【建設業「命」の現場で・10】第2章・住まいに明かりを/試された突破力 画像 【建設業「命」の現場で・10】第2章・住まいに明かりを/試された突破力

インバウンド・地域活性

 東日本大震災で被災したが、災害危険区域からは外れたため、自主再建で集団移転を行った久保野地区(仙台市宮城野区)。住民の伊藤淳・寿江夫妻には、思い出の資料がある。13年2月、デベロッパーとして参画するオオバが作成した事業概要書だ。移転先の図面、事業の進め方、コスト縮減アイデア、そして、やり遂げるという確固たる意志。抱いていた不安が払しょくされた。本当に移転できる-。ようやく確信を持てた瞬間だった。
 二人は、検討当初に仙台市の担当者が発した一言を鮮明に覚えている。「自分たちで汗をかいてもらわなければ移転はできない」-。それは本当だった。大詰めの時期には2カ月で28回の会合を持った。住民たちでも移転先を探そうと歩き回った。深夜まで書類に目を通し、午前0時を回ることも少なくなかった。ただ、市は突き放したわけではない。移転は可能とも明言してくれていた。住民側が真剣に取り組んだからこそ、市も同社も真摯しんしに対応し、3者がチームとして機能した。
 「皆が諦めずに汗をかいたから移転できた。行政に『何とかしてくれ』と言うだけだったら、移転できていない」。二人の偽らざる実感だ。
 同社が検討当初から完成に至るまでトータルで関与したことも功を奏した。事業スキームの構築や設計、許認可手続きなどを並行して進めることで、基本協定締結から1年7カ月で宅地引き渡しまでこぎ着けた。
 担当した同社東北支店震災復興事業部仙南PJ室主任の高橋篤史は、「誰のための仕事なのか、相手が見えていたから、仕事が大変でも頑張ることができた」と振り返る。高橋は入社7年目の若手。住民にもすっかり溶け込み、今では「篤史君」と下の名前で呼ばれる。寿江は、高橋の話題になると「最初は大丈夫かなとも思ったけれど、すごく変わった。本当にありがたかった」と目を細める。      
 同社東北支店副支店長の赤川俊哉は、大きな視点からも意義を感じている。被災地では大量の災害公営住宅が供給される。被災者を支えることはもちろん必要だが、公営住宅の増加は地方自治体にとっては将来的に大きな負担となる。できる限り自立再建を促すべきで、それを企業としても後押ししたい、というのが赤川の考え方だ。
 公的支援に依存せずに集団移転を実現したことは、今後の大規模災害対応を考える際のヒントにもなり得る。こうした集団移転は、高齢化・人口減少が進んだ地域での集落再編などにも応用できる可能性がある。
 ただ、久保野地区の事例がすべての答えでもない。赤川は、今回の成功の要因に「規模感」があると見る。19世帯だったからこそ、全員が一堂に会して本音で議論することができた。それでも合意形成や調整は容易ではなかった。「規模が大きくなれば時間もかかる。ブロック分けなど違う仕組みを作らなければいけないだろう」と赤川は指摘する。場所によって条件も住民の考え方も異なるため、どのような手法が最適なのかを見極めることも不可欠だ。
 何より、住民が本当の意味で主体性を持てるかどうか。被災地での住まいの復興に限らず、多くの地域に共通する再生のカギが、そこにある。=敬称略。第2章おわり
 (毎週火曜日に掲載します。ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・10/第2章・住まいに明かりを/試された突破力

《日刊建設工業新聞》

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