弱かった産業を元に戻すだけでは復興にならない。社会貢献から事業化へ 画像 弱かった産業を元に戻すだけでは復興にならない。社会貢献から事業化へ

インバウンド・地域活性

 東日本大震災から5年が経過した。この間、震災がれきはなくなり、道路や学校、病院は100%近く復旧した。水産庁の2014年度水産白書によると、漁港や再開を希望する水産加工工場は15年度中に全ての復旧にめどが立っている。厚生労働省によると求人倍率も震災直後は被災3県ともに0・45倍であったが、15年12月時点では岩手県1・20倍、宮城県1・34倍、福島県1・50倍と全国平均(1・27倍)に肩を並べるほどに回復した。

 しかし、復興にはまだまだ時間がかかる。地域の人びとが暮らすためにはサービスと雇用を供給する事業者が必要であるが、ビジネスはまだ戻っていないためだ。

被災事業者の55%は売り上げが震災前に戻っていない
 被災事業者の55%は売り上げが震災前の値に戻っていない。沿岸の中心産業である水産・食品加工業は、74%が戻っていない。雇用も被災事業者の45%が減ったままで、水産・食品加工業は63%が減らしている。こうした状況の背景には、震災後に失った取引先が戻らないことがある。

 そもそも被災した沿岸の産業は強くなかった。岩手県では平均所得が盛岡市で300万円であるが、沿岸では200万円程度だ。福島県では双葉町や大熊町で300万円を超えていたが、それは原発があったためである。

地域の事業者が自分でリスクとる政策を
 弱かった産業を元に戻すだけでは復興にならないことに福島・岩手・宮城の3県は気づいている。岩手県は三陸沿岸道整備をきっかけに、観光・水産業の高付加価値化を目指している。宮城県は仙台空港の民営化や、漁業への株式会社参入を働きかけた。一方の福島県はロボット産業を福島の新しい産業に育てつつある。

 産業復興のために最初は行政の支援も必要であるが、その後も続くと逆に市場の歪みを招くことに留意するべきである。顧客に対する価値創造よりも行政との関係強化を重視する事業者が増えるためだ。地域の事業者が自分でリスクをとり、自力で事業を推進できるように政策を切り替えることが求められる。


首都圏の大手企業が地域と連携、社会課題解決に挑む
 一方、首都圏の大手企業が地域と連携し、産業振興などの社会課題解決に挑む例も増えた。特に震災を機に、企業の社会貢献の傾向がCSR(企業の社会的責任)部門のものから経営者主導に変わり、かつ、本業の力を生かす社会貢献へと切り替わってきている。

 例えば人材関連企業は、三陸へ首都圏から人材を仲介する事業を進めている。地域をよく知る行政と連携して参加事業者を募り、特設サイトでその魅力を紹介して人材マッチングを行うだけでなく、雇用主や採用者に対して研修やフォローを行っている。

 また、これを一過性の社会貢献イベントとせず、地域展開の一つのモデルとして位置づけているため「復興支援」で終わらせず、他地域での展開を可能としている。

 また化粧品メーカーは地域の事業者と連携し、地元素材を生かした新商品開発と販路支援を行っている。商品企画や開発、流通まで幅広く支援し、企画力や開発力といったノウハウと地域事業者の人的資源や販売網を組み合わせ、お互いの強みを生かしたモノづくりを行うことで、相互にとってビジネス上での新たな価値が生まれるだけでなく人材育成の機会にもなっている。

 社会事業のための専門部署を設けている飲料メーカーもある。地域を発展させ、またその結果として本業にもつなげるという方針のもとで事業にコミットし、三陸沿岸の水産物のブランド化を推進している。

地域間の同業者、異業種連携が産業構造の転換に
 震災前はほとんど連携されてこなかった地域間の同業者連携や、地域内の異業種連携などを支援することで、付加価値の高い商品づくりが次々と実現している。これまでの産業構造を転換し、より強い地域産業を作るために、地域が自ら付加価値のある仕事を生み出すことは意義がある。

 このように企業が復興を直接支えている例は5年間で蓄積され、復興の課題は明確になった。担う人材もいる。しかし行政主導のまま、民間同士が連携できずにいると、持続的な復興は実現しない。

 地域が自立するには民間がもっと創意工夫することが重要であるが、同時に行政と連携してお互いの強みを生かし合うことで、これまでになかった社会課題を解決することも可能になる。私たちRCFも、非営利組織として地域と企業をつなぐ役割を担っている。公助だけでなく、企業をはじめとした共助の取り組みが進むことで、正念場を迎える復興が加速すると考えている。

 規模からみれば、国内市場の魅力は減りつつある。一方で、少子高齢化が最も進んでいるという意味で、日本は課題先進国でもある。社会課題起点で日本の地域を捉え直し、またその解決に本業を通じて挑むことで、世界にも通じる新しい事業機会の発掘にもつながると考えることができる。

「浜通り」、ロボット産業クラスターへ
日刊工業新聞2016年3月11日
「浜通り」で知られる福島県沿岸部。この一帯でロボット産業の一大集積地を目指す動きが進む。政府が現地の震災復興も兼ね、復興庁や経済産業省などの事業として、廃炉や災害対策向けのロボットを実証・試験運用できる大型の施設を相次いで建設しているのだ。ただ、国内外の企業や研究機関を誘致し、多様な人材が行き交う「産業クラスター」に発展するまでの道のりは険しい。

 福島第一原子力発電所から20キロメートル南、楢葉町の工業団地内に「モックアップ施設(楢葉遠隔技術開発センター)」が昨秋完成した。建設費は約100億円。同原発内部を再現した3次元映像を表示する仮想空間施設のほか、階段や水槽などを導入した建屋を建設。企業や大学などが、原発や被災した建物の内部をロボットで問題なく移動できるか検証する。

 また2016年度内に数キロメートル四方にわたる広域な敷地を確保し、「ロボットテストフィールド」を整備する。まず、「事前調査で最も要望があった飛行ロボット(ドローン)の実証に使えるようにする」(経済産業省産業機械課)計画だ。広大な敷地を生かし、ドローンによる被災地の状況の確認や、橋やダムなどインフラの点検などを想定する。

ロボット五輪の開催とハコモノ行政という指摘
 このほかにも廃炉ロボットの国際的な産学共同研究開発拠点の整備も予定する。20年の東京オリンピック・パラリンピックに合わせて開催する「ロボット五輪」の開催場所として福島県内を推す声もあり、同県が世界的にも有数のロボット関連設備の集積地となるのは間違いない。

 行政側は民間企業のニーズを調査しながら数年にわたって検討を重ねてきた。とはいえ事業費100億円級の施設が企業からの利用料だけで採算ラインに乗せるのは難しい。従来型の”ハコモノ行政“との指摘もある。

 そんな中、復興庁や経産省は半導体や水素関連の企業や大学が集積する北九州市などの先行事例を調査している。そこで判明したのは、「地元企業の参加や住民の理解が重要」(復興庁)だということ。その地域の歴史的な強みなども考慮する必要がある。

 この点、サイバーダインが医療用装着型ロボット「HAL」の生産工場を福島県郡山市に建設していることが注目される。実は福島県には医療機器メーカーの工場が集積。部品を供給する中小企業も多く、医療関連のロボットを手がけるうえで有利に働く。

 こうした実情を踏まえつつ、政府は浜通り地域の産業育成に向けグランドデザイン(全体構想)を5月末にもまとめる。構想には地域資源を引き出すための方策や企業誘致の施策も盛り込む方針だ。
(文=平岡乾)
《ニュースイッチ by 日刊工業新聞》

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