「中小企業の《経営論》」第18回:行動を変えても批判がやまない? その理由 画像 「中小企業の《経営論》」第18回:行動を変えても批判がやまない? その理由

マネジメント

 私が仕事で関係していたある会社での出来事です。

 その会社の社長は、あまり朝が得意な方ではありませんでした。社員の定時は9時出社ですが、社長の出社時間は、どんなに早くても10時近くです。

 またこの社長は、デスクにじっと座っているようなことは、あまり得意ではありません。いつもどこかで人と会う予定や会合の予定を作っては出かけていってしまいます。もちろん必要な事務仕事などはこなした上ですし、何かあれば常に連絡は取れるようになっているので、会社の実務上で何か問題になるようなことはありません。

 ただ、社員たちの目には、いつも会社に遅く来て、すぐにどこかへフラフラ出かけていくように映っているので、何かと批判の的になります。みんなが皮肉たっぷりに、「重役出勤はいいよね」「勝手にフラフラできてお気楽だよね」「大した仕事もしていないのに高い給料で……」などと言っていました。

 そんな中、この社長が退任して代表権のない会長に退くことになりました。新社長は外部から招かれることになりましたが、この方は前社長とは行動パターンが正反対の人でした。

 朝の出社はほぼ毎日8時前で、誰よりも早く会社に来ます。あまり社交的ではないのか、来客はそれほど多くなく、社外の付き合いや会合に出かけるようなこともあまりありません。ほぼ一日中を社内で過ごしながら、社内の様子にはいろいろ気を配っているようです。

 こんな新社長を、社員たちはやはり批判的な目で見ています。「朝早く来たって何もしていないんではねぇ…」「経営者に社交性がないと困るよね」「少しは人と会って仕事でも取って来てもらわないと…」などと、大いに批判されています。

 どちらの社長も、その行動には少し偏りがあり、問題がないとはいえませんが、社員からの批判の様子を見ていると、一見理屈は合っているようですが、どうも批判する理由はそれだけではないように思えてしまいます。

 実はこの新社長がその後とった行動により、このような批判の声は急速になくなっていきました。やったことはただ一つだけで、社内にいる時間でできるだけ多くの社員に声を掛け、常に対話する時間を持つということでした。いつも会話していることで、社員たちは新社長の人柄を知り、心理的な距離が縮まっていくことで、それまでのような批判的な声は無くなっていきました。

 最近、一部メディアで話題になっているアドラーの心理学の中に、「原因論」と「目的論」という話があります。

 「原因論」は、その結果を引き起こした原因を探ることで問題を解決しょうとするのに対し、「目的論」は、意識・無意識を含めて「人の行動には目的がある」という考え方で、その行動で何を得られるのかを考えることで問題解決をしようとします。

 この場合でいえば、原因論では「社長の行動態度が批判の原因」となりますが、目的論では「社長を批判する真の目的は?」ということになります。

 原因論を取れば、社長の行動が正反対に変わっても、批判は変わらなかった訳ですから、原因が社長の行動とは言えません。目的論を取ると、真の目的はわかりづらく、会社の業績向上とか、仕事の効率を上げようとか、少なくともそういう目的には見えません。社員同士の共通の話題として、単に悪口の対象になっていただけかもしれません。

 こうやって考えると、それまでの社員からの社長批判は、それ自体が目的化していたのではないかと思われる部分があります。こういうことは会社の中では間々見受けられることであり、あまり建設的ではないことがほとんどですが、単純にお互いを知るということだけで解決してしまうようなこともあります。

 相手を熟知したうえでの批判というのは、実はあまり多くないのかもしれません。他人からの批判は、そこにどんな意味が秘められているのか、真の目的を今一度見極めてみる必要がありそうです。


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