【建設業「命」の現場で 3】第1章 被災地にて/娘たちが安心して帰ってくる場所 画像 【建設業「命」の現場で 3】第1章 被災地にて/娘たちが安心して帰ってくる場所

インバウンド・地域活性

 ◇誤指示は人を殺す-安全にこだわる理由
 「復興のためにせっかく来てもらっていて、けがをするようではばかばかしい。建設現場は危険を伴わざるを得ないが、工夫すれば安全に作業できる。最終的には、ルールをどう分からせて、守らせるかに尽きる」。宮城県女川町の復興工事を担う鹿島・オオバJVで、派遣職員の立場から安全管理を担当している原吉憲はそう話す。
 ついのすみかにしようと東京から女川に移住し、東日本大震災で被災した。大津波が女川の街をのみ込む姿を、ビルの上で目撃している。押し寄せた水は、足首のところで止まった。「僕は3・11で命の重さが身に染みた」。そのことは、今の業務ともつながっている。
 「自分の判断だったら、万事休すとなっても後悔はない。一番怖いのは、人の指示で殺されること。間違った判断に従って最後になるような…」。
 原の言葉は、時に鋭く突き刺さる。
 震災時、親類の経営する電気工事会社に勤務し、海に面したビルの管理を担当していた。揺れが収まると、損傷などを点検し、いったんは自宅に帰ったが、再び職場へ向かった。「何で戻ったのか、と今でも思う。『まだ勤務時間内だ』というスイッチを切れなかった」と振り返る。
 津波が来ることが分かり、原は、避難するかどうかも含めて各自の判断に委ねてほしいと現場の上位者に提案した。そして、解散となってから屋上に向かい、一命を取り留めた。
 危機管理は、人間の意識に大きく左右される。それは建設現場も同様だ。「安全はコンプライアンス(法令順守)だ。経営者やリーダーの意識が低いと、働く人の意識も同じようになり、安全は育たない」。だからこそ、自分の役目は大きいと考えている。「最後は人と人。どうやって安全の意識を染み込ませればよいのか、相手を見て考えるようにしている」。
 被災地としての特性も忘れてはならない。新規入場者教育では、「津波の時には海抜20メートル以上の所にとにかく逃げてほしい」と語気を強くして訴える。津波の勢いを遮る物は何もない。それが復興現場の現実だ。
 「全国からたくさんの人が来て、新しい街を造ってくれている。本当にありがたい。僕は、仮設住宅とはいえ、家に帰って手作りのご飯を食べられる。皆に申し訳ない」。一人の被災者として、現場で働く仲間へ異なる視線も持っている。
 自分もかつて、出張しながら工事現場に勤めた経験があり、大変さを知っている。工事関係者の多くは単身で被災地に来て、プレハブ宿舎に寝泊まりする。近くには息抜きができる居酒屋もない。「缶詰め状態のストレスが引き起こす事故もあると思う。職人さんたちに気持ちよく仕事をしてもらえるかどうかを心配している」。解決が難しい問題だからこそ、気に掛かっている。
 原は、海の近くでのんびりとした暮らしができる女川を愛しており、生涯住み続けるつもりだ。だが、娘たちが都会に行きたいと言ったとしても、反対はしない。「帰る場所があるから、思い切り外に行ける。それがなければ放浪ではないか。娘たちが安心して帰ってくることができる場所を造りたい」。その思いが、力の源になっている。=敬称略
 (毎週火曜日に掲載します。ご意見・ご感想をメールでお寄せ下さい。東北支社・牧野洋久、mak@decn.co.jp)

建設業「命」の現場で・3/第1章・被災地にて

《日刊建設工業新聞》

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