【中小企業の『経営論』】第2回:「仕事は盗むもの」というだけで足りるのか 画像 【中小企業の『経営論』】第2回:「仕事は盗むもの」というだけで足りるのか

人材

 中小企業の人材育成は、大手企業に比べると、仕組みやノウハウがまだまだ整っていないことの方が多く、実際の業務を通じたOJTによって行なわれることがほとんどだと思います。こういう中で、今でもよく言われるのが、「仕事は教わるものではなく盗むものだ」ということです。

 特に中小企業の場合は、整備されたカリキュラムの下で研修を受けたり、上司や先輩から手取り足取り細かく指導されたりという機会は、非常に少ないか、場合によってはほぼ皆無に近く、多くの人は、片手間でしか教えてもらえない環境の中で、自分なりに上司や先輩の仕事ぶりを観察し、自分なりに工夫しながら仕事を覚えて行ったのではないかと思います。

 こういう経験をして育った人たちが、仕事を指導する立場になっていますから、なおさら強く「仕事は盗むもの」と言うのだと思います。

 仕事ができる人の行動を見ていると、確かに「仕事を盗む」「仕事をまねる」ということを意識的にやっています。その方が回り道が少なく、自分の成長にも役立ちます。「仕事は盗むものだ」という話には、十分な説得力があると思います。

 しかし、このやり方は、言い方を変えると、とにかく師匠のやり方を見て覚えろという、徒弟制度のようなものです。中小企業の人材育成は、まだまだこのパターンが多く、なおかつそれが当然であることのように捉えられている部分があります。

 ただ、企業の人材育成として考えたとき、ここには大きく二つの問題があります。一つは相手の資質や性格による個人差が大きいということ、もう一つは身に付けるまでに時間がかかりすぎることです。要は再現性が不足していて効率が悪いということになります。

 この徒弟制度の最たるものに、料理人の世界があります。初めは洗い物や掃除のような下働きだけで、包丁を持たせてもらえるまでに何年もかかると言われるような世界ですが、最近ある老舗寿司店では、違った取り組みがされているという話を聞きました。

 新人の板前であっても、一連の調理技術を研修としてきちんと教えていくのだそうです。当然包丁も持たせ、魚をさわらせ、寿司も握らせます。下働きだけに閉じ込めず、板前としての技術を学ばせます。

 その理由を聞くと、一つは、現代の若者気質で、単純作業ばかりではすぐに飽きて辞めてしまうということ、もう一つは、半人前の者を、お店としていつまでも抱え続けることが保証できないからだそうです。一人ひとりの生活を成り立たせるために、一日でも早く自力で仕事ができるように育てる責任があるからだということでした。

 「仕事は教わるものではなく盗むものだ」という考え方は、私自身も正しいと思っています。仕事ができると言われる人達は、みんなそれを実践しています。その一方で、仕事を教える立場の者が、「仕事は盗むものだ」といって手を下そうとしないのは、相手の将来に責任を持とうとしていない、ただの怠慢だと思います。

 「仕事は盗むもの」であることは正しいとしても、それだけでは足りないことは間違いありません。人材育成の環境が不足しがちな中小企業であっても、今までよりももう一歩、“教えること”も必要だろうと思います。
《小笠原隆夫/ユニティ・サポート》

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