【建設業「命」の現場で・11】第3章・線引きと選択と/多重防御での決断 画像 【建設業「命」の現場で・11】第3章・線引きと選択と/多重防御での決断

インバウンド・地域活性

 東日本大震災の被災地で最も重視されるのは、安全・安心だ。だが、どこまでの安全を求めるべきか、線引きは難しい。宮城県南東部には仙台平野が広がる。津波が来た時、避難に駆け上がる高台のない平野部で、どのような選択がなされたのか。
 宮城県沿岸部の防御計画は、県が設置した有識者会議「公共土木施設構造検討会」が11年9月にまとめた考え方を基本にしている。平野部については、南部の岩沼市をモデルに、津波の浸水深さと家屋の流失状況などの関係を分析。家屋の流失を防ぐ上で、浸水深を2メートル以下、流速を毎秒3・5メートル以下とすることが望ましいことが分かった。
 これを踏まえ、海岸保全施設や盛り土道路、宅地かさ上げなどの組み合わせで、浸水深が2メートル以下にできるのであれば、居住地として利用できるとした。同市玉浦西地区などは、こうした方針に沿って復興が進んだ。
 実施に当たっては課題も生じた。まず、防災インフラの位置付けだ。県は、かさ上げ道路など津波の力を減衰させる基盤を複数設けることを「多重防御」と定義。東日本大震災レベルの津波に対しては、浸水は許容するものの、家屋の流失は極力防ぐとした。
 一般的に、防災インフラは、設定外力から完全に守る前提で整備される。だが、同県の言うかさ上げ道路などは、防御施設ではなく、減災施設に過ぎない。こうした考え方は当初、国の復興交付金の対象としては想定されていなかった。「完全でもなく、ゼロでもない。国からすれば、中途半端な施設と見えてしまうのは仕方のないことだった。理解を得るまでに時間を要したが、最終的には認めてもらえた」。検討に携わった県土木部復興まちづくり推進室長の茂泉博史は説明する。
 税金を投入する以上、あいまいな領域は認めづらい。そのことは十分に認識していたが、優先させたのは被災者の感情だった。茂泉は「『同じ津波が来ても、これだけ安全になる』と具体的に示さなければ、住民は安心しない。そうしなければ戻ってきてもらえないと考えた」と振り返る。
 ジレンマのもう一つは、前提条件。今回の震災は干潮時に発生しており、満潮時と比べ潮位が1・18メートル程度低かった。仮に満潮だったら、津波の浸水被害はより広がっていたはずだ。このため国土交通省は、11年7月に公表した「津波浸水シミュレーションの手引」で、危険側を想定して朔望さくぼう平均満潮位(各月の最高満潮面の平均値)を前提条件の一つとした。
 だが、満潮位対応とすると、東日本大震災よりも厳しい前提条件になるため、既成市街地での復興が困難になる市町があることが分かった。新市街地の整備でもコストがより増大してしまう。最終的に県は「何としても人命を守る」という国の考え方に基づき、避難計画では満潮位を前提にするものの、土地利用については基本的に震災時の潮位を採用する方針とした。
 これが、今回の震災復興での一つの線引きだ。被災地に限らず、安全性と土地利用の自由度は、どちらかを優先すると片方が制約を受ける状況が生じやすい。どこかで割り切った決断が必要になる。茂泉は「それぞれの地域ごとに、被災者と納税者が納得する現実的な対応を考えざるを得ない」と話す。=敬称略
 (毎週火曜日に掲載します。ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・11/第3章・線引きと選択と/多重防御での決断

《日刊建設工業新聞》

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