JTB社長に聞く2016年の観光振興 画像 JTB社長に聞く2016年の観光振興

マネジメント

 ◇観光振興と地方創生は表裏一体
 観光が地域の経済や雇用などにもたらす効果は大きい。中でもここにきて高まっているのが、「地方創生」の大きな原動力になることへの期待だ。旅行事業を中核としながらも、人やモノの交流を切り口にした新たな需要の創造に取り組むJTBの高橋広行社長は「観光振興と地方創生は表裏一体」と強調する。急拡大する訪日外国人旅行者(インバウンド)への対応や観光を通じた地域の活性化などについて、高橋社長に話を聞いた。
 □2020年に訪日客3千万人目標□
 --インバウンドの動向をどのように捉えているか。
 「人口減少などを背景に日本人を対象とする国内マーケットが縮小していくとされる中で、インバウンドは観光業界だけでなく、国全体にとっても救世主となり得る。2015年は当初1500万人くらいと見込んでいたが、実際には1950万人前後に達したとみられる。14年が1341万人だったことを考えると、インバウンドはわれわれの予想を超える速さで急拡大している」
 --これからの伸びをどう予測する。
 「日本の実力とポテンシャルからすると、年間2000万人にとどまらず、ゆくゆくは3000万人、さらには4000万人へと増えていく可能性が十分にある。国が20年に2000万人としている目標をどうするかは分からないが、われわれはいち早く社内目標を3000万人に再設定し、さまざまな準備を進めている。19年のラグビー・ワールドカップ、20年の東京オリンピック・パラリンピックなどで最大瞬間風速的な伸びを示すだろうが、問題はこの流れをどう絶やさずに維持・拡大していくか。20年以降もインバウンドを着実に伸ばしていくには、それなりの準備をしていかなければならない」
 --課題は何か。
 「現在はインバウンドが増えるスピードにいろいろな面で追い付いていない状況にある。例えば、民泊問題で分かるように、東京、京都、大阪をはじめとする都市部で宿泊施設が足りず、日本の出張のお客さまも宿泊手配に事欠く状態となっている。日本がこれから3000万人、4000万人を受け入れるためには、リピーターを増やすことに加え、地方分散や時期の分散も求められる。外国からの数千万人を常に新規のお客さまでというのは無理で、最低でも60、70%ほどのリピーター率を維持しながら、新規を増やしていかなければならない。このためのリピーター政策が重要であり、日本の魅力を諸外国に発信し続けていく必要がある。その一つの取り組みが、国を挙げて推進しているクールジャパンといえるだろう」
 --地方分散と時期の分散については。
 「インバウンドは東京から富士山を経由して京都、大阪に至る、いわゆるゴールデンルートに集中している。宿泊施設の不足は、このルート上の都市部で起きている問題であり、それを地方に分散すれば問題は解消される。加えて、日本独自の文化である旅館をもっとアピールし、利用いただければ、キャパシティーも広がる。そのためにも地域の魅力づくり、観光地づくりが重要だ。それをバックアップしてくれるのが、地方創生という大きな政策であり、一気に進めるべきだと思う。現在、名古屋から飛騨高山を経由して金沢に抜けるドラゴンルートも外国の方々に人気がある。こういった第2、第3のルートが日本全国にできてくると、いろいろな選択肢が増えて地方分散が進むだろう」
 「もう一つは時期の分散だ。ゴールデンウイークやお盆、年末年始などを除いた旅行のオフシーズンとされる時期に、外国の方にいかに来ていただくか。雪や温泉、冬の味覚などのコンテンツをアピールすることで時期の分散が図られると思う。マーケティングをすると、そうした時期に来ていただく余地は十分にあることが分かる」
 □持続可能な観光ルートづくりへ□
 --観光立国の実現にはどのような施策や取り組みが必要か。
 「国、地方自治体、民間がそれぞれの役割をきっちり果たしていくことが重要だ。国レベルではビザの発給要件の緩和が挙げられる。インバウンドがこれほどの速さで拡大している根底には、間違いなくビザの緩和がある。国の政策として引き続き推進していただきたい。そして地方創生は、観光面から見ても非常に重要な政策と捉えている。この枠組みを最大限に利用する中で、自治体や民間も地方の魅力づくりや持続可能な観光ルートづくりをしっかりやっていくことが必要だ」
 --インフラ整備も大切な要件となる。
 「インフラにもいろいろあるが、一つはWi-Fi環境が少なくとも空港や駅、主だった観光施設、宿泊施設に整備されていることが必要だ。観光地での多言語表示も大切なおもてなしになる。ハード面では港や空港などのインフラ整備に期待したい。今後はクルーズ船での旅行が増えていく。だが、残念ながら日本の港湾には大型クルーズ船を受け入れられるだけの設備がまだできていない。多額の投資を伴うので一朝一夕にはいかないだろうが、こうしたことも視野に入れたハード整備が求められていくだろう」
 「最近では15年3月に長野から金沢まで延伸開通した北陸新幹線の効果が非常に大きい。開業からこれまでに、首都圏から北陸へ旅行されたわれわれのお客さまは前年同期の4倍となっている。北陸から首都圏への流れもできており、これも2倍近く伸びている。今年3月の北海道新幹線新青森~新函館北斗間の開業効果にも大きな期待を持っている。さらに、2027年開業予定のリニア中央新幹線は、観光に超ど級のインパクトを与えるだろう。こうしたインフラは交通としてだけでなく、観光資源としての側面も大きいと言える。鉄道に限らず、空港や道路などのインフラが整備されることで、人とモノの流れは間違いなく活性化され、観光にも好影響を与える。観光振興と地方創生は表裏一体であり、ソフトとハードの両面で進めていく必要がある」
 □掘り起こした素材磨き発信□
 --JTBは交流文化事業を積極展開している。
 「JTBはかつて総合旅行業を標ぼうしていたが、06年の分社化を契機とし、グループ全体で『交流文化事業』を事業ドメインに設定した。旅行の2文字は入っておらず、これに私たちの意志が込められている。これからも旅行事業は中核だが、地域の皆さんとその地域の魅力となる隠れた素材を掘り起こし、それを磨いて発信することで、人を呼び込み、地域の活性化に貢献するとともに新たなビジネスモデルにしていく狙いがある。これまでの10年、人やモノの交流を切り口にした新たな需要の創造に取り組んできた。そして今、交流文化事業は地方創生の流れと相まって一気に加速している。観光がもたらす効果は経済面だけではない。これからも人を呼び込むためのまちづくりや観光ルートづくりなどを通じ、地域の活性化に貢献していきたい」。

16年元日号/観光振興へキーマンに聞く・2/JTB社長・高橋広行氏

《日刊建設工業新聞》

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