【建設業「命」の現場で・19】第4章・われらの責任/将来に遺すべきもの 画像 【建設業「命」の現場で・19】第4章・われらの責任/将来に遺すべきもの

インバウンド・地域活性

 「将来のために何を遺(のこ)すのか。そこを言いたい」。東日本大震災の発生時、ゼネコンの社長として対応に奔走した熊谷組相談役の大田弘は、インタビューの最後をこう締めくくった。大田は、富山県宇奈月町(現黒部市)の出身。映画『黒部の太陽』に感化され、土木屋として生きてきた。故郷の黒部川扇状地は幾度も氾濫し、多くの犠牲者を出してきた場所。約400年に及ぶ治水の闘いが、現代を生きる人の命を守る。今があるのは先人のおかげ。だからこそ思うのだ。われわれは将来に向けて何ができているのか、と。
 「非常時に実践的な動きが本当にできるようにルールを作っておくべきだ。『震災を忘れない』というのはそういうことではないか」。
 大田は震災以降、「非常時」や「異常事態」といった言葉を繰り返し使い続けてきた。人命救助、インフラ復旧、災害廃棄物処理、住まいの再建など、すべては一刻を争う。国土交通省などの行政機関は従来の枠を越えて取り組み、建設業界も公の心を背負った「公人」として奮闘してきた。
 だが、がんじがらめの状況も目の当たりにした。壊滅的被害の中で、従来通りの予算の枠組みや行政領域に沿った対応が、最善の方策だったのか。どうやったら速やかに施工に当たることができるのか。そのための発注はどうあるべきなのか。
 契約条件が定まらない中で応急復旧を行ったが、精算段階になって平時の積算が適用されてしまう。そんな事態も各地で発生していた。「行政は、われわれが何をやったのか、目の前で見て分かっている。堂々と胸を張って適切に対価を支払う-そうした柔軟な裁量権を発動できるようにしなければならなかった」。
 それは、批判とは違う。理不尽と思いつつも、平時のルールに則して動かざるを得ない状況が、被災地の最前線にあった。非常事態は、少なくとも災害発生から数年間は続く。そうした時に、官民の持てる力を最大限に発揮できるようなルールを作り、大災害に備えるべきだ、と。それが、多くの尊い命が失われた震災への一つの総括だと感じている。
 建設業界としての悔いもある。「『行政や国の仕組みの中でやるしかない』と、枠内での動きを基本にしてしまった。それを超えた提案をもっと真剣に働き掛けるべきだった。認識に厳しさが無かった」と振り返る。自身が参加した国交省と日本建設業連合会との意見交換会では、一歩でも前に進むための提案を求める投げ掛けが官側からあった。だが、「行政に形を固めてもらい、とにかくそれを実行するというところにとどまった」。
 災害は国家百年の計と密接に結び付く。50年後の子どもたちにどういう日本を渡すのか-。震災をめぐる思いの行き着く先はその一点となる。財政事情は理解しているが、将来のために投資しなければ、とんでもない国土を遺す結果となりかねない。「説明責任だけではなく、反対があっても『全体を良くするためだから』と説得する責任がわが世代にはあるはず。復興も同じように思う」。
 大田は今、郷里の学校、公民館などで講演する機会も多く、防災意識を高める発信にも力を入れる。自分ができることは何か、その思いで動き続ける。=敬称略
 (ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

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《日刊建設工業新聞》

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