【建設業「命」の現場で・16】第3章・線引きと選択と 画像 【建設業「命」の現場で・16】第3章・線引きと選択と

インバウンド・地域活性

 ◇戻る人、戻らぬ人-どちらも駄目じゃない
 昨年12月23日、宮城県名取市の閖上ゆりあげ地区で、初となる災害公営住宅の安全祈願祭が開かれた。東日本大震災が起きた11年冬には、翌12年のかさ上げ着手を目指していたが、工事が始まったのは14年10月。「復興の遅れ」の象徴として語られることもある。その閖上の地に、再び家が建ち始めた。
 「長い歴史の中で何度も災害を経験しているが、それでも皆が閖上の街を守ってきた。われわれの代で放棄するようなことがあってはならない」。安全祈願祭の後、名取市長の佐々木一十郎は感慨深げにそう話した。
 同地区の始まりは、奈良時代とされ、漁業や水産加工業をなりわいに発展してきた。仙台湾沿岸では唯一の市街化区域で、震災前は約5700人が暮らしていたが、あの日、753人(14年3月時点、行方不明者除く)が犠牲になった。閖上に戻るのか、それとも離れるのか-。現地再建や全面移転など無数の意見が飛び交った。市は現地再建重視の方針を決めたが、反発も生まれた。合意形成は難航し、事業の進ちょくにも影響した。
 住民の思いは複雑だ。「『閖上はもういい』と言うのであれば、それは駄目じゃない。よほど怖い思いや悲しい思いをしたのだろうから。でも、やっぱり戻りたい人もいる。現地再建も駄目じゃない」。同地区の復興を議論している住民組織「閖上地区まちづくり協議会」の代表世話役を務める針生勉は、そう受け止めている。皆それぞれに理由がある。その選択は尊重されるべきだ、と。
 昨年11月、閖上小学校で授業参観が行われ、6年生が調べ学習の成果を発表した。テーマは「閖上の将来」。バリアフリーや登下校時の見守り隊編成、高齢者用の巡回バス運行など、さまざまなアイデアが披露された。
 多数の犠牲が出たが故に、震災からしばらくの間は、子どもたちに地区の未来を聞くことがはばかられるような状況が続いた。同協議会事務局長の南部比呂志は、「5年目に入り、子どもたちなりに考えられる時期になったのだろう。純粋な気持ちを街づくりに生かしたい」と話す。子どもたちに、自分たちの街について考えてもらう。それはささやかな一歩かもしれない。でも、とても大切な前進だ。
 「この時間があったからこそ、穏やかに将来を見通せるようになったこともあるのではないか」。佐々木は今、そんな思いでいる。そして、こう付け加えた。「仙台湾の海沿いに街が残ることは、すごいインパクトになる。過去の閖上より、もっと魅力的な街になる」。震災後、多くの集落が海から離れた。その選択が本当に良かったのか。同地区の復興には、そうした問題提起も含まれている。
 6月には、一戸建ての災害公営住宅が完成する予定で、新たな生活が始まっていく。集合住宅タイプの災害公営住宅の整備や、防災集団移転地での住宅建設も段階的に進む見通しだ。針生は、「街の形ができてきて、戻りたくないと思っていた方の意識や思いが変わってくることを願ってやまない」と話す。「街に魂を入れる作業を始める時期だ」とも。同地区の再生には、乗り越えなければならない課題は多いが、明るい光も差し込みつつある。
 次回も同地区の今を追う。=敬称略
 (ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・16/第3章・線引きと選択と

《日刊建設工業新聞》

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