鋳造業界に新風を吹き込めるかー譜面を図面に持ち替えた4代目社長の挑戦(後編) 画像 鋳造業界に新風を吹き込めるかー譜面を図面に持ち替えた4代目社長の挑戦(後編)

マネジメント

 サウンドスタジオエンジニアの仕事を辞め家業を継いだ社長の永森久之(40)は、念願だった自社製品の開発、販売へとこぎ着けた。一方で、若者のモノづくり離れや技術者の高齢化など、錦正工業が人材面で頭を悩ませているのは他の中小企業と同じ。そんな状況の中、永森は若手社員のモチベーションアップや社内の活性化、将来の事業戦略を見据えた人材育成を積極的に行っている。

かわいい新入社員には旅をさせろ
 2015年4月に新卒で入社した大磯孝明(23)と徳原義大(同)。二人は1週間の社内研修を受け、翌週から茨城県水戸市にある大塚製作所で勤務している。大塚製作所への出向という形で、2年後に錦正工業に戻ってくる予定だ。錦正工業に入社した二人が早々になぜ違う会社で働いているのかー。

 そこには、永森の独自の人材育成論がある。「他の会社で過ごすことで本人の見聞も広がり自社にない新しい技術も身につく。いろいろな経験を積んで帰ってきた時に、社内に新しい風を吹き込み、他の社員への刺激にもなる」という。他業界から転身してきた永森だからこそ出てきた発想だろう。

 しかし、受け入れる側からすると、新入社員に一から教えて一人前になった頃に居なくなってなくなってしまうのは、全くメリットのない話にも思える。こんな無茶な依頼を引き受けてくれたのが、大塚製作所専務の根岸忠宏(42)だ。

 根岸は、永森から依頼があった時「面白いね。いいよ」と二つ返事で答えた。若い人を教育訓練することで自社社員の指導力強化にも繋がると考えたからだ。また、同業者がどんどん廃業していく中で、若い世代に技術継承をしていくことが自分や会社の使命だと常々思っていた。

 引き受け体制を詰めていく過程で、迷いが生じた場面もあったという。しかし「早く技術を身に付け仕事もこなしてもらえれば、売り上げ貢献にもなる。そして、大塚製作所の遺伝子(技術)を引き継いでくれれば、錦正工業に戻った後でも、うちが忙しい時に助けになってくれるだろう」と考えた。

東日本大震災から生まれた縁
 大塚製作所は単品試作や治工具製作を専門にしている。通常であれば、栃木県で鋳造業を営む錦正工業との接点はまずない。そんな2社を結びつけたのが、日立地区産業支援センターが運営する中小企業若手経営者の勉強会「ひたち立志塾」だった。

 ひたち立志塾は、設立当初から入塾の対象者を茨城県北地域に限定していた。しかし2011年に起きた東日本大震災を機に、横の連携(地域を越えた連携)を強化することが大切だと考え、県内外からの希望者も受け入れることにした。立志塾の活動趣旨に賛同し、その志をいずれは地元でも継承できるような組織づくりを考えていた永森。もともとのメンバーから歓迎され、県外塾生第1号となった。

 大塚製作所が錦正工業の新人を受け入れた大前提として、「ひたち立志塾生としてお互いの考えをよく理解しあえていたことや、仕事上の付き合いでも信頼できる相手だったことが大きい。そして相手が永森さんだったから引き受けた」と根岸は振り返る。

 現在の二人の様子について、「今では一人で加工をこなせる案件も出てきて、大塚製作所の新入社員の指導役も任せられるほどに成長した。うちの社員も社内の人間のように接してくれている。あと一年ちょっとで居なくなってしまうのは寂しい」という本音もこぼすほど。

企業連携、お互いのメリットを見出す
 永森の企業ネットワークから実現した人材育成がもう一つある。それは、3次元設計の専任を育てるために、3Dプリンター向け設計開発を手がける会社に社員を出向させ、技術を習得させるという事例だ。

 将来、アナログとデジタルを組み合わせた砂型積層3Dプリンター事業を自社内で展開することを見据えている。この使命を受けたのが、当時入社してまだ一カ月目だった川畑太一(29)。

 受け入れ先は長野県伊那市にあるスワニー。同社は3Dデータを駆使した商品設計開発や試作サポートを中核業務としている。スワニー社長の橋爪良博(40)も永森と同じく若くして社長に就任。経営の危機に瀕していた家業を立て直したやり手だ。

 永森と橋爪の出会いは、2012年に名古屋で開催されたモノづくり関係者の集まり。お互いの環境が似ていることもありすぐに意気投合。新事業の構想は橋爪からヒントを得た部分もあったという。

 スワニー側は、川畑に対し単に3次元設計の教育を行うだけではメリットがない。代わりに同社が企画・設計した製品の切削加工や営業サポートなどを錦正工業が受け持つことで両社はメリットを共有した。

 昨年の7月に約一年間の出向期間を終え錦正工業に戻ってきた川畑。現在は、スワニーで学んだ3次元設計の技術と知識を活かして新事業プロジェクトの一躍を担っている。

 紹介した二つの事例は、どちらも錦正工業から他社へ社員を送り出すという形だが、永森は「先方にきちんとした考えと想いがあれば、うちの会社でも受け入れることもできる」と話す。


「受け身」から「主体」への意識改革
 昨年の暮れ、錦正工業恒例の全社員による忘年会が開催された。だが、今回はいつもと少し様子が違った。店内にはプロジェクターとスクリーンが用意され忘年会という雰囲気ではない。そして、始まったのが二人の若手社員によるプロジェクト発表会。

 発表者は、1カ月前に突然プロジェクトリーダーに任命された、月井美帆(入社8年目)と石塚達也(入社4年目)。月井はオリジナルブランド「FENA」(フィーナ)プロジェクト」、石塚は「自動化装置開発プロジェクト」について説明した。

 二つのプロジェクトは、数年前から永森が準備を進めていたが、道筋が見えてきたこともあり、今回、若手二人にリーダーを任せることを決めた。

 永森はこれまでもいろいななプロジェクトを手掛けていたが、社員からは「また社長がなんかやってるな・・」という第三者的な視線をひしひしと感じていた。それを危惧した永森は、社員がプロジェクトの中心になることで、“自分たちの仕事”だという意識を持ってもらいたかった。

 「仕事に対しての主体性と責任感が生まれて欲しい。結果、上手くいかないことがあったとしても、それが彼ら彼女らの成長につながってくれればいい。成功すれば、それがモチベーションアップにつながる」という。

 任命された二人は、当初戸惑いもあったが、限られた時間の中で情報収集し、徹夜で資料を作成して発表会に臨んだ。「突然リーダーに任命されてビックリした」と話す月井は、普段は事務職で、鋳造技術についてはさほど詳しいわけではない。だが、現場の技術者に分からないことを質問するなど、製造現場の社員との交流もこれまで以上に増えた。

 石塚は物事を論理的に捉えて答えを見出していくという仕事の姿勢が評価されての抜擢。担当する自動化装置開発プロジェクトは、複雑なシステム要素が多いが、みんなに分かりやすく伝わるよう一生懸命に話した。大役を果たし緊張感から解放された二人には、笑顔と同時に自信に満ちた表情が生まれていた。

鋳造業界の未来を創る
 「製造業の中でも、特に鋳造業界は社会的認知度、若手の採用、スタッフのモチベーションアップなど苦労している」と永森。自社だけでなく業界全体の将来に危機感を感じ、先月、フェイスブックで一つのグループページを立ち上げた。その名も『鋳物を愛する人たちの会』

 このグループは、鋳造業界関係者に関わらず誰でも参加ができる。その意図を永森は「モノづくりに携わっていない人たちにも、鋳物が日頃の生活を支えている身近な存在であることを知って欲しい。そして鋳造関係者が市場ニーズを知る場、ユーザーとの交流の場として活用して欲しい」という。その想いが伝わり、グループ参加者は一日で200人を超えた。

 永森流の人材育成方法は独特な部分もあるが、単なる思いつきではない。すべては、将来の事業展開を見据えた綿密な計画の上に成り立っている。そして、何よりも社員の成長を願う永森の親心が伺える。これからの鋳造業界を担う経営者として期待は大きい。
(敬称略)

 「鋳物を愛する人たちの会」フェイスブックページ
 [https://www.facebook.com/groups/I.love.imono/{https://www.facebook.com/groups/I.love.imono/}]

鋳造業界に新風を吹き込めるかー。譜面を図面に持ち替えた4代目社長の挑戦(後編)

《ニュースイッチ by 日刊工業新聞》

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