【建設業「命」の現場で・13】第3章・線引きと選択と/感謝とともにある“歯がゆさ” 画像 【建設業「命」の現場で・13】第3章・線引きと選択と/感謝とともにある“歯がゆさ”

インバウンド・地域活性

 日本三景の一つ、松島にほど近い野々島(宮城県塩釜市)。その玄関口の野々島漁港で、一枚の看板が海に寄り添うように立っている。書かれているのは「宮城県が計画する防潮堤高(3・3メートル)」と「住民が望む防潮堤高(2・3メートル)」という大きな文字。防潮堤の整備をめぐり、行政の方針と住民の意向との間に隔たりが生じている現場の一つだ。
 東日本大震災の大津波を教訓に、被災地では防潮堤の整備が進む。宮城県は、野々島を含む松島湾の基本計画堤防高を4・3メートルと設定。その後、太平洋(外洋)側と内湾側に分けてさらに検討した結果、野々島漁港がある内湾は1メートル下げても問題がないことが分かり、現在は3・3メートルの堤防を整備する計画となっている。
 これに対し、青年会組織・野々島共和会会長の遠藤勝は、「内湾の防潮堤は要らないというのが住民の思い」と説明する。そうした主張が認めてもらえないため、島内で話し合い、堤防高2・3メートルを妥協案として打ち出した。だが、議論は平行線のままだ。
 震災時、遠藤は野々島の内湾の岸壁にいた。「島の間から津波が入ってきたが、波は低かった。島々が津波を和らげてくれたのだろう」。海の底が見えるような引き潮も生じなかったという。
 野々島には高台へ向かう道が多い。津波が来た時の高台避難が昔から伝えられており、津波による犠牲者は出なかった。ただ、遠藤は、いったん避難したものの、消防団の役目で再び低地に向かってしまう。津波に追われて必死に駆け上がり、ぎりぎりで助かった。
 「あの時から、自分らしく生きたいという思いが強くなった。できるだけ手付かずの状態で自然を残したい。俺たちには守る責任がある」。内湾の防波堤は負の遺産になりかねない-。そんな認識でいる。
 だが、すべての防潮堤に反対しているわけではない。太平洋側は大きな被害が生じており、「外洋の防潮堤は本当にありがたい」と遠藤は話す。
 インフラの重要性も十分に認識している。野々島を含む浦戸諸島には、海底に敷設した水道管で水が供給されていたが、震災後は、隣島間を結ぶ地中トンネルを構築し、その中に水道管を通す形で復旧させた。「これからは津波があっても断水しない。行政は素晴らしいことをやってくれた」。それが率直な思いだ。
 だから、「喜ばれない物を作ってずっと残るとすると、本当にそれでよいのかと考えてしまう。建設業の人たちが頑張ってくれているのがよく分かる。分かるから、歯がゆさのような気持ちが起きてしまうんだよ」。
 フグが産卵のために砂浜に押し寄せ、次に、白魚が訪れる。それが野々島にとっての春の知らせだ。野々島で生まれ育った遠藤は、震災を経て、島の良さを再認識したという。その魅力を広く伝えようと「野々島感動支援隊」を立ち上げ、島巡りツアーなどを始めた。「海を見て、海に携わる人を見ることが、生きる糧。こんな良い所はない」。野々島の話になると笑顔が絶えない。
 「本当は、互いにもう少し納得できるところがあるのではないか。そうすれば、やってもらう側も、やる側も、良い心持ちでいられるはず」。そんな思いを抱きつつ、愛する海を見つめている。=敬称略
 (毎週火曜日に掲載します。ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・13/第3章・線引きと選択と/感謝とともにある“歯がゆさ”

《日刊建設工業新聞》

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