NASAが火星基地設計コンペ、建築家・曽野正之氏らチーム優勝 画像 NASAが火星基地設計コンペ、建築家・曽野正之氏らチーム優勝

インバウンド・地域活性

 ◇3Dプリンタ-で建物自動施工
 米国が2035年ころの実現を目指す火星有人探査が現実味を帯びてきた。米航空宇宙局(NASA)はこのほど、宇宙飛行士が長期滞在できる火星基地のコンセプト設計コンペを実施し、日本人建築家2人が参加するチームを優勝者に選んだ。卓越した発想と確かな設計力に加え、3Dプリンターによる自動施工という「夢の技術」の組み合わせが可能にした壮大なプランが話題を集めている。(編集部・牧妙)
 NASAは5月に「3D Printed Habitat Challenge」と呼ぶプロジェクトを開始した。4人が1年間滞在できる約90平方メートルの居住施設を、火星に存在する材料を使って3Dプリンターで建設する技術を広く民間から募集するコンペで、賞金総額は225万ドル。
 プロジェクトの第1段階に当たるデザイン競技の結果が9月27日に発表され、165件の応募の中から1位に選ばれたニューヨークの建築設計事務所、SEArchとCloudsAOによる「Mars Ice House(火星の氷の家)」など上位3チームに、合計4万ドルの賞金が贈られた。
 「火星の氷の家」は、氷の外壁で施設を覆うという独創性が最大の特徴。氷の特性を生かして宇宙放射線を防ぐことができる上、太陽光を内部にまで届けられるので長期滞在するクルーの健康管理にも役立つとされる。
 火星基地と言えば、これまでは地下構造を想定するのが一般的だったが、氷壁や内部の複層構造などの工夫で気温や宇宙線、気圧といった火星特有の課題を解決。より快適性の高い地上生活が可能になり、土壌に含まれるとされる有害物質との接触も避けられるという。
 チームにはCloudsAOの曽野正之氏と曽野祐子氏が参加。正之氏が火星に存在する水を利用して3Dプリンターで氷壁を構築することを発案。祐子氏は住居部分の設計や素材のリサーチを担当した。
 「基本的な環境条件が地球とは全く異なる点が難しかった」(正之氏)が、チームのコンサルタントを務める宇宙科学者やエンジニアの助言を受けて技術的な課題を解決していったという。正之氏は「技術面だけでなく、美しさや象徴性といった文化的な側面も表現することを目指した」とし、人類初の火星基地というシンボルの設計に込めた思いを明かした。
 人間の活動が大きく制限され、資機材も十分でない宇宙では不可欠だと考えられる3Dプリンター。NASAのサム・オルテガ氏は3Dプリント技術について、「深宇宙探査には非常に重要」と表現する。今回のコンペを含む一連のプロジェクトが現在の技術水準を大きく引き上げるきっかけになると期待されている。
 プロジェクトを通して得られる知識や技術の活用先は火星に限定しているわけではない。
 地球上でも、資機材の運搬が困難なへき地での住宅建設や災害の被災地の仮設シェルター整備といった例に適用できる可能性を秘めている。
 正之氏は3Dプリンターについて、「模型製作に使った経験はあるが、まだ実際の建築に活用する機会には恵まれていない」としながらも、米国の建築界では活用に前向きな意見が多いという。「量産制から脱して多様な一品生産に対応できる点、ロボットと小型無人機(ドローン)を組み合わせた自動施工などに期待が大きいようだ」と業界の動きを分析する。
 正之氏が建築家の視点で宇宙を模索し始めたのは約4年前。コンペのチームメンバーで事務所設立パートナーのオスタップ・ルダケビッチ氏と共にリサーチや提案活動を続けてきた。すい星を利用して宇宙ステーションを惑星間移動させる「コメットランナー」、宇宙エレベーターの技術を応用した空中都市「サードスフィア」などのアイデアを発表している。祐子氏は米コロンビア大大学院で月面住居プロジェクトに参画し、研究や設計業務に携わったという。SEArch/CloudsAOチームがコンペで優勝した翌日の9月28日、NASAは火星に液体の水が今も存在する証拠を発見したと発表。世界中で大きな話題となった。「火星の氷の家」の実現にますます期待が高まったのは間違いない。
 正之氏は設計案の実現可能性について、「構造計算も行い、氷の3Dプリントテストも成功した。理論的には可能だ」と力を込める。その上で、「遠隔操作ロボットの火星での材料採取や施工といった部分はこれからの実験で発展させる必要がある」と語る。
 NASAのプロジェクトが目指すのは火星に存在する材料を使って3Dプリンターで実物大模型を作ること。今後は製造技術と模型製作の2部門でそれぞれ賞金110万ドルを争うコンペを行う予定だ。

スコープ/NASA火星基地設計コンペ/建築家・曽野正之氏らのチームが優勝

《日刊建設工業新聞》

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