【建設業「命」の現場で・24】第5章・希望をつくる、夢が使命に変わる時 画像 【建設業「命」の現場で・24】第5章・希望をつくる、夢が使命に変わる時

インバウンド・地域活性

 東日本大震災が建設産業に突き付けた最大の課題とは、「人」ではないだろうか。復旧・復興のために現地に駆け付ける人がいることの大切さ。新たな担い手が入らない限り、その「当たり前」は維持できない。連載シリーズの最後は、若手の姿を交えつつ、未来をつくる動きを追う。
 佐藤篤使は昨春、東北工業大学の建築学科を中退し、大工になった。きっかけは、宮城県などで大工の育成に取り組むNPO法人「匠(たくみ)の右腕」理事長の高橋渉による講義だった。高橋が話したのは、手刻み加工で材料を作り、木造住宅を建てる人材の重要性。現在は工場での機械加工プレカットが主流で、手刻み加工は不要と思った時期もあった。だが震災後、考えが変わったという。
 高橋の本職は、仙台市泉区の工務店・栗駒建業の社長。震災直後は、手に入る材料で現場合わせによって壊れた家を修繕しなければならず、仕事が追い付かなかった。「新築は素人でもできるが、復旧はプロにしかできないと痛感した」。その危機意識からNPOを立ち上げ、大工塾の開催や出前授業など活動が広がっていった。「大工を育てる仕組みをつくりたいという夢から出発した。周囲に相談する中で後押ししてくれる人ができ、だんだんと後に引けなくなって、自分にとっての使命へと変わっていった」と高橋は振り返る。
 その思いが、大工を志していた佐藤に伝わった。「建築を学んでいる僕らが復興をやらなきゃいけないって思っていた」と佐藤。技術と知識がある棟梁のような大工になることが今の目標だ。
 震災を経験した若者たちは人を助ける仕事に魅力を感じる傾向が強い、と高橋は見ている。建設業はそうした仕事の一つ。人材を求める建設業と社会貢献を重視する若者のニーズは案外合致しているのではないか-。同社には今春も大工を目指す若者が入る。
 高橋は今、熟練大工が指導者となって若手に手刻み加工を教える場を作る「職人の郷(さと)構想」を進めている。例えば、工務店が木材加工を依頼する際、その会社の若手大工も一緒になって手刻み加工を行い、出来上がった材料で家を建てる。それを何度か繰り返せば、手刻み加工ができる大工が育つ。
 こうして技術を身に付けた人を「栗駒大工」と名付けてブランド化することが目標だ。目指すのは、岩手県陸前高田市をルーツとする「気仙大工」。彼らは、卓越した技を持ち、腕一本で全国を渡り歩いていた。「職人さんの地位向上にはブランド化が必要だ。一目置かれるような肩書があれば、プライドを持って仕事ができる」。
 理想の職人像は美容師という。初見の客と会話をしながら求めるイメージを聞き出し、プロの技で具現化する。満足してもらえれば指名が増え、報酬も上がる。「『あの大工さんにやってほしいから何年でも待つ』という世界にしたい。それくらい高等技術が求められる業界のはずだ」とも。
 地域の大工が地元の木材で家を造り、災害時には復旧させる。そうした完全地産地消が目指す姿。「何とかモデルを構築し、他地域にも広げたい」と高橋。熟練大工はどんどんリタイアしていっている。残された時間はわずかしかない。=敬称略
 (ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・24/第5章・希望をつくる/夢が使命に変わる時

《日刊建設工業新聞》

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