【2016年震災特集】駐日チリ大使に聞く、防災協力の輪を世界に 画像 【2016年震災特集】駐日チリ大使に聞く、防災協力の輪を世界に

海外進出

 ◇より災害に強い社会実現には時間も必要
 災害大国の日本と同様に地震・津波被害が頻発するチリ。2010年チリ・マウレ地震、11年東日本大震災によって甚大な津波災害が出たのを契機に、両国は国際共同研究プロジェクト(SATREPS)「津波に強い地域づくり技術の向上に関する研究」に着手。このほど4年間の研究成果をまとめた。協力関係を深める両国は自国の防災力の強化にとどまらず、津波災害に弱い他地域にも支援の輪を広げようとしている。駐日チリ大使のパトリシオ・トーレス氏に両国で進めてきた地震・津波対策や、今後の展望などを聞いた。
 10年にチリでマグニチュード8・8のマウレ地震が発生した際、最初に到着した国際援助チームが日本だった。11年には東日本大震災が発生した。二つの大地震を通じて両国は防災分野での協力関係を一段と強めることになった。今では防災分野は両国外交の柱であり、協力関係はさらに深まっている。
 チリは日本が持つ最新の防災技術・知見を必要とする一方、日本もチリの事例から学べることが多いだろう。4年前にスタートしたSATREPSは重要な役割を果たしている。これまでの共同研究は15年度で終了するが、今後も継続事業が実施されるだろう。
 津波防災の研究や人材育成などの取り組みは両国間にとどまらず、今では周辺国など他地域にも広がりつつある。中南米各国の防災担当者を受け入れ、両国で培った技術や知識を提供して第三国の人材を育成する「KIZUNA」プロジェクトは素晴らしい成果の一つだ。
 チリは、他の中南米諸国よりもアジア諸国と密接な関係を築いており、防災分野で東南アジア諸国連合(ASEAN)などとの関係をさらに強固にしたい。具体的な取り組みについては、既にASEANへの防災支援を数多く行っている日本と協力しながら検討していく。外交の仕事に長年携わってきたが、ある特定分野で2国間関係がこれほど強力なものになった例は見たことがない。
 災害時には市民の冷静な対応が欠かせない。命をつなぎ、救うためには適切なタイミングで適切な行動を取る必要がある。津波災害では特に沿岸部の住民に対して情報提供と訓練を行い、防災意識の向上を促すことが必要だ。
 チリでは14、15年にも地震・津波被害に見舞われたが、これまでの教訓が生き、対応は非常に素早かった。ハード面では、日本が95年の阪神大震災後に構造物の耐震化を推進したように、チリも沿岸部の強靱(きょうじん)化に力を入れ、政府は沿岸部へのインフラ投資を大幅に増やした。
 復興事業は、みんなが期待するスピードでは進まないものだ。被災して得た経験と新たな見識を取り込んだ上で、これまで以上に強い社会にするために、事業費が増えたり、新たな計画・設計が必要になったりする。チリとの関係が深い宮城県南三陸町の佐藤仁町長からは「将来の災害に備えるための準備が必要となり、町の復興は予想よりもスピードが遅い」と聞いた。
 チリも同じような状況にある。住民は生活再建のために復興を急いでほしいが、政府側は新しい知見を取り入れた綿密な計画づくりを重要視しており、その考え方の違いに互いがジレンマを感じている。
 昨年3月に仙台で開かれた国連防災世界会議を機に、「より良い復興(Build Back Better)」に向けた取り組みが活発化してきた。単に元通りにする方が政策的には簡単かもしれないが50年後、100年後のことを考え、次に備えることが重要だ。
 防災対策には最新の技術や機器の導入、住民側の準備、地元自治体の人材育成・能力強化の三つの段階がある。チリの専門家が「研究者らは災害に備えて何をすべきか理解しているが、資金を出す地元政府の職員を説得することが難しく、理解を得られなければ事業は前に進まない」と話していた。その説得には明快なデータが不可欠であり、こうした分野でも日本の支援を期待したい。
 日本はトップの首相から国民一人一人に至るまで、防災の重要性をきちんと認識していることが大きなアドバンテージといえる。チリでも大統領が10年の大地震を経験しているため、防災分野への投資を重視している。対策は常に十分ではないが正しい方向に進んでおり、地元政府への働き掛けを今後強める必要がある。
 大地震への備えでは、厳しい設計基準を持つと同時に、その基準を順守して強固な構造物を建設できるエンジニア、建設会社の役割も大きい。何度も東北に足を運んでいるが、復興事業に携わる官民双方の仕事ぶりは素晴らしいと思う。被災者にとっては望ましいスピードではないないかもしれないが、よく考え、計画が練られている。
 それと同時に、自分の利益だけを追求せず、地域の復興を我慢強く待っている住民の寛容さ、規律、連帯を大切にする日本人の姿勢に感動した。他の国にはないものであり、こうした文化が根付いていることが日本の防災力の強さでもあるのだろう。
 (第2部・2016年震災特集「東日本大震災から5年」の全文は、オンラインサービスに掲載しています)

2016年震災特集/パトリシオ・トーレス駐日チリ大使に聞く/防災協力の輪を世界に

《日刊建設工業新聞》

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