当てはめ、分析する手法が注目を集めている。過去の研究対象は、大相撲、寺院、家族、障害者など。主な著書に『日本経済の生産性分析』(日本経済新聞社)『大相撲の経済学』『お寺の経済学』(いずれも東洋経済新報社)など多数。


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《大川祥子/ライター》

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