完全ワイヤレスの超小型イヤホン「EARIN」! 北欧ベンチャーの開発者が語った商品化までの道のりとは 画像 完全ワイヤレスの超小型イヤホン「EARIN」! 北欧ベンチャーの開発者が語った商品化までの道のりとは

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 スウェーデンのベンチャー企業、Epickal ABが開発した“完全ワイヤレス”のBluetoothイヤホンが昨年末に日本国内でも正式に発売され話題を呼んでいる。本国から来日した開発者のペア・ゼンストローム氏は9日、都内で記者発表会を開催し、新商品「EARIN」誕生までの経緯を語った。

■スウェーデン発ベンチャー企業の「完全ケーブルフリーのイヤホン」

 ペア・ゼンストローム氏は現在の同僚でもあるキリル・トラジコフスキ氏、オレ・リンデン氏とともにEpickal ABを起ち上げた創立メンバーの一人。前職ではソニーエリクソンとノキアに在職し、エンジニアとして活躍した。他のファウンダー2名もそれぞれ通信系企業で働いていたバックグラウンドを持つ。

 Epickal ABはスウェーデン南端の街・ルンドにある。現在ソニーモバイルやエリクソン、ノキアなどが拠点を構える北欧随一のIT・通信の先端発信基地だ。大学生が人口の4割を締める非常にアカデミックな街としても知られる。

 彼らが商品化した「EARIN」は、両耳のイヤーピースがケーブルフリーという、完全独立タイプのイヤホンだ。別途トランスミッターが必要だったり、片耳タイプのヘッドセットはこれまでにいくつもの商品が世に出ているが、左右のイヤーピースが両方ともにケーブルフリーで、しかも高音質を謳うオーディオ用Bluetoothイヤホンとして商品化されたケースは他にも類を見ない。商品開発の起点についてゼンストローム氏は、「着想はとてもシンプル。ケーブルが要らない、とても小さなイヤホンを作りたかったから」とシンプルに言い切る。

 Epickal ABのファウンダーメンバーは2013年にチームを結成して会社を興した。いわゆるベンチャー企業であり、スタートの活力に満ちたメンバーたちは、創業当初、毎日コーヒーテーブルを囲み、時には酒を酌み交わしながらEARINのアイデアを練り上げた。同じ年の春には製品の概略を固めてプロトタイプをつくり、続く2014年後半には「思い切りで企画を実行に移した」とゼンストローム氏が振り返る、クラウドファンディングサービスのキックスターターにEARINのプロジェクトを公開した。プロジェクトを前に進めるための出資を募りつつ、商品開発のより具体的なステージに重要な一歩踏み出した。なぜ彼らは敢えてベンチャーという生き方を選び、クラウドファンディングで資金を集める手法を採ったのか?最終決定を下したのは自分自身だと語るゼンストローム氏がその理由を次のように述べている。

■スカンジナビアで最大級のプロジェクト!キックスターターで150万ドルの出資を募る

 「本当にハイテクな商品だから、時間と資金が必要になることは分かっていました。でも銀行や投資会社に出資を募る従来のやり方では、スピーディーにいい商品が開発できるとは思えなかったので、クラウドファンディングの道を選択しました。クラウドファンディングのオープンなプラットフォームなら、プロジェクトを発表してからも出資者の方々と直接つながって生の声が得られることも知っていました。EARINは良い製品プロジェクトだという自信もあったので、そのぶん注目も浴びることができるだろうと考えていました」

 同社は結局キックスターター経由で150万ドル(約1.7億円)の資金を集めることに成功した。当時、キックスターター上で走っていたプロジェクトとしては、欧州では5番目、スカンジナビア地域では最大規模のプロダクトとして名を残すことになったのだ。

 その後、ゼンストローム氏をはじめEpickal ABのメンバーは出資者からの期待に応えるべく、気を引き締め直して商品化への道のりを歩み始めたが、途中にはいくつもの困難が立ちはだかったという。

「私たちが当初に立てた計画では2015年の1月に出荷、今頃にはミリオネアになっている予定でした(笑)。でも実際には思いがけないトラブルなどもあって、開発には時間がかかりました。私たちは山積みになった問題点を一つずつ丁寧につぶして、ようやく商品化を達成しました。やがて2015年の11月にキックスターターの初期出資者の方々へ出荷、昨年末から店頭に商品として並べられるようになりました」

 発売後、瞬く間に脚光を浴びたEARINは現在世界各地でバックオーダーを抱える盛況ぶりだ。日本でも昨年の12月に販売が開始されている。完成版のEARINは、キックスターターで初期に公開されたプロトタイプからデザインが若干変更されたものの、基本的なコンセプトを曲げることなく世に送り出された。

 イヤホン部単体の質量は3.5g。直径14.5mm、長さ20mmという超軽量サイズを実現。左右完全独立型のイヤーピースに、バッテリーを内蔵する専用ケースの3ピース構成。スマホにBluetoothでペアリングしてから両耳にイヤーピースを装着後、完全にケーブルフリーの状態で音楽再生を楽しめる。Bluetoothの音声コーデックは一般的なSBCのほか、高音質版のコーデックであるaptX/AACにも対応した。本体にはBA型のドライバーを搭載し、高域から中域低域までバランスよく情報量も豊かなサウンドが特徴だ。

■ペアリングは手間いらず!すぐに音楽再生が楽しめる

 Bluetoothイヤホンは通常、1台のモバイル端末に対して1台のデバイスをペアリングして使うものだが、このEARINに関しては同時に2台のイヤーピースを同期させながらステレオ音声を再生できるようにしなければならない。仕組みとしては左側のイヤーピースをモバイル端末に接続して、左側イヤホンに送られる音声信号を、今度はタイミングを揃えて右側のイヤホンに送り出すことで、左右の音声にタイミングのズレがない、切れ味の冴えたサウンドを実現している。「この信号伝送まわりの技術を完成させるために、言葉にできないほどの苦労があった」と、ゼンストローム氏は安堵した表情で振り返った。ちなみにこの信号伝送の技術に特別なネーミングはないが、イヤホンへのインプリメントに関するノウハウについては同社が特許を取得しているという。

 ゼンストローム氏が「ワイヤレスイヤホンにとって非常に大事なコンポーネント」として挙げるのは「バッテリー」。耳栓型のイヤーチップは装着すると周りの人に音楽を聴いていることに気づいてもらえないほどコンパクトだが、キャビネット内部の容積は大半がバッテリーを組み込むために割かれている。ゼンストローム氏は、バッテリーのパフォーマンスを最大化するため、サイズと容量のバランスの駆け引きに腐心したと振り返る。最終的には同製品のためにカスタムオーダーしたバッテリーパックが搭載されたそうだ。もう一つ、左右イヤーチップ間に音楽信号をエラー無く到達させる安定した伝送品質を確保するため、アンテナの感度を高めることにも大いに気を配ったという。

 「本体の外観をシンプルにしたかった」とゼンストローム氏が語るように、イヤホン部にはボタンらしきものが見当たらないミニマルなデザインだ。「通常は本体に電源ボタンなどが付いているものですが、これらはすべて省いて、アルミの削り出しケースを用いたポケットサイズのカプセルの中から出し入れする際に、電源のON/OFFが連動する仕組みです。600mAhのバッテリーを内蔵するカプセルに格納すると、イヤホン部の充電がはじまります。最大で連続3時間の音楽再生ができるだけのバッテリーがイヤホン部に搭載されていますが、バッテリーが尽きてもカプセル内蔵の充電池で3回分のチャージができます」とゼンストローム氏は機能の詳細を説いた。なおケースはパッケージに付属するmicroUSBケーブルをつないで充電ができるので、旅先にも軽快に持ち運べそうだ。本体には耳元への装着性を安定させるため、着脱式の樹脂製イヤーフィンやCOMPLY社のメモリーフォームチップが同梱されている。

 Android/iOS対応の専用アプリ「EARIN」を併用すれば、左右イヤホンのバッテリー残量がメーターで可視化できるほか、ベースブーストなどの簡易なイコライジング機能が利用できる。なお、5月末にはWindows 10 Mobile版アプリもリリースを予定している。

 そのプロダクトデザインが高く評価され、デザイン業界におけるオスカーとも言われる「iFデザイン賞」も獲得したことも作り手の誇りだとゼンストローム氏は胸を張った。最後にゼンストローム氏は、今後も完全ワイヤレスイヤホンの先駆者であるという自負を胸に刻みながら、さらに腕を磨いてカテゴリーリーダーとして質の高い製品を作り続けていきたいというストイックな意志を言葉に換えて示した。
《山本 敦》

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