【建設業「命」の現場で・15】第3章・線引きと選択と/変化する意向のはざまで 画像 【建設業「命」の現場で・15】第3章・線引きと選択と/変化する意向のはざまで

マネジメント

 宮城県山元町は昨年12月、東日本大震災の復興事業として整備を進めてきた新市街地の住宅団地を対象に、5度目となる分譲・借地希望者の募集を行った。空いていた62カ所が対象だったが、すべて埋まるには至らなかった。これまでは被災者だけを募集対象としていたが、次回以降は町外を含む一般からの申し込みも認める方向で国と調整している。
 同町では、沿岸域の集落などが津波で大きな被害を受けたため、津波復興拠点整備事業や防災集団移転促進事業などを活用し、住宅再建の受け皿となる三つの新市街地を建設中だ。このうち、最大規模の「つばめの杜(新山下駅周辺)地区」(約37・4ヘクタール)では、JR常磐線の内陸部への復旧・移設に合わせて、被災者が家を建てるための住宅団地(201戸)や、災害公営住宅(346戸)などが整備される。
 空きが目立つのは住宅団地だ。要因は、被災者の意向の変化。12年9月には希望が239世帯だったが、13年9月の最終意向確認時になると183世帯に減少。町は、この最終意向を基に開発規模を決めたが、申し込みは148世帯にとどまり、その後も辞退が出て目減りしている。
 意向が変わる理由はさまざまだ。経済的な理由から自宅建設を断念して災害公営住宅を選ぶ人や、離れて暮らす家族を頼って町外に移転する人…。被災者の生活再建への考え方は、時間の経過とともに変わるが、その対象は約2700世帯に及ぶ。全世帯の意向を逐次把握し、開発計画に反映させることは現実的には不可能だ。
 新山下駅周辺地区では、早期の住宅再建を図るため、最終的な意向が確定する前の段階で開発に着手せざるを得なかった。「辞退を見越して整備することはできないので難しい」。同町震災復興企画課企画調整班長の佐々木大は、そう痛感している。
 被災者側にも苦しい事情がある。例えば、意向確認時点で、住宅団地での再建か町外への移転か迷っている場合は、住宅団地にも手を挙げておかなければ選択肢を失ってしまう。佐々木は、何が何でも被災者を縛り付けた方がよかったとも思えない。「一番良い形で再建してほしい」。そんな思いでいる。
 住宅団地が余る一方で、災害公営住宅はほぼ埋まっている。災害公営住宅の希望者は今後も増える可能性があり、余剰と不足の両面で難しいかじ取りが続く。
 ただ、別の角度から見ると評価は少し変わる。震災は悲惨な出来事だったが、点在していた集落をこれを契機に集約化できたことも事実。新山下駅周辺地区について言えば、JR常磐線の運行が年内に再開される予定で、仙台市への通勤・通学は容易になる。利便性は決して悪くない。安全で住環境が豊かなコンパクトシティーへと転換を図ることで魅力が高まれば、町の将来にとって財産になる。空きが出た住宅団地も、町外からの入居が進めば、人口減少対策という別の役目を果たし始める。中長期的な都市経営を考えた際に、望ましい姿に近づいているとも言えるのだ。
 持続可能な都市への転換は多くの地方に共通する課題だ。ただ、既成市街地ではなかなか難しい。ゼロからの再スタートになった被災地だからこそ、できることがある。=敬称略
 (ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・15/第3章・線引きと選択と/変化する意向のはざまで

《日刊建設工業新聞》

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