【建設業「命」の現場で・20】第4章・われらの責任/最善を追う中で 画像 【建設業「命」の現場で・20】第4章・われらの責任/最善を追う中で

インバウンド・地域活性

 「大きなテーマを与えられた」。宮城県土木部長の遠藤信哉は、東日本大震災が自身の人生にもたらした影響をこのように感じている。震災以降、いくつも分かれ道があった。その都度、最善の道は何かを必死に考えてきた。
 震災直後、県は、被災市町村が復興計画を立案する際の参考になるような「たたき台」を作成した。その中で、最終形がたたき台とは大きく変わったものがある。それは防災集団移転促進(防集)事業の対象地区数。宮城県内では、沿岸部の約200カ所の集落が津波で被災した。県は、行政サービスやコミュニティーの維持といった観点から、半分弱の90カ所程度まで集約化を図るプランを作成。被災自治体の首長も賛同し、住民との協議に入った。だが、合意形成は難航し、震災前とほとんど変わらない195カ所に落ち着いた。
 「正しかったのか、正しくなかったのか。ただ、長期的に見て本当に持続可能な集落に移行していけるのかと聞かれると、なかなかイエスとは言えない部分もある」。
 県の対応にも、ある種の矛盾があった。防集事業の最低戸数は10戸だが、2004年の新潟県中越地震の際に5戸に緩和された実例があった。このため県は同様の措置を国に要望し、容認されていた。集約化を提案する一方で、小規模集団移転を認める方向にも動いていたのだ。
 ただ、遠藤は今後を悲観的には見ていない。安全な住宅地が整備されたことは事実であり、そこに余剰地が生じたとしても、高齢者向け施設や観光基盤などとして利用すれば地域の核にできる可能性がある。「増税までして街づくりをさせてもらっている。そのお金を無駄にしてはいけない」。出来上がった基盤を使いこなし、新たな展望を切り開く。それが被災地の責任だと感じている。
 震災後、土木部の事業費は急増し、ピーク時には震災前の約5倍に膨れ上がった。だが、それをこなす人員は、全国からの応援を加えても1・2倍程度にとどまった。「多少強引でも力業で行かざるを得ないような世界になった」と遠藤は言う。
 通常の公共事業は、用地買収から設計、施工と段階を踏んで進めるが、今回の復旧・復興事業では、用地買収のめどが立つ前に工事を発注するケースも生じていた。その後の用地確保が思うようにいかず、最終的に工事が一部中止になった案件もある。無理があったことは認識している。だが、「平常時のような精緻せいちなやり方では、何年たっても物事が進まなかっただろう」。そうした実感の方が強い。
 用地取得については、起工承諾方式の採用など工夫の余地があったと思う面もある。国に対してもさまざまなアイデアを提案した。審査期間の短縮など配慮してもらえたところもあるが、多くは認められなかった。「個人の財産権の侵害につながりかねない部分は慎重にならざるを得ない。それは仕方がない」。
 震災が起きたのは55歳の時。あの日、営々と整備してきたインフラが水泡に帰す姿を目の当たりにし、「何をやってきたんだろう」と自問自答した。「生まれて良かったと思える宮城をつくるために、自分に何ができるのだろうか」。大きなテーマと向き合う時間はまだ終わっていない。=敬称略
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《日刊建設工業新聞》

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