【建設業「命」の現場で・13】第3章・線引きと選択と/防潮堤をめぐって 画像 【建設業「命」の現場で・13】第3章・線引きと選択と/防潮堤をめぐって

インバウンド・地域活性

 東日本大震災は、海の恐ろしさをまざまざと見せつけた。安全・安心を確保しつつ海と共存して生きていくために、東北の太平洋沿岸では、防潮堤の整備が進む。
 防ぐ対象は、数十年から百数十年に1回程度の発生が想定される頻度の高い津波、いわゆる「L1津波」だ。宮城県の場合、湾の形状などを考慮して22の海岸に分割。過去の津波痕跡高やシミュレーション結果、高潮波浪などを踏まえ、さらに余裕高を加えた形で基本計画堤防高を定めている。同県最北部にあるリアス地形の唐桑半島東部では11・3メートル、平野が広がる仙台湾南部海岸では7・2メートルなどと設定。同一地域内では同じ安全性を確保するとしている。津波は弱いところへと向かう。一部の防潮堤の高さを下げると、そこに被害が集中しかねない。
 ただ、すべての場所にL1津波対応の防潮堤を張り巡らせるわけではない。保全対象施設が背後地にない場合は、既存高さまでの原形復旧にとどめるなど濃淡を変えている。
 同県での防潮堤の整備は、国土交通省が直轄で整備した仙台南部海岸がほぼ完成しているものの、県整備分はまだ途中段階にある。全体で276カ所のうち、今年9月末時点での着手率は箇所ベースで71%。完成率は16%にとどまる。
 課題の一つは用地だ。従来の防潮堤よりも堤体が大きいため、用地買収が必要になり、どうしても時間がかかってしまう。事業量も膨大で、マンパワーも依然として不足している。県は「地元の方が安心して暮らすことができる環境を作ることが大事。一日でも早く完成させたい」(土木部河川課)と意気込む。
 一方、整備に難しさが伴っていることも事実。県の担当者は、その要因の一つに「感覚の違い」を挙げる。「まず命を大切にしたい。なりわいを支える土地も守る。それを第一義的に考えている」(同)と県の立場を説明する。
 より高い安全性を求める声がある一方で、自然環境や景観面で異論が出ることもある。県としても、防潮堤の整備が環境に一定の負荷を与えることは認識している。だからこそ、設置位置を陸側にずらして砂浜を残したり、背後地盤をかさ上げすることで見かけ上の防潮堤の高さを抑え、圧迫感を和らげたりと対策を講じてきた。できるだけ従来に近い環境を残すために、環境アドバイザーとして第三者の学識者の意見も取り入れている。
 何を優先して考えるのかは、人や地域によってさまざま。必ずしも一様ではない。
 宮城県東松島市に住む松川清子は、「『高い堤防はいらない』と言う人もいて、実際にそうかもしれない」としつつも、違和感も覚えている。松川は、海に近い同市野蒜のびる地区で生まれ育った。震災で大切な親族を亡くし、故郷も大きく変わった。「堤防がもう少し高ければ、もしかすると逃げる暇があったのかもしれない。そんなことを考えると、高い堤防の方が安心する。私は高い堤防から海を見てみたい」と率直な思いを話す。
 防潮堤をどう見るか。それは生き方とも関係してくる。次回は、別の視点を聞きに、離島へと向かう。=敬称略
 (毎週火曜日に掲載します。ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・13/第3章・線引きと選択と/防潮堤をめぐって

《日刊建設工業新聞》

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