【地方発ヒット商品の裏側】世界一予約の取れないレストランを唸らせた日本酒(2)

インバウンド・地域活性

発泡日本酒「MIZUBASHO PURE」
  • 発泡日本酒「MIZUBASHO PURE」
  • 永井酒造で代表取締役社長を務める永井則吉氏
  • 則吉氏が提案する「NAGAI STYLE」
  • 94年に完成した「水芭蕉蔵」。設備の近代化が進められている
  • 洗浄中の醸造タンク
  • 則吉氏のアイディアで完成した氷温タンク
  • 内部の温度がマイナスに保たれている
 この後、則吉氏は数年にわたって、自身の酒造りの道を模索し続けることになる。その答えを見つけるきっかけになったのが、98年に始めた海外事業。ここで永井酒造は大きな赤字を出し、会社は経営不振に陥る。がむしゃらな酒造りを繰り返す中で、則吉氏の頭によぎったのは、バックパッカーの旅から川場村に帰ったときの感動だった。

「永井酒造の初代は川場村の水にほれ込み、それを守るために水源近くの森を東京ドームで約10個分の広さになるまで買い続けました。この地の自然を愛して、それを表現すること。それが、自分達の目指す酒造りだと、その時にようやく気付いたんです」

 「水芭蕉」と「谷川岳」というブランド名が連想させる自然美を表現すること。綺麗でナチュラルで、身体にすっと溶け込むような酒造り。それが、則吉氏の新たな目標となった。

 その後、則吉氏は原料米を育てる米農家と契約を進めていく。それまでは組合を通じて銘柄だけを指定して購入していた酒米。これを、契約農家から仕入れることで、米作りにも自身の哲学を反映させる。例えば、原材料の一つになる山田錦であれば、厚みがあって、心白がくっきりして、割れにくい米を求めた。それは、農家にとって非常に難しいリクエストだったが、徐々に理想に近づいているという。

「酒造りは水と米と技によって完成しますが、哲学なき酒造りは、米の引き出し方をブラしてしまう。だから、酒造りには哲学とビジョンが最も大切なんです。このうち、米の出来は天候に左右されますが、そこから先は職人のワザの見せどころです。明確な哲学とビジョンがあれば、米のどういう魅力を引き出すか、その方向性を間違いませんから。今ではブランド像に一切ブレなく、目指す酒造りができるようになりました」

 その一方で、新たに立ち上げた水芭蕉蔵にも、理想とする酒造りに向けて、さらなる改良が加えられていった。真っ先に着手したのは、貯蔵タンクに水冷パイプを巻いて、中の温度を氷点下に保つこと。これは、生酒を火入れせずに貯蔵するためのものだが、温度変化を防ぐために発泡ウレタンを吹き付けたのは、則吉氏のアイディアだという。そこには、かつて建築学科に在籍していた知識と経験が活かされていた。

《丸田鉄平/HANJO HANJO編集部》

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