【大震災5年-これまでとこれから・5】日本地震工学会会長・目黒公郎氏 画像 【大震災5年-これまでとこれから・5】日本地震工学会会長・目黒公郎氏

インバウンド・地域活性

 ◇「より良い復興」の方法探れ/巨大災害に事前リスク低減を
 東日本大震災直後に復興のビジョンとして「将来の繁栄の礎となる創造的復興」を提言した。大規模災害は、地域が現在あるいは将来的に抱える課題を時間を短縮してより顕在化させるため、「元通り」に戻しても問題解決にならない。その機会を有効に活用し、さまざまな方法でより良い復興を目指す必要がある。
 技術のない時代とある時代では、復興法も変わる。過去には斜面を活用する以外に高さを稼ぐことはできなかった。多様な復興法の一つとして、現在では20階程度のビルをつくり、地域住民の居住に必要な床面積を安価に確保するといったことも考えられる。低層階は津波に備えて使用を制限し、5、6階以上を居住階とすれば、防波堤で海が見えないなどの問題も生じない。維持管理を含め、トータルの経費も安くなり、国が目指す集約型のコミュニティーができたはずだ。
 震災後のマスコミの論調にも問題があった。岩手県釜石市の湾口(津波)防波堤や宮古市旧田老町の防潮堤が津波で壊れた姿を映し、巨額を投じたにもかかわらず機能しなかったと報じたが、これは正しくない。津波浸水域の62万人の中で死者は3%だった。浸水域内人口の97%の生存者率は過去の内外の津波災害と比べても非常に高い。釜石の津波防波堤は、未整備の場合より津波の陸域への到達時間を6分間遅らせ、津波の浸水深と遡上高を3~5割落とした。こうした事実を伝えなければ事前対策の重要性は過小評価される。
 防災では「自助・共助・公助」が重要だが、少子高齢化と財政難から公助は今後減っていく。これを補う自助と共助の確保が大事になるが、そのためには「良心」に訴え掛けるだけの防災には限界がある。防災対策の「コストからバリューへ」の意識改革が必要となる。
 企業を対象とした日本政策投資銀行による災害時の事業継続の格付けでは、評価の高い企業は他よりも低い金利で融資を受けられる。災害の有無にかかわらず防災対策がバリューを生む。学会の会長特別委員会では、自助と共助を重視する自治体の防災格付けから、マンションやオフィスビルの防災格付けを検討している。格付けによって市民や観光客などが安全性の高い方に移動するだろう。
 災害保険もリスクファイナンスの機能に加え、リスクコントロールに貢献する機能を強化すべきだ。災害リスクの高い地域や建物から低い方に人口を誘導し、将来的な被害を大幅に減らし、多額の積立金が不要になる状況を目指すべきだ。
 防災対策は、時間と予算に限りがあるため、通常はリスクの高低を指標として優先順位付けが行われる。リスクは「ハザード(危険性)」と「バルネラビリティー(ぜい弱性)」の積で評価され、結果的には「起こった時の被害規模×発生確率」になる。しかし、この概念で優先順位付けが可能なのは、被害規模が対応母体の能力で復旧・復興できる範囲までだ。
 想定被害総額が300兆円を超える首都直下地震や南海トラフ巨大地震の被害はオールジャパンの体力を持ってしても復旧・復興は難しい。発災までの時間を有効活用した事前のリスク低減策によって復旧・復興が可能な規模までダウンサイズすることが不可欠だ。(随時掲載します)

大震災5年-これまでとこれから・5/日本地震工学会会長・目黒公郎氏

《日刊建設工業新聞》

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