【建設業「命」の現場で 5】第1章 被災地にて/そこにある違和感 画像 【建設業「命」の現場で 5】第1章 被災地にて/そこにある違和感

海外進出

 2013年元旦。記者の元に1通の年賀状が届いた。
 「採用されると、4月から(福島県の)浜通りの市町村で勤務することになります。どれだけお役に立てるのかおぼつかないのですが、最善の努力をするつもりです」。差出人は、元建設省(現国土交通省)河川局長の尾田栄章。1995年の阪神大震災では現地対策本部に詰めて対応に当たった。河川分野を軸に防災や環境に造詣が深く、退官後は国連の「水と衛生に関する諮問委員会」など水分野のボランティア活動に携わっていた。
 転機は、12年11月に電車内で見かけた福島県による任期付き職員の募集広告。現役時代、東北地方建設局(現東北地方整備局)企画部長として、常磐自動車道の路線決定を地元に説明して回るなど浜通り地方との縁もあった。すぐに応募し、無事に合格。今は福島県広野町の職員として復興業務に従事する。福島第1原発から最も近くに役場が残っていることが、同町を志望した理由だ。
 「現地に行ってみないと分からない。自分の目で見て感じないと」。赴任前、そう話していた。
 今年8月、尾田を訪ねた。「ものすごく画一的だ。もう一度、地域でしっかり考えて見直すべきではないか」。震災復興に対する見解を聞くと、そんな答えが返ってきた。
 行政が事業に着手する際、概算の事業費を把握するため、一定の基準に沿って計画を立案する作業が生じる。この段階の計画はあくまでイメージという水準のもので、現地の実情などを踏まえ、何度も更新しながら良い計画に仕上げる必要があるというのが、尾田の考え方だ。だが、必ずしもそうはなっていない。「たたき台だったはずの計画が金科玉条になっていないか」。現役時代にも感じたことがある疑問が、再び芽生えている。
 「造ることによる弊害が何もないのなら、造る方がいい。しかし、何事にも負の側面が存在する」と尾田は言う。例えば、高い堤防を造れば、海岸と地域が切り離され、谷の底のようになってしまう場所も生じる。もちろん、堤防の高さを下げると乗り越えてくる津波の頻度は増すが、住まい方などによって命を守ることはできる。何を優先するかが問われているのだ。
 除染作業にも似た構図がある。表土を入れ替えることにより空間放射線量は低減するが、地表面の豊かな生態系も除去される。「除染によって得られる効果と失う環境のどちらを取るのか、という選択の問題のはずだが、そうした議論になっていない。もしも国交省が除染を担当していたら、環境省は環境破壊だと批判したと思う」。除染の必要性は認識しているが、今のあり方が最善かどうかには疑問がある。
 自然の荒々しさから命を守り、人間が使いやすいように自然を飼いならしていく。それが尾田の考える建設業の役割だ。広野町の印象については、「ヒューマンスケールの自然に恵まれた豊かな地域」と話す。一方で、「飼いならしやすい自然なので、力を入れすぎると良さが壊れてしまう」とも見ている。
 「その地域にとってより良いものは何かを、地域の人たちが真剣に考える以外に解はない」。
 そうした思いを強くしながら、一職員として被災地の今を見続けている。=敬称略
 第1章おわり
 (毎週火曜日に掲載します。ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・5/第1章・被災地にて/そこにある違和感

《日刊建設工業新聞》

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