【建設業「命」の現場で・26】第5章・希望をつくる、子孫につなぐ恩返し 画像 【建設業「命」の現場で・26】第5章・希望をつくる、子孫につなぐ恩返し

インバウンド・地域活性

 東日本大震災が起きた日、長澤佳祐は祖母らと車で避難していた。渋滞でなかなか進まない。たくさんの人が、焦りの表情で車の脇を走り抜けていく。振り向くと、黒い固まりが-。津波だった。車ごと流された先で、皆で何とか脱出した。
 幼いころから建築に興味があった。震災が起きた時はまだ中学生2年生。「家も津波で流された。何もできなかった。技術があれば、何かできるんじゃないか」。昨年、仙台市青葉区の深松組に入った。今は、宮城県内で災害公営住宅の施工管理を担当する。幼少期からの夢と震災時の無力感。その先に今の仕事がある。
 同社社長の深松努は震災時、仙台建設業協会幹部の立場で仙台市内の災害廃棄物処理に奔走した。地元の解体工事業者や産業廃棄物処理業者と一丸となり、4年分とも言われた廃棄物を11年12月までに撤去した。同市では復旧・復興事業が順調に進み、今年6月には災害公営住宅3206戸がすべて完成する。
 「初動が決め手だった」と深松は指摘する。予算措置の前提となる災害査定をいかに早めるかが重要で、そのためにはがれき撤去が不可欠だからだ。深松は「ものすごいスピードでできたが、これは俺たちだけの力じゃない。日本と世界からご支援をいただいた。絶対に恩返しをしなきゃいけない」とも。
 考えているのは、首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きた時の初動支援だ。東日本大震災で現場を指揮した班長らが、仙台市と共にチームを作り、即座に現地に向かう体制を構築できないか。被害は間違いなく広範囲に及ぶ。誰がどこに行くのかを具体的に詰めておくことが必要だろう。実地で培ったノウハウを次世代に継承することも不可欠だ。神戸市は、東日本大震災翌日には支援の先遣隊を出し、阪神大震災の経験を随所に生かした。次は自分たちの番だと思っている。
 最大の懸案は、担い手問題と見る。「土木や建築を学んだ人は家族や周りの命を救うことができる。官でも民でもよい。この世界に入ってきてほしい」。深松は機会あるごとに若者に訴えている。
 同社は昨年、ミャンマーでサービスアパートメント事業に乗りだした。震災翌年に、仙台市在住のミャンマー人女性を紹介されたことがきっかけだ。女性の両親が同国で日本人墓地の整備などに尽力した人物と知り、恩義や縁を感じた。同国を訪れた深松は、経済成長のスピードに驚く一方で、外国人駐在員が満足する住宅が不足している状況に目が行った。ビジネスに思いが至り、昨年11月に初弾案件の工事に着手した。日本のベテラン職長が指導し、技術力の底上げも図るという。
 根底にあるのは危機感だ。次に巨大地震が起きた時、日本人だけで早期に復旧・復興できるのか。「どんな形でもよいからアジアの発展を手伝い、日本のファンを増やしたい。それは『いざ鎌倉』という時に助けてほしいから。それしかない」。
 最初は小さな恩返しであっても、広く循環していけば、新たな地平が見えてくるかもしれない。深松の挑戦は、これからが本番だ。
 生き延びた人が、次の命を支える。東北の復興の現場で、そうした場面に出会った。それは、建設業の仕事が生まれた時から変わることのない本質的な姿だった。=敬称略

建設業「命」の現場で・26(おわり)/第5章・希望をつくる/子孫につなぐ恩返し

《日刊建設工業新聞》

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