高い志で農業の未来を…ノーベル賞受賞・大村智氏インタビュー 画像 高い志で農業の未来を…ノーベル賞受賞・大村智氏インタビュー

インバウンド・地域活性

 日本農業新聞は、ノーベル医学・生理学賞を受賞した北里大学特別栄誉教授の大村智氏に単独インタビューした。農家の長男に生まれ、寄生虫駆逐剤「イベルメクチン」を開発し、途上国などの感染症の治療法確立や畜産の経営発展に大きく貢献した大村氏に農への思いを聞いた。

 ――大村教授の原点はなんですか。

 農家に生まれた私にとって、農業が研究の源流になっている。科学者の世界では、実験計画という言葉があるが、農家は当たり前にやっている。地道な作業を繰り返し、作物ができ、家畜が育つ。まさに科学的な営みだ。そういう意味で農業は科学であり、農家は科学者である。

 私自身、父から農業のいろはを教わって育った。毎日農作業に励み、中学を卒業するころには村の農業青年がやる仕事を全てこなせるようになった。その経験や培った精神が研究者としての大きな糧(かて)になった。

 ――農業の未来をどうみますか。

 私が農作業をしていた時「こんな農機具があればいいな」といつも思っていた。だが、あっという間に自分の考えをはるかに超える農機が次々と登場した。目先のことだけでなく、長期的なことまで見据えて仕事をしなければならない。

 この経験を踏まえ、若い農家や研究者に「可能性は満ちているんだ」と言いたい。50年後も100年後も、豊かな田園風景や自然を残していかなければならない。その点、日本の農業は多くの試練を克服するだけの技術力を持っている。

 ――過疎・高齢化で農村の疲弊が問題になっていますが。

 古里や米作りへの強い思いは日本人の本能であり、いつも心の中にある。都会に住んでいても「農村が寂れたら悲しい」という気持ちを忘れたことはない。そんな思いをより育む教育が大切だ。

 ビルに囲まれた都心では学べないことがたくさんある。自然の恐ろしさや美しさを知ることは人生に欠かせない。農村で森林が保たれているからこそ、都会で水が飲める。そのつながりを都会の人たちが自覚するためにも、農村の現実を知る機会がもっと必要だろう。

 ――農家にメッセージをお願いします。

 尊い産業であるにもかかわらず、日本の農業はTPPや災害など逆風下にある。非常に厳しいが、農家には希望を持ってほしい。そう強く願う。

 細菌学者のパスツールは「幸運は準備された心を好む」という言葉を残したが、私は「幸運は高い志を好む」という言葉を農家に届けたい。「農業はこうありたい」。その思いが強ければ強いほど、実現する。逆に駄目だと思ってしまえば、その方向に向かう。農の未来に希望を描こう。(聞き手・尾原浩子)

<プロフィル>  おおむら・さとし

 1935年、山梨県神山村(現在の韮崎市)生まれ。実家は米や養蚕などの農家。感染症治療に役立ったイベルメクチンだけでなく、微生物が作り出す有用な化合物を数多く発見し、畜産農家の経営発展にも貢献した。北里大学特別栄誉教授、北里研究所顧問、女子美術大学名誉理事長などを務める。

高い志で農業の未来描こう ノーベル医学・生理学賞受賞 大村 智氏インタビュー 

《日本農業新聞「e農net」》

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