親族外承継という選択肢「事業引継ぎ」と向き合う、後継者不在による廃業防げ 画像 親族外承継という選択肢「事業引継ぎ」と向き合う、後継者不在による廃業防げ

マネジメント

 経営者の高齢化が加速する中小企業では、今後10年間で半数に当たる約200万社が世代交代期を迎えるとみられる。少子化で親族内承継が困難になるなか、社外に後継者を求めたり、会社を他社に譲渡するM&A(合併・買収)が事業承継の新たな形として現実味を増している。国は後継者不在を理由に中小企業が廃業に追い込まれることがないよう支援体制を拡充。早期の対策の重要性に警鐘を鳴らすが、事業承継は各社それぞれ、さまざまな事情がからみあうだけに一筋縄ではいかないのが実情だ。「親族外承継」の方策である「事業引継ぎ」という選択肢に経営者はどう向き合うべきかを考える。  仲介による第三者への承継で雇用が守られた 年商約10億円、20人ほどの従業員を抱える都内の卸会社は、事業承継をめぐり状況が二転三転。最終的に他社に事業譲渡されるまで多大なエネルギーを費やした。 つまずきのきっかけは先代経営者の死去に伴い、全く業務経験のない主婦だった娘が取締役に就任したこと。新体制では旧知の同業者や幹部社員に社長就任を打診するものの断られ、やむなく自身が後継社長に就任。ところが取引先から難色を示され、事業存続の危機に直面する。 一連の相談に応じていた「東京都事業引継ぎ支援センター」は、業績堅調で利益も計上している同社の事業価値を前向きに評価。従業員も事業継続を望んでいたことからM&A(合併・買収)による事業継続を提案。結果、民間の仲介業者を通じて数カ月後には第三者による承継が成立。現在は買い手企業のグループ会社として雇用が守られた。 他方、経営者同士がM&Aで意気投合していたにもかかわらず、交渉過程でのささいな行き違いから破談になったケースやM&Aは実現したものの譲渡企業のビジネスモデルの陳腐化が早く、これに借入金負担が重くのしかかり結局、会社は破産となったケースなど、親族外承継はさまざまな関係者が関わるだけに、予測しなかった事態に遭遇する。 年3万件の廃業のうち1割は後継者不足 事業承継の成否はさておき、共通するのは親族の中から適切な後継者が見つからない場合、起業を希望する個人への事業譲渡やM&Aといった選択肢があることや、これらを後押しする枠組みがあることがあまり認知されていない現実だ。そもそも「どこに相談すればよいのか」と一歩を踏み出せないでいる経営者は少なくない。 国は年間3万件の廃業件数のうち、業績は悪化していないにもかかわらず後継者不在により廃業に追い込まれた中小企業が1割ほどあるとみている。長年培われた技術やノウハウが散逸し、雇用の場が失われることは地域経済のみならず日本全体にとって大きな損失だ。 継承にさまざな選択肢。マッチングに課題残る 後継者不在の中小企業の事業を起業意欲のある社外の人材や他の会社に引き継ぐことを「事業引継ぎ」と総称し、国はさまざまな施策を講じてきた。とりわけ、中小企業を専門とするM&A仲介は民間企業にとって採算に乗りにくく、ビジネスとして育ちにくいことから国が施策強化を通じて支援する姿勢を鮮明にする。 専門家が中立的な立場で事業承継に関わる無料相談に応じる「事業引継ぎ支援センター」を全国31カ所に設置。2015年度中には全ての都道府県に拡大する予定だ。 後継者となって第2創業に取り組む人材を紹介する「後継者人材バンク」の構築にも乗り出している。既存の「事業引継ぎ支援センター」に人材バンク機能を持たせ、後継者難の問題に直面する中小企業と、事業を興したい創業予備軍を橋渡しする。地域金融機関が開催する起業セミナーなどの参加者などに登録を働きかけている。 この3月には中小企業・小規模事業者のM&Aに特化した初のガイドラインも策定。事業引き継ぎの流れや留意点、トラブル時の対応などを定め、M&Aに対する抵抗感の払拭(ふっしょく)や仲介業者の新規参入に努めている。 ただ、11年の「事業引継ぎ支援センター」の開設から4年弱。全国で5000件を超える相談に対し、成立件数は152件にとどまる。経済産業省・中小企業庁では「マーケットの大きさからすればまだまだ成果が少ない」と指摘。「センター」の利用促進に加え、地域の枠を超えた全国規模での事業マッチングをどう実現するかも課題だ。 後継者を確保できなかったオーナー社長が突然、会社清算を発表し、取引先や従業員が困惑するケースは珍しくないという。中小企業は地域経済の担い手―。承継にはさまざまな選択肢があることをまず認識し、そのなかで最適な手段を検討することが円滑な事業承継の第一歩となる。 「あと5年、3年早く相談に来てくれていれば」(東京都事業引継ぎ支援センター・玉置氏) 経済産業省から中小企業専門のM&A支援会社を経て、東京都事業引継ぎ支援センターに転じた玉置恵一氏は早期の対策の重要性を訴える。 あと5年、3年早く相談に来てくれていれば、と思う残念なケースが多々、見受けられる。中長期的な視点に立って事業の強みや経営を見つめ直せば、円滑に引き継ぐ方策が導き出せたのにと。 経営者の最後の仕事は後継者探しと認識し、まずは頭の整理や「気づき」を得てもらうためだけでも構わないので最寄りの「事業引継ぎ支援センター」に足を運んでほしい。 他社の経営資源を譲り受け事業を拡大したいと考える企業は案外多い事実にも目を向けてもらいたい。東京の事業引継ぎ支援センターの場合、譲り受け希望企業、すなわち買い手企業の半数弱を年商10億円超の企業が占める。このなかにはグローバル企業や東証1部上場企業もある。外部資源を活用し、新規事業を始めたいとのニーズがうかがえる。 事業承継が成功しやすい企業にはいくつかの特徴がある。事業の強みが明確なことや財務内容が毀損していないことに加え、経営の「見える化」が図られているかもポイントとなる。とりわけ小規模企業の場合には社長への経営の依存度が高いため、経営者が交代すると、とたんに事業が回らなくなるケースが見受けられる。こうした事態に陥らない体制づくりも円滑な事業承継には必要だ。(談)

親族外承継という選択肢「事業引継ぎ」と向き合う

《ニュースイッチ by 日刊工業新聞》

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