「日立・川村」と「パナソニック・津賀」…電機V字回復のレシピ 画像 「日立・川村」と「パナソニック・津賀」…電機V字回復のレシピ

マネジメント

 東芝が2016年3月期に5000億円程度の最終赤字を見込んでいるという。不振のテレビや家電を中心に人員削減などの抜本的なリストラにより、来期以降のV字回復につなげる。電機業界では日立製作所とパナソニックも巨額赤字を計上することで一気に膿を出しV字回復を果たした。

 日立は09年3月期に約9000億円の赤字を計上、子会社から川村隆氏(現相談役)が会長兼社長に呼び戻された。パナソニックも12年3月期、13年3月期と2期連続で7000億円超の赤字を出したが、12年6月に就任した津賀一宏社長が「今は普通の会社ではない」と宣言、復活へと導いた。当時のインタビューから、どんな決意と手法で改革に挑んだかを振り返る。

「川村改革」1826日の真実
日刊工業新聞2014年5月1日付
 日立製作所の業績が悪化、巨額赤字に陥ったことを受け2009年4月に子会社から会長兼社長に呼び戻された川村隆氏。過去最高益が見えるまで事業を立て直し、この3月で退任した。在任期間は1826日。巨大企業をいかに復活させたのか。今だから話せる「川村改革」の内実を、テーマごとに振り返ってもらった。

増資で市場と向き合う
 ―2009年3月初めに当時の庄山悦彦会長(現相談役)から就任の打診があったそうですが、復帰する条件は。
 「会長と社長を兼務すること。庄山さんが会長に残るという選択肢も提示されたが、スピード感が一番重要だと思った。10以上の上場子会社があって、日立本体は『君臨すれども統治せず』の感覚だった。資金流出が止まらないので、連結経営のガバナンスを効かせるために会長職にウエートを置いた」

 ―最初の記者会見が4月20日。その時点で事業ポートフォリオの見直しに言及しています。日立マクセル、日立プラントテクノロジーなど上場5社の取り込みは新経営陣のアイデアですか。
 「自動車部品の分社化以外は、ほとんど我々の考え。5社より多くやりたかったが、お金の無駄遣いはできない。それでも『構造改革100日プラン』で最も意識したのは、遅れていた日立本体の改革。社内カンパニー制で独立意識を持たせ、やりすぎるとバラバラになるから『社会イノベーション』という旗を立てた。この言葉は以前からあったが使う時はそれに命を与えないといけなかった」

 ―増資についてはかなり迷ったと思います。東芝などが先に実施して、やっぱり日立の意思決定は遅いという声も出ていました。
 「32億株が48億株になる希薄化なんて、とにかくやりたくなかった。大先輩の顔が浮かぶし、昔から株を持っている人に申し訳ない。借り入れでしのげないか、今ならまだ止められないか。三好崇司君(当時の財務担当副社長)と随分議論した。でもこのままだと内部留保が1兆円を割ると思ったし、発表前日に最終決断した」

 ―結果的に社内には市場に向き合う責任感が醸成された感じがします。
 「機関投資家向け説明会でかなりたたかれた。ある投資家からは『自分たちの言うことを聞いたからパナソニックはあんなに良い会社になった』とか言われた。製品を売る時は納期や性能を保証するけど、株は何もなくて、ただ『俺を信用しろ』だけ。ひどいものを売っているな、と改めて痛感した」

事業再編、収益構造考え実行
 ―親子上場はかなり解消されましたが、残っている子会社は独立心も強い。例えば業界トップに比べ利益率の低い日立建機などを、どのように統治していくのか市場は注目しています。
 「ガバナンスの議論は常にある。ただし上場子会社は意思決定が早く投資の重点化もうまい。優秀な上場子会社を残して置く方が、日立本体の事業部門を鍛えることにもつながる。日立建機もコマツに比べると改善余地は多くあるが、グループの先導役として今の状態はしばらく続くと思う」

 ―ルネサスエレクトロニクスの経営統合の枠組みは前経営陣の決断でした。川村さんなら違った判断をしましたか。
 「もっと早く日立の出資比率を下げて自主独立経営をさせておくべきだった。当時は産業革新機構もまだなかったし、半導体メーカーの数が多すぎたというのは事実で、統合もやむなしだったかもしれない」 

 ―中小型液晶では台湾企業と提携を模索しましたが、最終的に“オールジャパン”に走り、ジャパンディスプレイが誕生しました。国が特定産業を特別に救済することに対しての考えは。
 「難しい質問だ。国産で根付かせようとするのはある程度仕方ないが、民間による自然淘汰(とうた)が一般的である海外のプレーヤーはそう思わないだろう。問題は企業が少なくなったからといって、例えば今のルネサスで、最大顧客の自動車業界が果たして値上げを認めてくれるのか。事業や収益構造を抜きにした統合や再編は本末転倒だろう」

 ―米ジョンソンコントロールズ(JC)と空調事業を統合しようとしています。海外企業とのM&A(買収・合併)はもっと難しいのでは。
 「複雑なくっつけ方をするJCの案件は非常に難しい。一番大事なのはトップ同士の信頼。僕はJCの経営幹部と一度も会っていなくて、中西君(中西宏明現会長)にまかせている。事務方の作業がうまくいかなくなった時に、すぐトップに情報を上げる仕組みができていないといけない」

火力統合は一番厳しい決断だった
 ―電力部門は火力を三菱重工業と統合し事実上切り出し原発は英国の事業会社を買収しました。
 「火力は日立の歴史のかなりの部分を背負っている。5年間で一番重い決断だった。僕は(電力事業の拠点)日立工場長を務めた人間。それが三菱重工と話をするなど、日立の常識では考えられない。それほど事業環境は厳しかった。製品事故のトラブルが続いて、お客さんからの評判が落ち入札で負ける。米国の大型案件で赤字を出し、バランスシートも悪くなる負の連鎖。助手席であっても生き残るクルマに乗る方がいい。中西君との二人の間では割と早くに統合への気持ちを固めていた」

 ―その前に一度、経営統合の報道がありましたがその真偽は。
 「それは時効が残っているので言えない。実はいろいろあるが墓場まで持っていく。三菱重工以外にもこれからどこかと組むケースは一杯出てくる。全部自前でやる時代ではない。ただ重工とはケミストリー(相性)は合う」

 ―火力の統合が実現しなければ、原発事業会社の買収を止めた可能性はありますか。
 「その相関はない。沸騰水型軽水炉(BWR)に相当な危機感を持っていた。海外のインフラでは鉄道で大きなプロジェクトを経験しているし、発電でも一つ必要。前にUAE(アラブ首長国連邦)の原発案件を韓国勢に奪われた。今にして思えばその失注で、先進国に出ることになった。新興国でやれれば勉強になるが、さすがにまだ怖い。ただ英国の原発事業は何も結果オーライではなく、相当な損金を出して撤退する可能性もゼロではない」

経営者の引き際「功遂げ身退くは天の道なり」
 ―中西会長が最高経営責任者(CEO)と取締役会の議長を兼務します。川村さんは外部監督機能を強化する取締役会の改革に注力してきましたが、それと逆行しませんか。
 「議長は1票しかない。議長がどう言おうと社外取締役が結束すれば執行役を全員クビにだってできる。GE(米ゼネラル・エレクトリック)のジャック・ウェルチ氏も議長とCEOを同時にしていた時期がある。その方が説明や議論が早い」

 ―これまで取締役会で議案が否決されたことは。
 「まだそこまではないが、火力の統合の時などは議論が紛糾した。自動車部品と同じように分社化すればもっとやれるんじゃないか、という提案もあった。それと当日までこの案件を一切知らせなかったので、社外取締役は青天のへきれきだったのだろう。しかも私はシンガポールにいてテレビ会議だったので議事に時間がかかった。今後、社内論理をごり押しするような人事案などは差し戻す雰囲気になっている」

 ―多くの改革案がしたためられた“川村ノート”で、何%が実現したのでしょう。
 「10個以上は残っているが、数字は20年ぶりに戻ってきた。『功遂げ身退くは天の道なり』という。一つの仕事を終え退場するのは経営者としてとても大事なこと。私の原点復帰プロジェクトは一区切りついた。次の海外を中心にした自立成長プロジェクトは新しい人にまかせる」
(聞き手=明豊)

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とにかくキャッシュフローをプラスに
日刊工業新聞2012年7月23日付
 6月に就任した津賀一宏社長率いるパナソニックの新体制が始動した。約7000人の本社部門を大幅にスリム化するなど“内向き”の仕事を減らし、全社一丸で顧客価値を追求する組織に変えた。「津賀色」を約33万人の従業員に浸透させ、2012年3月期に計上した過去最悪の当期純損失7721億円からV字回復に導けるか。18年に迎える創業100周年を見据え、8代目社長の挑戦が始まる。

縦割り打破、社内資産を活用
 2月、AVCネットワークス社本社(AVC社、大阪府門真市)。テレビ事業を担う社内分社の一室で吉田守上席副社長(現AVCネットワークス社社長)らAVC社幹部と関東、中部、近畿などの有力パナソニックショップの2代目経営者の6人が向き合っていた。

 「本当に消費者目線の商品開発はできているのか」「(業績の)足を引っ張っている認識はあるのか」。地域販売店とAVC社幹部が直接意見を交わす機会は少ない。“テレビ失速”で苦戦を強いられる販社経営者から、ここぞとばかりに厳しい言葉が吐き出される。

 AVC社の対応は早かった。5月にかけてテレビの商品企画担当者を複数の販売店などに出向かせ、高齢者が求める機能などをヒアリング。来年度の新製品に反映させるという。販社経営者のひとりは「こんなに早く動いてくれるとは」と驚きを隠さない。

 昨年、兵庫県尼崎市の最新鋭プラズマパネル工場の休止を決断したのは当時AVC社トップだった津賀社長。赤字脱却に向けてあらゆる手を打ち「(利益が出なければ)テレビはコア事業ではない」と言い切る。危機感を醸成し、組織に機動力を植え付けた。

 AVC社だけではない。「パナソニックは非常に縦割りな会社」(津賀社長)。旧パナソニック電工、三洋電機を加えた潜在能力が利益に結びついていないことを危惧する。企業価値を最大化する仕組みづくりの一つが本社改革だ。

 パナソニックが70年にわたった事業部制の歴史に終止符を打ち、ドメイン制をスタートしたのは中村邦夫社長時代の03年。各ドメインに権限を委譲したが、情報の共有などで縦割りの弊害も目立つようになっていた。「組織の壁を低くすることが私の使命だと思っている」(津賀社長)という。

 有形、無形の社内資産をもっと生かせないだろうか―。津賀社長が車載機器の社内分社であるオートモーティブシステムズ社社長を務めていたころ、白物家電の社内分社が持つ電動コンプレッサーの技術を活用し、松本工場(長野県松本市)で環境対応車用のインバーター一体型電動コンプレッサーを立ち上げた。

 カーオーディオやカーナビゲーションシステムなど既存製品について生産の海外シフトが進む中、社内資産を有効利用し、新しい価値を生み出した好例だ。「90のビジネスユニット(事業単位)を“見える化”する」(同)ことで、こうした動きが加速すると踏む。

 一方、外部リソースを機動的に使いこなす身軽さも兼ね備える。有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)パネルの開発ではライバルのソニーと手を組む。「顧客価値につながらない無駄を徹底して省く」(津賀社長)―。10月スタートの新本社がその試金石となる。

自動車・航空は成長戦略の象徴
 「アビオニクスにはかなり肩入れしていましたから」。最近、津賀社長がたびたび口にするアビオニクスとは、航空機内音響・映像(AV)機器。パナソニックが7割のシェアを握る。欧エアバスなどの顧客の訪問を含めて、津賀社長が年4回も海外出張する力の入れようだ。世界の航空機需要は拡大しており、高い成長性を期待できるのはもちろんだが、アビオニクス事業には復活のヒントが隠されている。

 子会社のパナソニックアビオニクス。ヘッドクオーターを米カリフォルニア州に置き、日本人はほとんど関わっていない。欧エアバスや米ボーイングと連携し、200を超える世界の航空会社を顧客に持っている。

 海外、BツーB事業の拡大は大坪文雄社長(現会長)時代からの課題。アビオニクスのように特定の顧客と密着し、確実に課題を解決するビジネスモデルは「(コンシューマー製品主体で)プロダクトアウトの発想が強かった昔ながらのパナソニックにはない」(幹部)。ビデオエンターテインメントシステムに限らず、照明やディスプレー、クラウドの活用など、社内の技術資産を生かせる領域も広い。

 同様のビジネスモデルを持つのが自動車だ。津賀社長は自動車メーカーと太いパイプを持ち「社長になっても、カーメーカーのトップとは今まで通りに付き合い、その場でさまざまな期待を表明していただけると思っている」と自信をのぞかせる。積極投資に打って出る電池は、買収した三洋電機との相乗効果が期待されている分野。15年度に車載用リチウムイオン電池で1300億円の販売を狙って、20年に世界シェア約40%を目標に掲げる。

 足元のパナソニックの株価は500円台に低迷しており、過去10年のピークである2870円から大きく落ち込んでいる。企業の価値を示す株式時価総額でも、競合製品が多い韓国のサムスン電子に大きく水をあけられている。この差を埋めるにはテレビ事業の黒字化はもちろん、高収益事業をどれだけ育てられるかにかかっている。

 パナソニック本社正門を入ると米国の発明家であるトーマス・エジソンら「科学と工業の先覚者」11人の銅像が並ぶ。電球を左手に持ち威風堂々とたたずむエジソン像の視線は、創業者である松下幸之助氏の執務室に向けられていたという。研究を自得した先覚者のエジソンと向き合って見習った幸之助氏は「経営というものは、教えるに教えられないものです。経営というものは自ら自得しなければなりません」という言葉を残した。

 18年の創業100周年を託された津賀社長はエジソン像になにを思い、視線をどこに向けているのか。「パナソニックの社長は私にとって大きなチャレンジ。業績不振にあえぐパナソニックグループを復活させたい」。津賀社長の戦いが始まった。

津賀社長インタビュー「組織を小さくすることで『手触り感』が出る」
 ―テレビ事業の構造改革が急ピッチで進んでいます。
 「海外で通用するデザインやコストをつくり込んだ。セット事業は黒字を確保している。パネル事業は赤字だが、テレビ以外の用途開拓で計画以上のペースで改善している。セット事業の黒字を簡単に維持できるとは思っていないが、良い手応えを感じている。北米で赤字にならなければ大丈夫だ」

 ―10月には本社改革がスタートします。
 「“組織の壁”を低くする上で重要だ。組織を小さくすると『手触り感』が出る。ビジネスユニット(BU、事業単位)で見ることで、本社の果たす役割も明確になる。ドメイン(事業分野)単位では外から何をしているか分かりにくいが、90のBU長が互いに見えるようになれば、連携プレーも図りやすい。一方、研究開発(R&D)ではドメイン同士の交流の方が都合が良い」

 ―1月に旧パナソニック電工、三洋電機を統合した新体制を発足したばかりですが、さらに再編する考えはありますか。
 「ありえる話だ。中期経営計画のワーキンググループでは組織問題も提言されている。中期計画では(100周年を迎える)18年の姿を描いて、最初の3年はどうあるべきかを意識する。18年の姿が見えないものには手を打っていく。課題認識を持ってもらう必要がある」

 ―現中期計画では営業利益率5%を目標に掲げました。今年度下期に策定する次の中期計画の目標値は。
 「(利益率が)多いに越したことはない。それをどう活用するかが問題だ。M&A(合併・買収)で事業領域を広げるといった使い道はあるが、今はキャッシュフローがマイナスであることを考え、これをプラスに転換して投資できるようにすることが喫緊の課題。投資したい案件はたくさんあるが控えなければならないのが現状だ」
(文=鈴木真央、長塚崇寛、今村博之)

「日立・川村」と「パナソニック・津賀」-電機V字回復のレシピ

《ニュースイッチ by 日刊工業新聞》

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