【建設業「命」の現場で・18】第4章・われらの責任/被災地で見つめた原点 画像 【建設業「命」の現場で・18】第4章・われらの責任/被災地で見つめた原点

インバウンド・地域活性

 建築家・伊東豊雄は、東日本大震災後、岩手県釜石市の復興などに関わった。歯がゆい状況もあったが、新たな可能性を感じた。何より自分自身が変わった。伊東は、「建築界のノーベル賞」と称されるプリツカー賞を受賞した日本を代表する建築家の一人。被災地での時間が、彼の何を変えたのか。
 「東北の人は粘り強く、潜在的なエネルギーを持っている。自分たちの力で復興しようという強い意欲がある」。被災地でのそうした姿に感化され、高齢者が寄り添うシェアハウスのような災害公営住宅や、ラグビースタジアムのスタンドを兼ねた防潮堤など従来の枠にとらわれない提案を行った。だが、「ほかのエリアと違った物を造られるとまずい」というような平等主義的な発想が壁となり、多くは実現しなかった。
 「最初からやりたかったのではなく、やむを得ず、せめてできることをやろうと始めた」。それが、共感する建築家らと共に立ち上げた「みんなの家」プロジェクトだ。街の未来を議論できるようなコミュニティー拠点を住民らと作り上げる取り組み。仙台市宮城野区の仮設住宅内から始まり、福島県内の子ども向け小体育館など多様な広がりを見せている。
 「この5年で考えが随分変わった。住民と一緒に作ろうという気持ちが本当に強くなった」と伊東は言う。これまでも公共建築の計画などで住民らと意見を交わす場面はあったが、「どうやって説得しようかという気持ちだった」と振り返る。「住民と一緒に考えたことから素晴らしい形が生まれていく。そうならないと駄目だ」。社会的分業が確立される前は、受け手は作り手でもあった。それは、ある種の原点回帰とも言える。
 こうした意識は、復興の姿に対する疑問とも通じる。「被災地の方は、その土地独自の開発をすることに非常に意欲的だったが、ありきたりの復興計画になってしまった。安心・安全はもちろん重要だ。しかし、それが画一的なものであってはならない、と僕は思う」。被災地に住み続ける人たちの発意を反映したものではなく、効率性ばかりが重視された均質化した街づくりになっているのではないか、と。
 「人口が減少し、人間同士の関係がもう一度求められている時代に入ってきているにもかかわらず、都市の団地のような住まい方が再現されている。近代の次に来る時代に向き合うチャンスとして、思い切って変えていくべきだった」。それが率直な印象だ。
 震災から学ぶべき最大の教訓に挙げるのは、人間関係の構築。いざという時に助け合うような関係性を普段からどう作り上げておくのか。そうしたことを、建築はどう後押しできるのか-。各地に生まれた「みんなの家」は、多くの交流を生み出し、建築が持つ力をあらためて感じたという。中には、思ったように使われていないケースもあるが、参画した若手建築家は多くを学んだ。そうした芽生えは、今後の公共建築のあり方にも影響を与えていくはずだ。
 伊東は、ここ1年ほどは東北から足が遠のいているが、「きっかけがあれば、いくらでも行きたい」と話す。「東北の魅力をたくさん教えてもらえた。東北には希望がある」。そう信じている。=敬称略
 (ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・18/第4章・われらの責任/被災地で見つめた原点

《日刊建設工業新聞》

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