【建設業「命」の現場で 9】第2章・住まいに明かりを/“コーポラティブ”街づくり 画像 【建設業「命」の現場で 9】第2章・住まいに明かりを/“コーポラティブ”街づくり

インバウンド・地域活性

 仙台市宮城野区の久保野地区で、新たな暮らしが始まっている。19世帯と小ぶりだが、東日本大震災に伴う災害危険区域外で民間主導により集団移転を成功させた地区だ。復興整備計画にも位置付けられた。ここに至るまでの道のりは-。
 久保野地区の住民の大半(17世帯)は震災前、海岸から1キロほどの新浜地区に住んでいたが、大津波で家屋が全壊するなどの被害を受けた。災害危険区域への指定も検討されたが、海側にかさ上げ道路が新設されるため、最終的には外れてしまい、自立再建が求められた。住民の伊藤寿江は、「(行政主導の復興事業に)エスカレーターのように乗っていれば移転できると思っていた。青天のへきれきだった」と当時の心境を話す。現地での生活再建を望む住民もいたが、子育て世帯など一部には移転を望む意向が強かった。移転希望者でグループを作り、集団移転を模索することになった。
 事業主となったのはオオバだ。仙台市から新浜地区の復興街づくり計画を受託していた経緯があった。同社は、住民の意向を踏まえ、実現可能な方策を検討。同社が開発主となって移転先用地を取得し、購入者の意向に沿って造成した上で宅地を販売することにした。工事は、オオバ・竹中土木JVで手掛けた。
 まず重要になったのは、移転先の確保だ。予算や学区の兼ね合いなどを踏まえて探していた中で、久保野地区が見つかった。震災時にも浸水しておらず、安心感の面でも最適の場所だった。だが、移転先は農地。民間企業による宅地開発は原則、認められていない。農業振興地域から除外することが必要だった。仙台市との協議により、「津波被災地域コミュニティー移転再建事業」として復興整備計画に位置付けることで、農地転用という壁を乗り越えた。
 住民負担の軽減も不可欠な要素だった。民間事業であるため、防災集団移転促進事業のような支援は受けられない。オオバは、自立再建が可能になるようコストを引き下げるために、事業費還元方式を採用。契約段階で販売価格を提示し、工事費などコスト削減が実現するたびに分譲価格の低減に反映させていった。
 具体例の一つに接道条件面での妥協がある。久保野地区の場合、一部の宅地は、奥まった場所に配置して細い敷地で道路に接する「旗竿(はたざお)宅地」とした。不便は生じるが、全体に占める道路面積が減るため、分譲価格の引き下げにつながる。調整池を不要にできるよう開発規模も1ヘクタール以下に抑え、各戸ごとに雨水貯留槽を設けることで対応した。
 同社は、工夫によるコスト軽減効果とともに、それによって生じるデメリットも含め、選択肢を提示していった。こうして、宅地の大きさや配置、整備する基盤などについて住民らが話し合い、その意向を設計へと落とし込んでいった。「コーポラティブハウスの復興街づくり版」-。同社東北支店副支店長の赤川俊哉は、そう表現する。
 被災者が主体的に物事を決め、民間が事業を組み立て、仙台市が後押しして早期再建が図られた。復興の理想型の一つと言えよう。だが、始まりは理想とはほど遠かった。住民の伊藤淳は、当時の心情について「背水の陣だった」と話す。=敬称略
 (毎週火曜日に掲載します。ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・9/第2章・住まいに明かりを/“コーポラティブ”街づくり

《日刊建設工業新聞》

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