【建設業「命」の現場で・23】第5章・希望をつくる/東北のこれからのために 画像 【建設業「命」の現場で・23】第5章・希望をつくる/東北のこれからのために

インバウンド・地域活性

 鹿島常任顧問の赤沼聖吾は、岩手県宮古市出身。東北で育ち、働いてきた。東日本大震災が起きた時は、同社東北支店長とともに日本土木工業協会(現日本建設業連合会)東北支部長も務めていた最前線を知る一人だ。制約条件の厳しい中に自ら身を置き、多くの関係者が奮闘した。その尽力に水を差すつもりはない。だが、被災地に立つと、「もっとできたことがあった」と思えてならない。
 そう考える起点は、発災当時に語られていた言説にある。「被災者が待てるのは3~4年。その間に街ができないことが分かった時点で、人の流出が始まる」。あの日から間もなく5年。その見立ては正しかった。「人をどうつなぎ止めるかが一番大事だった。最低限の住まいと生業(なりわい)を早く整え復興の核を造っていたら、違う結果になったはずだ」。
 タイムリミットから逆算して工程を組み立てて、それを実現する手法を考える。建設業の十八番(おはこ)だ。例えば漁業の盛んな地域では、土木・建築と事業を分断せず、必要最小限の造成をした後に、津波被害を避ける高さの人工地盤を造り、上に住居を、下に魚市場や加工場、商店といった産業機能を集積させる。高台移転・多重防護だけにこだわらずに柔軟な発想で進めていたならば、スピード感と多様性がより生まれたに違いない。
 市町村の責務が災害対策基本法で定められていたが、沿岸部では行政自体も甚大な被害を受け、経験が無い上に、人員不足も重なった。今回のような広域大災害で、迅速な対応など無理だ。政府の予算対応の遅れも、復興まちづくりの計画作成に大きく影響した。国や県がもっと関与し、さらに、上流部分から大胆に民間の力を活用する仕組みを取り入れていたならば、違う展開になっていた、と赤沼は見ている。
 その決断は政治にしかできない。多くの議員が現地を訪れたが、被災地が納得する成果をどれだけ導けたのか。「法律、予算、政治、心という四つの壁があった」。それは将来の災害に備えるための教訓とイコールだ。
 震災後、赤沼を勇気付けたものがある。それは国際リニアコライダー(ILC)誘致計画の存在。岩手・宮城両県にまたがる北上山地の地下に、世界初の直線型大型加速器(全長31~50キロ)を整備し、宇宙の起源を探るプロジェクトだ。1999年に勉強会に参加して以来、科学者や関係者と議論を重ねてきた。「東北はこれからどうなるのか…。そんな不安の中でILCの存在が心強かった。希望を感じていた」。
 赤沼は、人口減を最小限にするには、域外から収入を得られるような基盤産業が不可欠だと考えている。ILCが実現すれば、世界から優秀な人材が集まり、日本初の国際研究機関が形成され、革新的な技術が新産業を生み出し、企業集積も進むだろう。研究者や企業人のみならず、東北の豊かな自然・文化を堪能しようと観光客も増え、既存の基盤産業に好影響を与え、東北全体が活性化する。建設産業という狭い次元の話ではない。
 「ILCは東北を変える起爆剤になる。地方創生の可能性が無限大に広がる」。そう信じてILCの進め方の研究や講演にも力を入れる。一人の東北人としての挑戦が、そこにある。=敬称略
 (ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

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《日刊建設工業新聞》

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