リスクマネジメントの継続が不可欠――海外事業の拡大で高まる「保険の重要性」 画像 リスクマネジメントの継続が不可欠――海外事業の拡大で高まる「保険の重要性」

マネジメント

 ゼネコン各社が収益基盤の強化に向けて海外事業に一段と力を入れている。1000億円近い大型プロジェクトの受注に加え、企画・設計といった川上段階からの事業参画、海外の得意先から特命受注など、規模拡大とともに受注戦略も多様化している。一方で、工事中の損害や現地特有の商慣習、想定が難しいテロや疫病など、対応すべきリスクの範囲も広がり、備えのあり方が問われている。リスク対応のツールとして、保険の重要性も高まってきた。海外事業をめぐるリスクには一般的に、▽政治(政情・許認可・政策・税制・法律)▽経済(物価・金利・為替・資金調達)▽社会情勢▽気象(自然災害)▽不可抗力(戦争・暴動)―などが挙げられる。建設事業の場合は、完工の前後で工事の遅延、設計・施工の不備、労働争議、事故、瑕疵(かし)などのリスクにも十分な備えが必要になる。こうしたリスクに対応する保険として、▽物的財産保全▽営業▽訴訟▽人的▽犯罪▽財務―に応じたさまざまな商品が用意されている。ただ、小規模な損害から発生頻度は低いながら発生すると損害が大きくなる事件・事故まで、すべてに対応する保険への加入は、コスト面で難しいのが現実だ。プロジェクトベースでの保険契約と、包括的保険契約の選択に迷う企業もあるといわれる。
 海外建設協会が行っているセミナーなどで講師を務める世界的保険会社・ウィリスグループの森島知文ウィリスジャパンサービス上席顧問は、「リスクに応じた最適な保険を手当てし、手当てできないのであれば身を守る最善策を契約書で講じるべきだ」と指摘する。海外の建設工事では、保証保険・履行ボンド、工事保険、賠償責任保険と、入札から引き渡しまでの各段階ごとにさまざまな保険が掛けられるが、森島氏は「ただ入ればいいというわけではない。約款の内容を詳細に見るべきだ」と強調する。例えば、資機材の海上輸送を伴うなら、保険がカバーする範囲が荷下ろしまでか、あるいは現場到着までなのか、明らかにしておくのは当然だ。仮に基礎工事からの波及損害に対する補償が特約条項だった場合、上物の業者は保険に加入していても基礎工事による損害は補償されない。こうした保険契約の内容を精査し、地域によっては日本国内で契約できる保険と、現地手配の保険とを組み合わせ、リスクマネジメントを継続させることが重要になる。
 過去に発生した事故では、「貴社の作業への損傷免責」の内容・範囲や、第三者の死傷の有無などを理由に、保険会社が保険金の支払いを拒否した事例もある。プロジェクトによってどのような保険が適しているかも違ってくる。分割発注か、一括発注かもその一例だ。分割発注で受注した工事について、建設業者AとBがそれぞれ賠償責任保険を掛けた場合、業者Aの下請のミスで業者Bの下請の物品が損壊した場合は補償の対象になるなど、手配する主体によって保険でカバーされる範囲が左右される。一括発注でも被保険者によっては、発注者と建設業者間の損害賠償責任が担保できなくなることがあるという。
 リスク管理や加入する保険について、日本企業と海外企業を比較した場合、組織的な対応や保険選定手段などが異なる点が指摘される。日本企業は、組織の部門ごとにリスク対応が図られ、経営の中枢で統括されるケースは少ない。これに対し海外企業は、キャッシュバランスも考慮したリスクマネジメントと保険管理の機能を財務部門に集約し、同部門に「リスクマネージャー」を配置することがある。保険商品について、日本では主に代理店が流通を担うが、海外企業には、保険会社から中立な立場にいる「保険ブローカー」を選定し、最適な保険の選択を任せるところが少なくない。誘拐や脅迫といった特殊事情に対応する保険への加入については、普及が犯罪を助長しかねないため、各国政府の姿勢には温度差がある。日本では一般的な販売はされておらず、加入も表立っては推奨されていない。発動は海外に限定されている。リスクマネージャーの配置や保険ブローカーの活用は海外事業を行う上で必須とは言えないまでも、森島氏は「どこまでの損害に耐えられるか検討するのがリスクコントロールの手法だ」と強調する。企業経営の視点からは、発生頻度が低いながら企業存続に致命的な影響をもたらす損害を保険でカバーした上で発生頻度の多いリスクの防止と保険加入に経営資源を振り分けるのが現実的といえそうだ。

海外事業拡大で重要性増す保険選択/広がるリスクどうカバー/補償内容の精査不可欠

《日刊建設工業新聞》

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